サイト内
ウェブ

ゾウに「法的な人格」を認めず、米国の裁判所が判決

  • 2022年7月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米ニューヨーク市のブロンクス動物園に暮らす51歳のアジアゾウ、ハッピーに「人権」を認めない。ニューヨーク州の最高裁判所はそう判決を下し、高度な知能を持つ動物の権利をめぐる裁判が幕を閉じた。2022年6月14日の判決では5対2でハッピーには身体的自由権、つまり不当に拘束されないという基本的人権はないと判断された。

 ニューヨーク州最高裁判所は2021年、動物権利団体ノンヒューマン・ライツ・プロジェクト(NhRP)による訴訟を審理することに同意した。NhRPは2022年5月18日の口頭弁論で、ハッピーを法的に人だと認めて自然保護区に移すべきだと訴えた。

 NhRPは2018年からハッピーの権利を求めて訴訟を続けており、今回の裁判で4カ所目の法廷だった。また、動物の権利をめぐり、米国で過去最高位の裁判所で争われた裁判となった。

動物に「法的人格」を認めるべきか

 法的に「人」である(personhood)とは、それが権利または責任能力を持つ存在であることをいう。世界には、法人や水域、動物などに法的人格を認めている国もあるが、米国にはそうした特例がない。つまり米国において動物は「物」なのだ。

 今回の判決はその見方を支持し、ゾウの知性がどんなに高くても、不法に拘束されない権利は人間にしか適用されないとした。ジャネット・ディフィオーレ裁判長は、判決文で次のように記している。「ゾウがすばらしい能力を持っていることに疑いはないが、ハッピーの人身保護を求める申立人の訴えは退ける。人身保護は不法に拘束された人間の自由権を守るための手続き上の手段であり、人間以外の動物には適用されない」

 一方、ローワン・ウィルソン判事は、反対意見の中で人身保護が人間にだけ適用されるという考え方に異議を唱え、人身保護は「法律の下で動産とみなされていた奴隷の拘束に対抗する手段として盛んに利用された」と指摘した。

 NhRPは声明で、この「力強い反対意見」は動物の権利をめぐる闘いにおける「極めて大きな勝利」だと述べつつも、ハッピーを解放できなかったことは残念だとしている。

「これはハッピーにとっての敗北です。ハッピーの自由は今回の訴訟にかかっていたので、今後もブロンクス動物園の展示物として監禁されたままになります。しかしハッピーだけでなく、私たちが最も大切にしている自律、自由、平等、公正といった正義の価値と原則を守り強めたいと願う人、恣意的な解釈がなされない法制度を願う人、どんな存在であっても基本的権利を否定されないことを願う人全員にとっての敗北でもあります」

 ブロンクス動物園にコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。

次ページ:知的で社交的な動物にふさわしい暮らしとは

知的で社交的な動物にふさわしい暮らしとは

 NhRPを創設したスティーブン・ワイズ理事長は2021年のナショナル ジオグラフィックの取材に対し、ハッピーは「元気をなくしたゾウ」であり、「ゾウは動くように進化してきたのに、ハッピーはただそこに立っているだけなのです」と述べている。

 ワイズ氏はハッピーについて、現状のように1エーカー(約0.4ヘクタール)の囲いの中で1頭だけで暮らすのではなく、もっと広い自然な場所に移して他のゾウと一緒に暮らせるようにすべきだと主張している。ゾウは知的で社交的な動物なので、「独居監禁」ではなく仲間と一緒に暮らす必要があるとワイズ氏は訴える。

 一方、ハッピーが40年以上暮らしているブロンクス動物園のジェームズ・ブレヘニー園長は、「ハッピーは衰弱していません。ハッピーはとても満足しており、何年も世話をしてきた獣医師や、毎日何時間も接している飼育係などによって頻繁に体調をチェックされています」と、2019年にNhRPの支援者に宛てたメールに記している。同園は米動物園水族館協会(AZA)の認定を受けている。

 また同園は、ハッピーは孤独ではないと反論している。フェンスで仕切られてはいるが、もう1頭のゾウ、パティがいるからだ。同園が2020年に発表した声明によると、2頭は別々の囲いで暮らしてはいるが、互いを見たり、触れ合ったりすることができるという。

 ただし、この2頭を一緒に生活させる試みは成功していない。ブレヘニー氏は2019年のメールに「どちらも一緒にいることを好まず、程度は異なるものの確実にストレスを感じていました」と書いており、のちに別のメディアには「同じ部屋に住みたくない姉妹のようです」と話している。

 米国には1頭だけで飼育されているゾウが他にもいるが、NhRPがハッピーの代理となることを選んだのは、ハッピーがゾウの認知能力に関する研究において重要な役割を果たしていることが理由の一つだ。2005年、ハッピーは動物の知能を測定する「ミラーテスト」に合格した初めてのゾウとなった。ハッピーの額に白い「X」印を付けて鏡を見せると、何度も鼻でその印に触れようとした。つまり、鏡に映った自分を認識したということだ。このような認知能力を持つ動物は非常に少ない。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2022 日経ナショナル ジオグラフィック社