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研究者もびっくり イルカは「尿の味」で仲間を判別している

  • 2022年5月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 私たち人間は笑顔、声、歩き方など、さまざまな手掛かりを頼りに友達を認識している。生物学者の間では、数十年前から、イルカも親密な友情を育み、固有のホイッスル音(鳴き声)で友達を認識することが知られている。

 そして最近、ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)が味覚を使い、仲間の尿と無関係なイルカの尿を判別していると示唆する驚くべき研究結果が2022年5月18日付で学術誌「Science Advances」に発表された。

 この研究を率いた米テキサス州スティーブン・F・オースティン州立大学の海洋生物学者ジェイソン・ブラック氏だが、実は当初から、ハンドウイルカが尿で互いを判別できるかどうかを調べようとしていたわけではない。本来の目的は、人が名前を頼りにするのと同じように、イルカも「シグネイチャーホイッスル」という個体に固有の音を駆使できるのかどうかを検証することだった。しかし、そのためには、イルカが互いを判別する方法がもう1つ必要だった。

 イルカがホイッスル音を特定のイルカの「ラベル」として概念的に使えるのかどうかを調べるため、ブラック氏は意外な物質に注目した。尿だ。以前、野生のイルカがわざわざ尿の中を泳ぐ姿が観察されているため、イルカたちは尿から情報を収集しているのではないかと考えたのだ。

「当てずっぽうでした」とブラック氏は明かす。「正直なところ、うまくいくとは思っていませんでした」

 ブラック氏のチームは飼育下のイルカを使った実験で、イルカたちは仲間の尿とホイッスル音の組み合わせにより注意を払うことを発見した。ブラック氏によれば、これはイルカたちがその個体をわかっていることを示唆しているという。

 今回の発見は、動物が味覚のみで同種の個体を判別していることを示す初めての確かな証拠だ。また、イルカは少なくとも2つの手掛かりを頼りに個体を認識しており、人間と同様、家族や友達を複雑に理解していることも示された。

「驚きでした。とにかく驚きました」とブラック氏は振り返る。「予想以上にうまくいって、私は思わず笑みがこぼれました」

調査実験にイルカも興味津々

 ブラック氏らは2016年から2017年にかけて、ハンドウイルカの繁殖コンソーシアムを兼ねるバミューダとハワイのイルカ交流施設「ドルフィン・クエスト」で数頭のハンドウイルカを観察した。これらの施設では、野生の生息環境を再現しており、自然の海水を利用したラグーンでイルカたちが暮らしている。

 研究チームはまず、イルカが海水中の尿を感知できるかどうかを確かめた。ハンドウイルカは進化の過程で嗅覚を失ったが、強い味覚を保持している。

 研究チームは広いプールでイルカたちを分離したうえで、尿と比較するためにプールの水に氷水を注ぎ、それぞれのイルカがどのように反応するかを観察した。氷水を調べるイルカは好奇心旺盛で、実験の候補に適している。次に、氷水と尿への反応に違いがあるかどうか、よく知っている尿と知らない尿で反応が異なるかどうかを調べる必要があった。

 研究チームは少なくとも5年は一緒に暮らしていることを基準に、どのイルカが互いをよく知っているかを判断した。そして、コイントスで順番を決め、よく知っているイルカの尿と知らないイルカの尿を約20ミリリットルずつプールに注いだ。

 イルカたちはよく知っている尿を調べるとき、知らない尿の約3倍の時間をかけた。20秒以上じっくり調べている個体も数頭いた。一方、知らない尿にはほとんど注意を払わず、調べる時間は氷水と変わらなかった。

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「イルカたちはとても熱心に研究に参加してくれました」とブラック氏は語り、報酬として餌を与えたわけではないと補足した。「たいてい、イルカたちは私の実験に飽きてしまいます。今回はイルカの世界にうまく入り込むことができたようです」

 最後に、イルカがほかの個体の手掛かりを組み合わせて理解しているかどうか、つまり、固有のホイッスル音と尿が頭の中で結び付いているかどうかを確かめた。

 ブラック氏はそのために、心理学者や行動生態学者が「期待違反法」と呼ぶ実験を行った。たとえば親友の顔を見ているときに違う声が聞こえてくるというように、あえて意味不明なものを示し、その反応を確かめる実験だ。

 この最後の実験では10頭のイルカを使い、尿とホイッスル音のさまざまな組み合わせを試した。

 尿とホイッスル音の組み合わせが正しくない場合、イルカたちはあまり注意を払わなかった。ホイッスル音と尿のミスマッチであふれかえる野生の世界では、おそらく有益なイノベーションなのだろうとブラック氏は述べている。

 一方、尿とホイッスル音の組み合わせが正しい場合、イルカたちはミスマッチの場合より平均10秒長くその場にとどまった。滞在時間が40秒を超える個体も2頭いた。これはイルカたちが仲間を認識できるという有力な証拠だ。

深まるイルカの味覚への関心

 スペインにあるハンドウイルカ研究所の主任生物学者ブルーノ・ディアス・ロペス氏は「動物の頭の中に概念が存在することを実証するのは非常に難しいため、その問いに答えようとするこの種の実験は非常に興味深く、価値があります」と第三者の立場で評価する。

 ロペス氏は野生のイルカでも同様の研究を行ってほしいとしながらも、味覚がイルカの認識能力にどのように貢献しているかを理解するうえで、「今回の研究は良いアプローチであり、幸先の良い第一歩」だと言い添えた。

「イルカがどのように互いを把握しているのか、彼らにとって何が本当に重要かについて、本当の意味で理解が深まりました」と、米マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所の海洋生物学者ラエラ・サイー氏は第三者の立場で述べている。

「彼らは(尿の痕跡から)何を学んでいるかという別の疑問への扉も開かれました」

 ブラック氏は次の課題として、イルカがどのような生物学的メカニズムで尿を味わっているかについて詳しく調べたいと考えている。

 有望な可能性は、尿に含まれる脂質だ。尿の脂質は、イルカの味蕾(みらい)にある物理的な「アンテナ」で感知できる。また、人為的な汚染がイルカの味覚能力に与える影響はまだわかっていない。このため、「喫緊の課題だ」とブラック氏は言い添えている。

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