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野菜や果物の栄養分は数十年前に比べて低下、知っておきたいこと

  • 2022年5月19日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 スーパーに並ぶ色鮮やかな野菜や果物。だがそこに含まれる栄養分は数十年前に比べて減っていることが、複数の研究で示されている。

 多くの野菜や果物、穀物において、タンパク質やカルシウム、リン、鉄、リボフラビン、ビタミンCなどが少ないという証拠が見つかっているのだ。野菜の栄養分が減ると、「体内で慢性的な疾患を防いでくれる成分も少なくなり、その意味で食物の価値が損なわれてしまいます」と、米ワシントン大学教授のデビッド・R・モンゴメリー氏は言う。

 これは「わたしたちの祖父母が食べていたものの方が、今日の人々が食べているものよりも健康的だったことを意味します」と、ワシントン大学の気候変動と健康の専門家クリスティ・イバイ氏は指摘する。

 科学者らによると、問題の根本は、灌漑の肥料の使用といった「現代の農業プロセス」にあるという。収穫量を増やす一方で土壌の健康を阻害するこうしたやり方はまた、植物と土壌菌類との相互作用を妨げ、土壌から吸収される栄養分を減少させている。これらの問題の背景には気候変動や二酸化炭素濃度の上昇もあり、それらも栄養分低下の原因となっている。

 専門家らは、これをきっかけにより多くの人たちが、自分たちが食べる食物がどのように栽培されているのかに関心を持ってくれることを期待している。「人口が増加していく中、わたしたちには耕作地を減らす余裕はありません。劣化した土地の回復に取り組む必要があります」と、モンゴメリー氏は言う。

栄養分はこれだけ減った、研究3件

 学術誌「Journal of the American College of Nutrition」の2004年12月号に発表された論文は、この問題に焦点を当てた最大規模の研究のひとつだ。米テキサス大学オースティン校の研究者らが、1950年と1999年に公表された米国農務省の栄養分データを用いて、アスパラガス、インゲン、イチゴ、スイカなど43種類の作物に含まれる栄養素13種類の変化を記録した。

 これらの野菜や果物では、タンパク質やカルシウム、リンの減少が見られたほか、全身に酸素を運ぶ鉄分、脂肪や薬物の代謝に不可欠なリボフラビン、さらにはビタミンCレベルも低下していた。

次ページ:どれだけ減っていた?

 栄養分がどれだけ減ったかは、栄養素や作物の種類によってさまざまだが、概ね6%(タンパク質)から38%(リボフラビン)までの範囲内であった。目立ったのは、ブロッコリー、ケール、カラシナでカルシウムが減っていたこと、またキュウリ、カブの葉で鉄分が減っていたことだ。アスパラガス、コラード、カラシナ、カブの葉では、かなりの量のビタミンCが喪失していた。

 その後のいくつかの研究も、栄養レベルの低下を裏付けている。学術誌「Foods」2022年1月号に掲載された研究によると、オーストラリアで栽培された一部の野菜において、1980年から2010年までに鉄分含有量の顕著な低下が見られたという。鉄分含有量が30〜50%低下したのは、スイートコーン、赤ジャガイモ、カリフラワー、インゲンなど。対照的に、ハスアボカドやキノコでは、鉄分の増加が確認された。

 穀物でも栄養分の減少は起こっている。2020年に学術誌「Scientific Reports」に掲載された論文によると、小麦に含まれるタンパク質は1955年から2016年の間に23%少なくなっており、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウムも顕著に減少していた。

 こうした減少による影響は、肉を多く食べる人たちにも波及している。食肉用に飼育されるウシやブタも栄養分の少ない牧草や穀物を食べるからだ。これにより、肉やその他の動物性食品の栄養価も以前よりも低くなると、モンゴメリー氏は言う。

栄養分が減った原因は?

 この問題にはいくつもの要因が絡んでいる。ひとつ目は、収穫量を増やすことを目的とした現代の農法だ。

「植物をより大きく、より速く育てようとすれば、植物は土壌から十分に栄養分を吸収することができず、また体内での栄養分の合成ができなります」と、テキサス大学オースティン校のドナルド・R・デービス氏は言う。

 収穫量を増やすということは、土壌からの栄養分がより多くの作物に分配されることを意味し、実質上、野菜や果物が作り出す栄養分が希釈されることになる。「残念ながら、農家が得る報酬は作物の重さによって決まります。そのため、農家の人々の努力は、作物に含まれる栄養分にとっては好ましくない方向へ向かうのです」とデービス氏は言う。

 もうひとつの要因は、高収量作物による土壌へのダメージだ。小麦、トウモロコシ、米、大豆、ジャガイモ、バナナ、ヤムイモ、亜麻などはどれも、菌類との協力関係に助けられている。土壌から栄養分や水分を得る植物の能力を向上させてくれる「菌類は植物にとって、根の延長として働くものです」とモンゴメリー氏は言う。しかし、高収量農業は土壌を消耗させ、それによって菌根菌(菌根を作って植物と共生する菌類)との協力関係を築く植物の能力を低下させてしまう。

