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激減した北米のオオカバマダラ、実は増えている? 研究に異論も

  • 2022年6月14日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ある科学者チームが25年分のデータを調査した結果、驚くべき結論を出した。なんと北米のオオカバマダラ(Danaus plexippus)が増えているというのだ。6月10日付けで学術誌「Global Change Biology」に論文が発表された。

 オオカバマダラというチョウは、北米では最長4800キロにも及ぶ長い渡りをし、「皇帝(monarch)」の二つ名をもつ有名な昆虫だ。だが、過去数十年にわたって激減し、存続が危ぶまれていた。もし今回の発見が真実ならば、そうした認識が覆される可能性がある。

 誤解のないように言っておくと、オオカバマダラは北アフリカや東南アジアなどにも生息しており、種全体としてはまだ健在だ。しかし、北米のオオカバマダラは異なる。

 近年、北米の群れは激減していると言われ続けてきた。北米東部の群れは、過去40年間で約80%減ったという報告もある。また、北米西部の群れは、同じ期間に99%減ったと言われている。オオカバマダラが激減したのは、夏を過ごすカナダと米国の生息地全域で農薬が使用されたり、幼虫が餌とするトウワタという植物が広範囲にわたって失われたりしたことが原因である可能性が高い。

 こうしたデータに基づき、米魚類野生生物局(FWS)は2020年12月、オオカバマダラの北米亜種(Danaus plexippus plexippus)が米国の絶滅危惧種保護法(ESA)の保護要件を満たしたと発表した。しかし、より状況が切迫した他種の保護を優先する必要があるとして、FWSは絶滅危惧種リストへの登録を断念し、2024年に再評価を行うこととした。

 だが、もはやその必要はないのかもしれない。

 論文の最終著者である米ジョージア大学の動物生態学者アンドリュー・デイビス氏らは、北米チョウ協会(NABA)が毎年行っているチョウの個体数調査で1993〜2018年に集められたデータを調べた。その結果、ある場所ではオオカバマダラが減っている一方、別の場所では増えていた。そして、全体的にはわずかに増加傾向にあると推定された。

 NABAのデータに基づいて同様の結論を出したのはデイビス氏らが初めてではないが、これまでで最も広範囲にわたる分析だとデイビス氏は自負する。

 また、オオカバマダラのライフサイクルは複雑なため、観察が特に困難だと氏は付け加える。

 オオカバマダラは毎年、5世代かけて北米を移動する。そのため、科学者はメキシコの越冬コロニー(集団)に注目してきた。メキシコは、オオカバマダラが一堂に会する唯一の場所であり、調査がしやすいからだ。

 しかし、オオカバマダラのライフサイクルの一部だけに注目すると、全体像を見逃してしまう恐れがある。そこでデイビス氏らは、市民ボランティアが集めたデータに注目した。オオカバマダラの個体数について信頼できる推定値が得られるからだという。

「北米でも特に数の多いチョウを絶滅危惧種リストに載せようだなんて、どうかしています」とデイビス氏は言う。「(チョウが減っているという)認識に基づいた議論であり、実際のデータに基づいたものではありません」

次ページ:「このプロジェクトは一種のサクセスストーリーです」

蝶を探し求めて

 米ニュージャージー州に本拠を置く非営利団体のNABAは、毎年7月にチョウの個体数調査を実施しており、数千人のボランティアが参加する。調査地点は北米の400カ所以上で、1カ所につき直径15マイル(約24キロ)の円内にいるチョウを数える。

 この大規模な取り組みにより、オオカバマダラの個体数が米国とカナダの403カ所から得られた。オオカバマダラの数について、毎年の概観を示すものとしては他に類を見ないデータだ。

 このデータを分析したところ、北米のオオカバマダラは25年間で年1.36%の割合で増加していた。さらに、論文の著者らによれば、オオカバマダラは他のどのチョウよりも多くの場所で観察されているという。

「このプロジェクトには統計学者の中でも最も優秀な部類の人たちが参加し、可能な限り最も高度で最新の分析方法を用いたということを言っておきたいと思います」とデイビス氏は話す。

 また、これほどの規模のデータは大学や政府の取り組みだけでは実現できないだろう、と氏は付け加える。

「このプロジェクトは一種のサクセスストーリーです。なぜなら、私たちはNABAのデータを用いることで、NABAが追跡してきた1つのチョウに関する長年の疑問に答えることができたからです」

