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アルマジロがさらに北東へ生息域を拡大、原因は不明、米国

  • 2022年6月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

「またアルマジロ発見。今度は死骸」

 メールの件名にはそう書かれていた。送信者は米国東部バージニア州野生生物資源局の野生生物学者マイク・フィーズ氏で、受け取ったのは米バージニア自然史博物館で哺乳類学の学芸員を務めるナンシー・モンクリーフ氏。2019年5月のメールだが、実はこの2カ月前にも、未確認ながらバージニア州でアルマジロが目撃されていた。

 理由は定かではないものの、過去100年間、米国では、ココノオビアルマジロ(Dasypus novemcinctus)の生息域が少しずつ北東へ拡大している。元々中南米と、テキサス州を含む米国南部の一部に生息していたのだが、1850年代に米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川を、1929年に始まった大恐慌の頃にミシシッピ川を渡った。1990年代にはテネシー州に到達、その後ノースカロライナ州へ入り、今やバージニア州にまで姿を見せるようになった。

 このアルマジロをバージニア州で初めて確認した報告を学術誌「Southeastern Naturalist」に2021年6月に発表したモンクリーフ氏は、波が押し寄せるようにに北へ北へと広がっていることに心底驚かされたと語る。

 ココノオビアルマジロは体重約5キロ、昆虫を食べ、穴を掘って巣を作る。2022年5月の時点で、モンクリーフ氏のもとには他にも数件の目撃情報が寄せられていたが、州内にどれほど広がっているのか、数はどれくらいなのかははっきりしない。同州の西にあるウエストバージニア州や北にあるメリーランド州では、目撃されたとの情報はない。

 だが近年の暖冬により、暑い気候を好むアルマジロは、さらに北にあるニュージャージー州やペンシルベニア州にもすみ着くようになるだろうと、複数の研究が示唆している。米国北東部の気温は、1895年から2011年の間に約1.1℃上昇した。2080年までには5.5℃まで上昇するとも考えられている。

高い適応力

 米ミズーリ州にあるパーク大学の元生態学者で、現在は定年退職しているジェームス・タウルマン氏は、これが自然な現象なのか、または気候変動による気温の上昇によるものなのか、それとも両方なのかはわからないと話す。タウルマン氏は、1990年代からアルマジロの分布域拡大について調べてきた。

 いずれにしても、アルマジロが新しい生息地に難なく適応しているのは間違いない。

「湿気が多く、昆虫がたくさんいる土があり、しかも冬が暖かいと、すぐに繁殖します」と、タウルマン氏は言う。

 しかし、ジョージア州バルドスタ州立大学の生態学者でアルマジロの専門家であるコリーン・マクドノウ氏は、その拡大にも限界があるという。例えば、テキサス州よりも西は乾燥しすぎてエサとなる昆虫があまりいないため、生存は難しいと思われる。北東部にしても、寒冷な気候やその他知られていない要因などで今以上に拡大できるかどうかは疑問だと指摘する。

 アルマジロといえば乾燥した草原地帯の動物というイメージが強く、岩盤や森、川が多いバージニア州は生息地に適さないように思われる。しかしモンクリーフ氏によると、実はアルマジロは木陰のある川沿いを好んで移動する。そうした環境には、エサも、隠れ場所も、湿気も多い。

次ページ:武装した「カメウサギ」

武装した「カメウサギ」

 アルマジロとはスペイン語で「武装した小さなもの」という意味がある。アステカ人は、アルマジロのことを「カメウサギ」と呼んだ。ナマケモノやアリクイとともに、南米で進化した「異節類」というグループに属している。

 バージニア州南西部のブキャナン郡に住むルビー・オズボーンさんにとって、アルマジロは花壇の土を掘り返すただの厄介者だ。2019年、自宅の庭にいたアルマジロが逃げていくところを、オズボーンさんの娘が写真に撮り、野生生物局へ送った。

 写真は、州の野生生物学者セス・トンプソン氏へ転送された。トンプソン氏は写真を見るまで信じられなかったという。

「まさかバージニアでアルマジロを見るとは、思ってもみませんでした」

 オズボーンさんの許可を得て、トンプソン氏は生け捕り用のわなを仕掛けたが、成果は上がらなかった。ところがその数カ月後に、犬に殺されたアルマジロの死骸をフィーズ氏が発見する。この死骸は州で初めて確認され、科学的に記載されたアルマジロの個体として、マーティンスビルにあるバージニア自然史博物館に保管されることになった。

