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若者に広がる気候不安、95%超が子の将来を懸念、絶望避けるには

  • 2022年7月4日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ケイティ・シエリンスキーさんとアーロン・レガンバーグさんはミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)のカップルだが、自分たちを「気候変動ベビー」ととらえている。ふたりが大人になったのは、人類が環境に悲劇的な影響をもたらしていることが認識され始めた頃だった。

 ふたりは2017年に結婚するまでの10年近く、ある倫理的な問題に頭を悩ませてきた。それは、すでに人であふれている地球に新たな命を送り出すべきかどうか、という問いだ。ケイティさんは、気候問題に取り組む味方、つまり健全な地球のために闘う人間を育てようと主張したが、アーロンさんは、わが子が直面する未来に不安を抱いていた。

 同様の葛藤を抱えているのは、このカップルだけではない。2020年11月に学術誌「Climatic Change」に掲載された、27〜45歳の米国人607人を対象に実施されたアンケート結果によれば、回答者の59.8%は、子どもを産むことによる二酸化炭素(CO2)排出量の増加を懸念していた。また96.5%は、気候変動が起きた世界で生きるわが子の人生について懸念を抱いていた。

気候不安の拡大

 この数十年間に生まれた人々にとって、子どもをもつかどうかは人生を左右する多くの選択の1つにすぎない。この世代の人々には、両親や祖父母が想像もしなかった未来が待ち受けている。

 例えば、米カンザス州西部の20代の若者は、長引く干ばつや地下水の減少で農業のあり方が変わらざるを得なくなる中で、家業の農場を継ぐべきだろうか。アリゾナ州フェニックスでは2019年に気温が100℉(37.8℃)を超える日が103日もあり、2050年にはイラクのバグダッドのような気候になると予測されているが、ここで大学を卒業した若者は、もっと北部の涼しい地域に移住すべきなのか。バージニア州バージニアビーチの若い夫婦は、海面上昇で浸水の恐れがある土地に30年のローンを組んで家を買ってもいいのだろうか。

 その結果、大規模な気候の混乱というレンズを通して将来を見つめる若者たちと、最悪の事態を目にする前にこの世を去る年上の世代との間にギャップが広がっている。

「大人からは、まだ16歳だからそんな心配をしなくてもいい、と言われます」と、ニューヨーク市ブルックリン区に住むセリン・キムさんは不満をもらす。「でも私たちは、地球の時計が刻々と進むのにおびえながら成長してきたのです」

 まもなく「気候変動ベビー」の人口は、気候危機が拡大する以前に育った世代を上回る。世論調査によれば、若者たちは年長者よりも気候変動に対してはるかに強い懸念を抱いている。だが、急速に増えるこの若い世代が、手遅れになる前にCO2排出量を削減するよう、世界に断固たる行動を取らせることができるかどうかは予測できない。

 強い不安に押しつぶされそうな若者たちもいる。2021年12月に医学誌「The Lancet Planetary Health」に発表された世界規模の調査では、対象となった1万人の若者の半数以上が「人類は滅亡する」という見方に同意した。回答者のほぼ半数は、地球の状況に対する不安によって、睡眠や学習、遊び、楽しみなどが妨げられていると回答している。

「若者たちは、環境の激変を目の当たりにするのと同時に、強大な権限を持つ大人たちが連帯的な生き残りよりも自己の利益を優先する姿を何度も見てきました。その経験が回答に反映されているのでしょう」と気候活動家でライターでもあるダニエル・シェレルさん(31)は指摘する。

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親世代の「地球最後の日」とは違う

 ニューヨーク州ブルックリン区に住む学生、ラッセル・ベアさん(17)も、こうした考えを持つひとりだ。ベアさんはもう、世界のリーダーたちが気候問題に迅速に対応してくれるとは期待していない。

「先生たちは『私たちの世代は地球をめちゃくちゃにしてしまった。君たちの世代が修復してくれ』と言います」。だが、ベアさんはこうした大人たちの言動に違和感を覚えている。若者たちには手遅れになる前に事態を改善できる地位も権力もない、と考えるからだ。

 ベアさんの母親のダニエル・オースロタスさんは息子を慰めようと、どの世代もそれぞれの問題に直面してきたことを話した。米国には戦争や苦難が何度も繰り返されてきた歴史がある。ダニエルさんも少女時代には核攻撃が起きるかもしれないという脅威にさらされ、学校では机の下にもぐる訓練を定期的にやらされた。

 だが息子のベアさんは、当時と現在では根本的な違いがあると感じている。「冷戦時代には誰かが行動、つまり攻撃を仕掛けない限り、事態が悪化することはありませんでした。でも今では、私たちが何も行動しないことが事態を悪化させるのです」

