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最長記録、2400キロを大移動したコウモリが見つかる

  • 2022年5月11日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 体重わずか7グラムの1歳のメスのコウモリが、ロシアからフランスアルプスまで、2486キロメートルを飛んだことが判明した。これまで記録された中で、もっとも長い距離を移動したコウモリだ。この研究結果を示した論文が、2022年4月21日付けで学術誌「Mammalia」に発表された。

 これまでの最長記録は、2017年にラトビアからスペインまで、2224キロを飛んだナトゥージウスアブラコウモリだった。今回この記録を塗り替えたのも、同じ種のコウモリだ。

 ナトゥージウスアブラコウモリは、赤茶色の毛皮と翼開長20センチほどの翼を持つヨーロッパのコウモリだ。このコウモリが数百キロの距離を移動することは以前から知られていた。だが、スペインのマドリードにあるコウモリ保護研究協会の代表を務めるファン・トマス・アルカルデ氏によると、今回の記録は、長距離移動がこのコウモリの生活サイクルの一部である可能性を示唆しているという。なお、前述の2017年のコウモリの移動は、この協会が記録したものだ。

 アルカルデ氏はメールでこう述べた。「同じ方向に2200キロ以上移動した例が2回記録されたのは、偶然ではありません。この種には、ヨーロッパ全域を長距離移動している集団がいるのです」

 今回の新記録の発見に欠かせない役割を果たしたのが、フランスの「山岳生態系における動物相の研究情報グループ」(G.R.I.F.E.M)に所属する動物生態学者ジャン=フランソワ・デスメ氏だ。

 2009年秋、フランスアルプスの村のそばにある貯水槽の中でコウモリの死体が見つかったと聞いたとき、デスメ氏は興味を覚えた。村民が撮影した写真を見ると、コウモリには「ロシア」という言葉と番号が刻まれたアルミ製のバンドがつけられていた。デスメ氏は長い年月をかけて調べ、ロシア北西部のダーウィン自然生物圏保護区でこのバンドをコウモリに取りつけたロシア科学アカデミーの研究者、デニス・ワセンコフ氏を探し出した。

 デスメ氏はメールでこう述べた。「ようやく彼を見つけて連絡が取れたのは、2021年3月でした。そこから、このコウモリの移動の重要性がわかってきたのです」。同氏は、今回の論文の著者だ。

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 デスメ氏もアルカルデ氏も、このコウモリは、こうした記録よりもさらに長い距離を飛んでいるのではないかと考えている。バンドにはGPS装置が搭載されていないので、バンドを取りつけた場所とコウモリが見つかった場所しかわからないからだ。

 さらに、現在の2400キロという計算は、2つの地点の直線距離だ。そのため、もっと長い距離を飛んでいることは確実で、実際の距離は最大で3000キロほどになると考えられる。

国境を越えるコウモリ

 ワセンコフ氏は、ここ20年間で、約1500匹のコウモリにバンドを取りつけた。しかし、ロシア以外の国で見つかったのは、今回のメスのコウモリだけだ。

 ロシアでコウモリの移動について研究しているワセンコフ氏は、メールでこう述べた。「非常に興奮しました。この種のコウモリが長距離移動することはわかっていたものの、なかなか信じられず、何度も地図を見返しました」

 通常、ナトゥージウスアブラコウモリは、夏にヨーロッパ北東部で繁殖と子育てをしたあと、南西に移動して冬眠する。建物や樹上など、地上で冬眠することを好むので、洞窟などで冬眠するコウモリよりも暖かい場所に移動しなければならない。

 デスメ氏は、この1歳のメスはバルト海沿岸に沿って進んだのではないかと考えている。夜にハエや虫などのエサを探し、穴や木の割れ目、巣箱などで休んでいたのだろう。

 ワセンコフ氏は、このメスが暖かい場所を探して飛び続けた結果、秋にフランスアルプスまでやってきた可能性があるという。あるいは、単に迷っただけなのかもしれない。死因は不明だ。

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不確かな未来

 コウモリの種の数は、哺乳類全体の種の約5分の1を占める。しかし、2020年のニューヨーク科学アカデミー年報によると、コウモリの既知の種の半分以上は、個体数がわかっていないか減少している。専門家たちは、コウモリの移動や、その妨げとなっているものについて詳しく知ることが保護につながるだろうと話す。

 ヨーロッパでは、ナトゥージウスアブラコウモリの個体数は安定していると考えられており、北部では増加している地域もあるようだ。しかし、アルカルデ氏によると、風力発電所の近くで死んでいることが多いという。風車の羽根に衝突したり、風車の羽根のそばで気圧が急激に変化することによって大出血したりするためだ。

「風力発電はヨーロッパ中で急拡大しています」とアルカルデ氏は指摘する。風力発電はクリーンエネルギー源として注目されていて、2020年から2021年にかけて、ヨーロッパでの利用は18%増加した。それでも、ヨーロッパが目指す目標値にはほど遠い状態だ。

 アルカルデ氏は、「近い将来、移動性のコウモリの数が減少するのではないかと考えています」という。ナトゥージウスアブラコウモリに関しては、特にそれが懸念されている。繁殖のペースが遅く、13年の寿命で1年に1匹しか子どもを作らないからだ。他の移動性のコウモリも同じ状況に直面するだろう。

 ただし、悪い知らせばかりではない。コウモリが移動する時期に風力発電の運転時間を変えるという実験が行われており、犠牲になるコウモリを減らせるかもしれないという。

「コウモリが死ぬ被害が出ている風力発電所では、手遅れになる前にこうした対策をとる必要があります」とアルカルデ氏は述べる。

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