特技は穴掘り

 ある暖かい5月の朝、モンクリーフ氏は自分のオフィスの外で、死骸で発見されたアルマジロの骨を保存袋から出して見せてくれた。頭骨には、アルマジロの命を奪った犬の爪痕らしき穴が開いていた。

 小さな釘のような歯は、昆虫やその幼虫、その他の無脊椎動物をかみつぶすのに適した形をしている。様々なエサを探して食べることが、短期間で生息域が大きく広がった主な理由の一つではないかと、モンクリーフ氏は考えている。

 ケラチンでできた甲羅は驚くほど軽い。一つひとつの甲羅は、人間のまつげよりも短い毛で縁取られている。地下の巣穴を進む際には、この敏感な毛で周囲の様子を探る。

 甲羅と皮革のような皮膚、びっくりしたときに数十センチも跳び上がる習性は、いずれもアルマジロを捕食者から守る役割を担う。だが、それでボブキャットやコヨーテからは逃げられるかもしれないが、相手が自動車では太刀打ちできない。バージニア州では、その自動車がアルマジロにとって最大の脅威になるだろうと、モンクリーフ氏は懸念する。

次ページ:一卵性の四つ子を産むココノオビアルマジロ

 とがった口吻と爪で地下深く穴を掘り、巣を作るアルマジロは、庭を持つ人間にとっては厄介な存在だ。

「地下の巣穴は、アルマジロの生存にとって必要不可欠です」と、アーカンソー大学の生態学者ブレット・デグレゴリオ氏は言う。「土の下では気温が安定し、安全に眠れます。また、エネルギーの消費も少なくて済みます」

 アルマジロは巣穴の中で1日最大で16時間眠り、エサと水を探す時だけ外に出る。あまり社交的なほうではなく、仲間と会うのは交尾をするときくらいだ。

 繁殖力は強く、メスは3月から5月にかけて一卵性の四つ子を産む。子どもたちは生後3〜4カ月の間母親と一緒に過ごし、その後新しい縄張りを求めて巣立つ。9〜12カ月もすると、自分も子どもを産めるようになる。デグレゴリオ氏は、恐れを知らない子どもたちが主に生息域を北へと広げているのではないかと考えている。

 その移動手段について、タウルマン氏は1996年の研究で、アルマジロたちが文字通り車でヒッチハイクをしているらしいと報告している。車台によじ登ったりトランクに隠れて、遠くまで移動しているという。

動物たちのすみかを提供

 アーカンソー州のココノオビアルマジロについて調査したデグレゴリオ氏は、その行動パターンが人間の活動と深く関わっていることを発見した。人間が多い地域のアルマジロは夜に、町から遠く離れたところにすむアルマジロは昼に活動する傾向があるという。

 これは、アルマジロがそれまで考えられていたよりも適応力が高い動物であることを示唆している。この研究結果は、2021年11月に学術誌「Ecology and Evolution」に発表された。

 庭に出没するアルマジロへの有効な対策はまだないが、人道的なわなで生け捕りにして別の場所へ放すか、犬の毛やフンを巣穴の入り口において近づけないようにすると良いだろうと、マクドノウ氏は提案する。

 これまで生息していなかった場所での生態系への影響はまだ知られていないが、それほど深刻に考える必要はないかもしれないと、デグレゴリオ氏は言う。むしろ、昆虫を食べるアルマジロは農作物に害を与える外来種の虫を食べてくれるかもしれない。

 畑や花壇に穴を掘られるのは迷惑だが、これが他の動物たちに貴重な巣穴を提供してくれることもある。デグレゴリオ氏が2022年5月にアーカンソー州で率いた研究では、哺乳類19種と鳥類40種、その他の動物たちが、35のアルマジロの巣を再利用していたという。

「他にも、サバクゴファーガメやアナホリゴファーガメ、プレーリードッグなどが同様の巣穴を掘ります。私たちは、彼らを重要な生態系エンジニアとして重宝しています。アルマジロはまだそこまで高く評価されてはいませんが、この先も北上を続ければ、それも変わるのではないかと期待しています」

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