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沈没船を見つける方法、そして見つけたお宝は誰のものか?

  • 2022年6月28日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 宝探しはロマンあふれる冒険だ。財宝のありかが海の底の沈没船となれば、好奇心はさらにかき立てられるだろう。

 海底には想像以上に多くの船が沈んでいる。米海洋大気局(NOAA)のデータベースには、米国の沿岸沖だけでも1万隻以上の難破船が記録されている。しかし、国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、世界の海には少なくとも300万隻が沈んでおり、中には数千年前の船もあるという。

 こうした沈没船の中には財宝を積んでいるものもある。これらに値段をつけるのは難しいが、約600億ドル(約8兆円)相当の貴金属が海底に眠っていると推定する専門家もいる。

 しかし、沈没船を発見し、お宝を手に入れようという考えは、文化遺産を危険にさらすことでもある。沈没船は、単なる濡れた木材と古い金貨ではない。船が沈んだ背景には何があるのか、そして沈没船を安全に守るために何ができるだろうか。沈没船をめぐる新たな事実を紹介しよう。

なぜ、そしてどこで船は沈没するのか?

 船が沈没する理由はさまざまだ。嵐に見舞われることもあれば、船員の破壊行動による場合もあるだろう。原因を特定することは難しいが、人的ミスも要因の1つだ。航海に適した船を造り、安全に航行する能力は、現代の船乗りに比べてはるかに劣っていた。古代ギリシャのような進んだ文明でも、航海には危険を伴ったことが、2018年に黒海で見つかった2400年前のギリシャ船からわかる。これは完全な形で見つかった最古の船とされている。

 沈没船が集中するのは、航海の難所や、かつて交易ルートや戦いがあった海域だ。米国では、特にフロリダ州沿岸や五大湖で沈没事故が多く、五大湖の1つであるエリー湖は、淡水域では単位面積あたりの沈没船が世界で最も多い。ノースカロライナ州の砂州が連なるアウターバンクスは「大西洋の墓場」との異名を持つ。世界を見渡すと、バミューダ諸島、ギリシャ、メキシコ湾、バルト海にも危険な海域がある。

沈没船の見つけ方

 沈没船が数多く存在するということは、発見も容易だと考えるかもしれない。だが現実には、ほとんどの沈没船は近づくことさえ不可能で、調査もされていない。かつての沈没船探しは、実際に潜水し、運任せで船を見つけるしかなかった。しかし海は危険であり、特に沿岸から離れた場所の海底は探しに行くことさえ不可能なこともある。

 しかし時代は変わり、技術も進歩した。研究者たちは今、高性能な装置の助けを借り、長らく行方のわからなかった船を探している。史料の入手が容易になったことも、船が沈んだ場所の特定に役立っている。音波を使うソナーや、レーザー光を使うLiDARといったリモートセンシング(遠隔観測)技術は、目に見えない海底や水中にある物体の把握を可能にした。また、衛星写真を分析することで、沈没船から出る浮遊粒子状物質をとらえることもできる。人工知能(AI)の利用も進んでおり、ある機械学習ツールの例では、航空機と船で海底をスキャンした画像から92%の精度で既知の沈没船を見つけ出すことができた。

 沈没した候補地点が特定されれば、無人潜水艇を使って沈没船を発見し、記録を取ることができる。高い水圧に耐えられる無人潜水艇は、水上にいる研究者のために、沈没船の場所を突き止め、写真や動画を撮影し、周辺の地図を作製する。船体の素材の化学組成を調べることも可能だ。

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沈没船を実際に見ることはできる?