次ページ:健康への脅威

 大気中の二酸化炭素濃度の上昇もまた、食物に含まれる栄養分を減少させている。

 植物は光合成によって、大気中の二酸化炭素を取り込み、分解し、その炭素を利用して成長する。しかし、小麦や米などの作物は、より高い濃度の二酸化炭素にさらされると、より多くの炭素系化合物を生成し、その結果、炭水化物の含有量が高くなると、イバイ氏は説明する。加えて、二酸化炭素の濃度が上昇すれば、作物が吸収する水は少なくなる。つまり、「土壌から取り込まれる微量栄養素の量も減るのです」とイバイ氏は言う。

 2018年に学術誌「Science Advances」に掲載された実験では、18種類の米をより高い濃度の二酸化炭素にさらすと、タンパク質、鉄、亜鉛、一部のビタミンBの濃度が低下することが確認されている。

健康への脅威

 こうした栄養分の低下が継続すれば、人によっては、特定の栄養分が欠如するリスクが高まったり、ひいては慢性疾患から身を守る力が弱まったりする可能性があると専門家は指摘する。

 作物の栄養分の低下はあらゆる人に影響を及ぼすが、中にはより被害を受けやすい人たちもいる。

「小麦と米は、世界で消費されるカロリーの30%以上を占めています」とイバイ氏は言う。「そうした穀物に依存した食生活を送っている人たち、特に低所得者層は、穀物に含まれるタンパク質、ビタミンB、微量栄養素の消費が減少することによる影響を受けるかもしれません。子供から成人までの女性は、鉄欠乏性貧血などの欠乏症を起こす可能性もあります」

 栄養分の減少は、すでに深刻な食糧不足に見舞われている国々においては、非常に大きな懸念となっていると、世界食糧計画米国支部のチェイス・ソバ氏は言う。

「世界中で、低中所得国を中心に30億人もの人々が、健康的な食事を定期的にとることができておらず、少なくとも20億人が、食事に含まれる主要微量栄養素が欠乏した、いわゆる隠れ飢餓の状態にあります」とソバ氏は言う。

 栄養分の少ない食物はまた、もうひとつの重要な特性を欠いている可能性がある。「風味」だ。健康を守る化合物の多くは、食物に風味を与えている。そのため、栄養レベルを低下させるような農法の変化は同時に、味気ない野菜を生む原因ともなっている。

次ページ:土壌の重要な役割

土壌の重要な役割

 残念ながら、現在の地球全体の変化の方向性を考えると、農作物の栄養レベルが向上する見込みは少ないだろう。

 2017年に学術誌「Environmental Health Perspectives」に発表された論文では、大気中の二酸化炭素濃度を用いたモデルから、2050年までに、ジャガイモ、米、小麦、大麦のタンパク質含有量はさらに6〜14%低下すると推測されている。その結果、インドを含む18カ国では、食事で摂取するタンパク質が5%以上失われる可能性がある。

 では有機農作物はどうか。慣行農法の作物よりも多くの栄養分を含んでいるのか。しかし、これについては議論しても意味がないと言う専門家もいる。なぜなら、どちらも同じやり方を採用している部分が多く、また環境による二酸化炭素への曝露にも差がないからだ。

 モンゴメリー氏は、作物の栄養分含有量を見るうえではむしろ、農法が土壌の健康に及ぼす影響に注目した方がよいと述べている。慣行農法と有機農法の作物を比較する研究の大半では、土壌の健康状態が考慮されていないが、モンゴメリー氏はその点こそがもっとも重要な要因だと考えている。

 土壌を改善するための戦略のひとつに、環境再生型の農業がある。

 環境再生型農法の最初のステップは、できるだけ土壌に手を加えずに、ミネラルの減少をもたらす耕作の回数を減らすことだ。またクローバー、ライグラス(ホソムギ)、ベッチ(ソラマメの仲間)などの被覆作物を植えれば、土壌の浸食を防ぎ、雑草の成長を抑えることができる。さらには、畑で育てる植物の種類を順々に変えていくことで、次に育つ作物の栄養価を高めることができる。

 学術誌「PeerJ: Life & Environment」の2022年1月号に掲載された研究によると、環境再生型農業においては、土壌有機物レベルと土壌の健康スコアが高く、また生産される作物は特定のビタミン、ミネラル、植物化学物質レベルが高かったという。

 とはいえ、一般の消費者にできる最も健康に資する行動といえば、今後もさまざまな種類の農作物を食べ続けることだ。「栄養濃度が半分になってしまうという話ではありません。ですから、多様な色の野菜や果物を食べていれば、栄養は十分にとれるはずです」と、米アラバマ大学栄養学准教授のクリスティ・クロー=ホワイト氏は言う。

 たとえば、あなたが食べるあらゆるものに、体内でビタミンAに変換されるベータカロチンがまったく含まれていないということはまずありえない。「いろいろな種類の野菜や果物を食べることによって、そうした栄養分の損失分を相殺することができるでしょう」

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