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私たちが思い描く「海賊」像の多くは誤解、本当にあったのは?

  • 2022年6月27日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

「海賊」と聞いて頭に浮かぶのは何だろう? 眼帯にひげ、肩にはオウムを乗せ、宝の地図を広げている。船にはドクロの旗を掲げ、掟を破った船員を「板歩きの刑(海に突き出た板の上を歩かせる)」に処す……。

 しかし、こうしたイメージのほとんどは海賊の本当の姿ではない。海賊は実際に昔からいるし、今も存在するが、その多くはテレビや映画で描かれる海賊の姿とは程遠い。では、なぜこのような誤解が生まれてしまったのだろうか。

ありがちな海賊ファッション

 海賊はよく、カラフルな服装で描かれる。ハリウッド映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に登場するジャック・スパロウ船長のように、ゆったりとしたシャツを着て、頭にはバンダナ、腰にはスカーフ、破けたズボン、ずたぼろのブーツといったいでたち。またはヨーロッパの貴族のような洒落た服を着ていることもある。

 しかし、残念ながら実際にはそんな恰好をした海賊はいない。このイメージを作り出した米国人画家のハワード・パイルは、19世紀後半のスペインの盗賊たちからインスピレーションを得たという。18世紀の船乗りたちは、海賊も含めて、ひざ丈のワイドパンツに、太ももまである作業着を着ていた。

 義肢も、海賊にありがちなイメージだ。木製の義足やかぎの手を持っていた海賊も実在したが、おそらくそれはごくわずかだったと考えられる。海上で手や足が切断されるような目に遭えば、それはそのまま死の宣告を意味していたはずだ。船には薬が積まれ、船員が手当てをすることはあっても、感染や出血がひどければ、死に至る。もし生存したとしても、戦闘能力は大きく制限されるため、船では調理人など裏方の仕事に回っていたことだろう。

海賊はお宝を埋めたのか

 キャプテン・キッドが宝を埋めた話は有名だ。しかし、多くの海賊は、奪い取った財宝を女と酒に使い果たしていた。宝を埋めても、誰かが抜け駆けして埋めた宝をこっそり掘り返しに戻るのではという疑心暗鬼もあったはずだ。

 また、お宝といっても金銀財宝の類は少なく、材木、毛皮、絹、綿、香料、医療品などの交易品が主だった。他に、船を修理するために必要な縄や索具、帆布なども積んでいた。

次ページ:実際にあったのはこれ

海賊の掟

 海賊たちには、船内の秩序を守るための行動規範や同意書があったという記録がある。その内容は、戦利品の分配法や、仕事中に負傷した者の処遇、規律に違反した者への処罰、捕虜の扱いなどだった。なかには、戦いで手足を失った者に対する補償を定めたものもあった。

 掟を破った者が、板の上を歩かされた可能性は低い。これは小説『宝島』などから生まれた作り話であって、実際にこのような慣習があったことを示す歴史的証拠はほとんどない。しかし、板を歩くよりももっと残酷な処罰が実際にあったことは知られている。罪人を縄で縛って船の片側から海へ落とし、船の下をくぐらせた縄を反対側から引いて罪人を引き揚げる。罪人は、船体に貼りついているフジツボなどに体をこすりつけられて失血死したり、溺死する。他にも、船から投げ出したり、鞭で打ったり、木も生えない無人島に置き去りにするという処罰もあった。

海賊船

 海賊は、スペインのガレオン船や、ジャック・スパロウのブラックパール号のような立派な船ではなく、小さくて操作しやすい船を好んだ。小さい方が、大きな艦船に追いかけられても逃げやすい。16〜17世紀にかけて海賊が最も多く使用していた船は、スループやスクーナーと呼ばれる小型の帆船だった。どちらのタイプの船も、速くて喫水が浅いため、浅瀬へ逃げ込みやすい。

 海賊といえば、黒地に頭蓋骨と交差した2本の骨が描かれた旗のイメージが強いが、実際にそのような旗を掲げていた海賊は多くない。ただ、海賊の黒い旗には、命だけは助けてやるという意味があり、赤い旗には流血と確実な死をもたらすという意味があった。「黒ひげ」として知られた18世紀の海賊は、骸骨が槍を手に持って血を流す心臓を指し示す絵が描かれた旗を使用していた。

 海賊たちはしばしば、複数の国の旗を用意しておいて、どこかの国の船に出会うと友好的な旗を掲げて相手を油断させるという戦略を使うことがあった。相手の船は、掲げられた旗を見て安心して近づいてくる。攻撃できる距離まで近づいたところで、海賊は自分たちの旗を掲げ、相手の船を襲った。

海賊の姿を正しく描いているものがあるとすれば

 大衆作品に登場する中で、現実の海賊の姿を正しく描いているものがあるとすれば、それは彼らが使用する様々な武器だ。カットラスという短剣は、刃がわずかに湾曲し、狭い船の中で戦うのに便利だ。また、動物の肉を切る際にも使用できる。

 ブランダーバス(ラッパ銃)と呼ばれる銃も、海賊が好んで使っていた。銃口が広がっていて、複数の小さな鉛の弾が発射される。海賊船には大砲も備え付けられ、普通の砲弾のほか、2個の弾を鎖でつなげた鎖弾や、小さな弾がいくつも詰まったブドウ弾が使われた。海賊の大砲にやられた船は、ひとたまりもなかった。

 本や映画など大衆作品で描かれる海賊とは別に、現実の海賊は2000年以上も前から、略奪者として様々な形で船乗りたちを恐怖に陥れてきた。最近では、ソマリアやマレーシア沖での被害が報告されている。それらは「黄金時代」の海賊として描かれる姿とは全く異なる見かけをしているかもしれないが、今も昔も、海賊が人々を脅かす存在であることは間違いない。

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:ファッションから財宝まで、海賊のイメージは間違いだった? 写真と絵あと12点

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