 沈没船を自分の目で見に行くことは、必ずしもできるわけではない。大きな注目を集めるような発見であっても、秘密に包まれていることは多い。史上最大級の発見となった重巡洋艦インディアナポリスの発見から、その理由がわかる。

 インディアナポリスは、広島に投下されることになる原子爆弾の部品をマリアナ諸島のテニアン島に届けたあとの帰航の途中、1945年7月30日に旧日本軍の攻撃に遭った。2発の魚雷が命中し、数分で沈没した。1200人の乗組員のうち助かったのは317人で、米海軍史上、最大規模の犠牲者数となった。

 2017年、民間のチームが新史料を使って約1500平方キロメートルにおよぶ太平洋の海域を調査し、インディアナポリスを発見した。しかし、その正確な位置は、船と今もそこに眠る犠牲者を守るため、極秘事項となっている。

 歴史的に有名な沈没船の大半が、このような保護の対象になっている。しかし、一般に公開されているものもある。五大湖の1つであるスペリオル湖のアイル・ロイヤル国立公園では、19世紀および20世紀初頭に沈んだ多くの沈没船をスキューバダイビングで探索できる。フロリダ州のサンペドロ水中考古学保護州立公園では、18世紀に沈んだスペインの船団の船をシュノーケリングで見に行ける。その他、世界には沈没船がある場所が何カ所も水中博物館となっているが、だからといってそこで財宝を探し回ることが可能なわけではない。

沈没船は一体、誰のものか?

「沈没船は発見者のものだと信じて人は育っています」とジェームズ・グールド氏は言う。米法律事務所コビントン・バーリングの弁護士で、歴史的価値のある沈没船の保護をめぐる裁判で主席弁護人を務める人物だ。

 米国では、沈没船は厳重な保護の対象となっている。1988年に制定された「遺棄沈没船法(Abandoned Shipwreck Act)」では、放置された沈没船の所有権と管理権は、軍用艦などの例外を除き、沈没船が見つかった海域が属する州にあるとした。2004年の「沈没軍用艦船・航空機法(Sunken Military Craft Act)」では、沈没した軍用艦の所有権は国にあると定めている。

 沈没船の所有を他国が主張した場合は、事情が複雑になる。しかしグールド氏によると、近年では多くの国で、沈没船を「発見者のもの」だとする考え方から、世界で共有すべき歴史的財産と見る考え方に変わってきているという。

次ページ:沈没船を発見したらどうすればいい?

 グールド氏が携わった数々の重要な裁判は、そうした考え方の変化を促した。例えば2012年には、1804年にポルトガル近海で英国海軍に沈められたスペインのフリゲート艦の残骸と、そこに積まれていた財宝の所有権を巡る裁判で、グールド氏はスペインの代理人を務めた。

「いわば真珠湾攻撃のスペイン版でした」とグールド氏は言う。フリゲート艦を2007年に発見した米国企業が、銀貨など約5億ドル(約680億円)相当の積み荷の所有権を主張したものの、スペインが船の所有権を主張して提訴した。グールド氏はスペイン側の代理人となり、勝訴している。

「決定的な瞬間でした」とナショナル ジオグラフィック協会の代理人でもあるグールド氏は言い、これは単なる財宝の所有権をめぐる問題ではなく「スペインの歴史なのです」とも指摘した。「沈没船は海で亡くなった人々が眠る場所でもあることを、多くの人は忘れがちです」

 船を取り戻したスペインの努力も功を奏し、沈没した場所が公海であれ他国の領海であれ、沈没したのがいつの時代であれ、船は所属する国のものだという考え方は、現在の国際社会で広く認められている。

沈没船を発見したらどうすればいい?

 沈没船を発見したらまず地元当局へ連絡すること。許可を得るまで探索を続けてはいけない。沈没船を触ったり動かしたりすれば、考古学的研究の価値を失う恐れがある。貴重な遺物を損なったり、略奪され、闇市場に流されたりする危険もある。

 沈没船に不正に手を加えたことで重大な結果を招くこともある。沈没船と財宝を探すトレジャーハンターのトミー・トンプソン氏は、1857年に沈没したセントラル・アメリカ号から消えた金貨の行方について明かすことを拒んでいるため、2015年から法廷侮辱罪で収監されている。

 近年、沈没船に関する法律が厳格化されているとはいえ、沈没船は誰でも自由に探索できるという考え方は今も一般に広まっており、保護活動の障害となっている。水中に残るすばらしい文化遺産を守るためには、沈没船を宝探しの対象と見るのをやめ、海底に眠る文化的・歴史的遺物の価値を認識する必要がある。

「沈没船はたった1つの取り換えがきかないタイムカプセルです」とグールド氏は言う。「記念品として勝手に持ち帰ることができた日々はもう終わったのです」

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