「気候不安」を行動に変える

 米ニューヨーク大学で心理学を教えるエミリー・バルセティス准教授(42)は、明確な世代間のギャップをわが家で目の当たりにして驚いた。バルセティスさんは、ミレニアル世代よりわずかに年上だが、10代の頃、飢えたホッキョクグマの映像をテレビで初めて見たとき「我慢できずに」テレビを消したことを覚えている。「きっと受け入れたくなかったのだと思います」。今は息子のマティ君(4)が、ホッキョクグマが直面している当時と同じ危機を幼稚園で教わっている。

 1990年代なら、気候変動は子どもたちが考えるには抽象的過ぎるテーマと見なされていたかもしれない。だが時代が変わったことをバルセティスさんは痛感した。ある晩、使い捨ての食器で夕食を用意すると、マティ君が急に泣き出して、「ママ、このお皿はリユースもリサイクルもできないの」と叫んだのだ。

「私は大きなショックを受け、自分がそんな罪悪感を持たない古い世代の人間であることを実感しました」

 米ワシントン大学ボセル校では、ジェニファー・アトキンソン准教授が、気候変動に対する不安を抱える若者たちに向けて「エコグリーフ(気候悲嘆)」に関するクラスを開講している。アトキンソンさんは、受講する学生たちが自分の感情とうまく折り合いをつけられるよう、グリーフ(悲嘆)の儀式やマインドフルネスの実践方法を指導している。最初の一歩は、自分の苦悩を全面的に受け入れることだという。

「この地方では、長い灰色の冬の後に訪れる夏が大きな楽しみでした」と、アトキンソンさんは振り返る。「でも今では、その楽しみを山火事のシーズンに奪われたせいで、外では息もできないほどです」。さらに2021年の夏には、巨大なヒートドームがこの地方の上空に停滞し、太平洋岸北西部としては過去にない記録的な高温が数週間も続いた。

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 学生たちは20年余りの人生で経験した気候変動に「悲しみ、恐怖、怒り」が混在した感情に襲われているという。アトキンソンさんは、このような「ネガティブな感情」から逃げないよう学生たちに指導している。あってはならない感情ではなく、何かを失ったと感じるときの健全な反応だからだ。

「悲嘆は、私たちが愛するもの、失いたくないものをはっきりと示してくれます。怒りの感情は、不当な行為に戦いを挑む力を与えてくれます」とアトキンソンさんは話す。「学生たちには、こうした激しい感情を、より良い世界を作り出すための強大なパワーとして受け止めるように促しています」

積極的に活動する若者たちも

 将来への不安は尽きないが、一筋の光をもたらすニュースもある。ワシントンD.C.にあるシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターのアレック・タイソン氏によれば、米国では気候変動に対する懸念を最も強く抱く若い世代が、自分にもできることがあるという自信を最も強く抱いているという。ミレニアル世代とZ世代(1990年代半ばから2010年頃までに生まれた人々)の大人たちは他の世代に比べ、オンライン上で気候変動に関するコンテンツにより多く接し、環境に負荷が少ない生活をするための取り組みをより多く実践している。

 また、これらの世代の人々は、政府に対応を促すために大規模な抗議活動も行ってきた。2019年には、数百万人の若者たちが、オーストラリアのシドニー、米ニューヨーク、インド最大の都市ムンバイなど世界各地で同日に抗議デモを展開した。

わが子の誕生がもたらした希望

 一方、冒頭で紹介したカップルは自分たちなりの人生を歩き始めた。ロードアイランド州のプロビデンスで暮らすふたりは不安を乗り越え、2021年3月に息子のエイサ君が誕生した。弁護士のケイティさんは公選弁護人として働いている。ロードアイランド州の州議会議員を4年間務めたアーロンさんは2022年5月に米ハーバード法科大学院を卒業した。今後は、連邦判事のもとで事務職として働いた後に、環境法を専門とした弁護士になるつもりだ。

 親となった理由について、ケイティさんは「この子の世代に、正しいことのために闘う善良な人がいてほしいからです」と話している。

 アーロンさんは「決め手となったのは、生存と安定を目指すことだけが住みやすい未来のための闘いではないという考えでした」と言う。「私たちの世界を、これ以上貧しく、暗く、寂しくならないように守る闘いでもあるのです。ケイティと私にとって、こうした考えを受け入れることが、わが子の誕生につながりました。私たちは、世界の愛すべきものをこの子に教え、この子を守るために人生をささげようと思います。そしていつの日か、不確実な未来に直面するわが子やすべての子どもたちと一緒に闘います」

 ふたりは、未来に対する新たな視点をエイサ君がもたらしてくれたと言う。

「以前の私は、気候変動に対して行動する意欲をくじくような絶望にたびたび苦しんでいました。でも、エイサが生まれてからは一度もそんな落ち込みはありません。生きるに値する未来があることに賭けて一歩を踏み出してしまえば、虚無主義に振り回されるわけにはいかなくなります」

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