常に不確実性がつきまとう

 NABAのデータは非常に重要だが、完璧ではない。

 従来の科学的調査では、調査地域を格子状に分割し、格子の各区画から均等にサンプリングするのが通常のやり方だと、米アリゾナ大学の野生生物学者キャサリン・プルーディック氏は説明する。なお、氏は今回の研究に参加していない。

 ある地域の動物の個体数を調べる方法としては、規定の道沿いを調べる「トランセクト法」も用いられる。一方、NABAの個体数調査では、ボランティアは毎年同じ道を歩く必要がないため、これらに比べるとあまり統制されていない。

「この論文は、私たちが持っているデータをよく表し、うまく分析できていると思います」とプルーディック氏は言う。しかし、このような複雑で広範囲に生息する種について、市民参加型の科学データを使って結論を出すことには「常に不確実性がつきまといます」とくぎを刺す。

 ザーシーズ無脊椎動物保護協会で上級保全生物学者を務めるエマ・ペルトン氏も同様の懸念を示した。ザーシーズ協会は、オオカバマダラを絶滅危惧種リストに掲載するよう2014年にFWSに嘆願した団体の一つだ。

「私たちは地域で活動する大勢の科学者とともに働いています。今回の研究は、人々が昆虫を探しに行けばできる本当に素晴らしい分析の一例です」とペルトン氏は評価する。氏もこの研究には参加していない。「ですが、限界については議論する必要があります」

 つまり、NABAの調査には一定の偏りがあるのだとペルトン氏は説明する。なぜなら、おおむね1年に1回しか調査に参加しない人たちによって、夏のピーク時に、多くのチョウがよく訪れることが知られている場所で実施されるからだという。さらに、「場所と時間を無作為に選んでおらず、その土地を代表してもいません」

次ページ:「昆虫界のバンビ」の「便利な神話」?

「基本的に(ハワイとアラスカを除く)48州内のどこにでもいる、この移動性の昆虫について考えようとするときには、調査における偏りを考慮することが本当に重要です」とペルトン氏は言う。例えば、オオカバマダラは、通常のNABAの調査地点には含まれない都市部と農業地帯にも生息する。

「全体的に見れば、著者らは高名な科学者ですし、この非常に大きな問題に対してとても信頼できるデータで挑んでいます」とペルトン氏は言う。「ですが私は、彼らが答えようとしている疑問を解くために正しいデータを使っているとは思いません」

 そのため、プルーディック氏もペルトン氏も、オオカバマダラを絶滅危惧種として認定するというFWSの決定が、今回の研究によって変えられるべきではないと考えている。北米西部などの多くの群れがまだ減少傾向にあることも理由の一つだ。

 米ネバダ大学リノ校の昆虫学者であるマシュー・フォリスター氏は、この論文の発見に対し、「特にこの種がライフサイクルの他の部分で大幅に減っていることがわかっているわけですから、結論を出すのに慎重である必要があります」と指摘する。

「もしこのまま減少が続けば、生き残った全てのオオカバマダラがメキシコに生える1本の木にしがみつく状況になる可能性もあります」とフォリスター氏は言う。「そうなれば、たった1度の嵐でオオカバマダラは絶滅してしまうでしょう」

 FWSの広報担当者であるジョージア・パーハム氏は、オオカバマダラの状況は今後も毎年評価され、もし2024年にまだ条件を満たしていたら絶滅危惧種リストに載ることになる、とメールでの取材に回答している。

「昆虫界のバンビ」の「便利な神話」か

 今回の論文の著者らは、データは信頼できるものであり、全てを物語っていると主張している。

「重要な違いは、地域的な分析を越えて、大陸全体の分析を行ったことです」と、研究を率いた米デラウェア大学の農業昆虫学者で分子生態学者のマイケル・クロスリー氏は言う。「そしてここから、より完全な減少および増加の全体像が見えてくるでしょう」

 オオカバマダラが危険な状態にあるという人々の認識を変えにくいのは、この認識が非営利団体へ寄付をもたらす「便利な神話」であることも一因だとデイビス氏は付け加える。

 一方、NABAが調査期間中に追跡した456種のチョウのうち、コツバメの仲間(Callophrys irus)やアバロンカラスシジミ(Strymon avalona)など320種が減っており、保護がより必要になっているという。

「オオカバマダラは昆虫界のバンビです。オオカバマダラが危険な状態だと聞けば、人々は財布を開きます」とデイビス氏は言う。

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