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年間3000近い動物の命が巻き添えで犠牲に、米国の害獣駆除

  • 2022年4月16日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 家畜、農作物、公共の安全を脅かす動物の駆除や殺処分を任務とする米国の政府機関が、2021年の1年間に3000近い動物の命を誤って奪っていた。

 米農務省動植物検疫局野生生物部は2021年度、176万頭の動物を駆除した。しかし、ナショナル ジオグラフィックがデータを精査したところ、そのなかには意図しない犠牲も数多く含まれており、ゼニガタアザラシ1頭、イヌワシ3羽、ハクトウワシ1羽など、連邦政府によって保護されている種もいた。そのほかにもアメリカクロクマ12頭、ピューマ4頭、アメリカアリゲーター17頭などが犠牲になった。

 州や自治体から依頼されて駆除される動物のほとんどは、家畜を殺す、作物を食べるといった被害をもたらす害獣だ。野生生物部はさまざまな種類のわなを使用する。首にかけるわな、足を挟むわな、中に入った動物を押しつぶすボディーグリップなどだ。

 これらのわなは非人道的、致命的なだけでなく無差別的だと批判されている。

 野生生物部は取材を拒否したが、2021年は「駆除した動物の99.8%以上が意図した標的だった」と声明の中で述べている。

 野生生物部は毒物も使用している。ばねで作動するシアン化物カプセルM-44だ。野生生物部によれば、庭で使用するスプリンクラーのような外見で、甘い香りが付いているため、コヨーテなどが「かみついて引っ張る」という。強く引くと猛毒が噴射される仕組みだ。

 野生生物部のファクトシートには、「通常、装置が作動してから1〜5分で死に至ります」と書かれている。しかし、2017年、ペットのイヌがこの「シアン化物爆弾」に触れてしまい、苦しみながらゆっくり死んでいったとナショナル ジオグラフィックは報じていた。サクラメント・ビー紙の調査では、2000〜2012年、1100頭以上のイヌがこの装置に命を奪われている。

 米国アリゾナ州に本部を置く自然保護NPO生物多様性センターによれば、M-44にシアン化物を噴射された動物は死に至る前に、内出血、発作、肺不全で苦しむことがあるという。

 野生生物部のデータによれば、2021年、M-44に意図せず命を奪われた動物はハイイロギツネ266頭、アカギツネ16頭、アライグマ23頭だった。M-44に直接殺されたか、M-44にさらされた後、安楽死が選択されたかのどちらかだ。

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「巻き添え被害は避けられない」

「ほかの種の巻き添え被害を防ぐ方法はありません」と カーター・ニーマイヤー氏は話す。氏は野生生物部に26年所属し、わなを仕掛ける仕事と監督者の仕事をしていた。2000年、内務省管轄の米魚類野生生物局に移籍し、現在は引退している。

 わなを仕掛ける方法はさまざまで、結果も大きく異なる。「私たちはプロです。そのため、私たちに依頼する人々は、私たちが人道的で、わなを(すぐに)チェックするものだと思っています」。しかし、必ずしもそうとは限らないとニーマイヤー氏は語る。特に、野生生物部は大量のわなを仕掛けるためだ。

 一定期間内にわなをチェックすることを義務づけている州もあり、野生生物部の2021年の指針には、「特定の免除を受けていない限り」、わなや装置のチェックは「州法で定められた頻度を下回ってはならない」と記されている。

 例えば、ペットのイヌやネコなど、動物がわなに掛かり、即死しなかった場合、脱水や締め付けによる傷が原因で、2〜3日以内に命を落とす可能性が高いとニーマイヤー氏は述べている。

意図せず殺される動物たち

 野生生物部は、2021年、2700頭余りの在来動物が意図せず殺されたと報告している。過去3年間の動向をわずかに上回る数字だ(一部のヘビ、野犬、ネズミなど、侵略的とされている動物を含めると2795頭になる)。

 野生生物部の声明には、「私たちは意図しない駆除を追跡、報告し、可能な限り、現場の作業を調整します」と書かれている。「意図せず捕獲された動物のうち5頭に4頭は、無傷で解放または移動されています」

 生物多様性センターで肉食動物の保護を担当するコレット・アドキンス氏は、わなにかかった動物が無傷に見えるだけの場合もあると話す。わなにかかったストレスで、アドレナリンが放出されるせいだ。「身の安全が確保されて初めて、自分の足が押しつぶされていることに気付くのです」

 野生生物部は意図しない死と呼んでいるが、米国カリフォルニア州のNPOプロジェクト・コヨーテで肉食動物の保護を統括するミシェル・ルート氏は、「正確に言えば、たまたま起きた事故と呼ぶことはできません。彼らはその無差別的な性質を認識したうえで、殺傷能力がある装置を使用しているからです」と指摘する。

かかった動物を押しつぶすボディーグリップ

 わなから逃れるためであれば、動物たちは何でもするとアドキンス氏は話す。「動物がわなにかかった唯一の証拠として、足の指が残されていることもあります」

 2021年の「意図しない駆除」の一例が、ボディーグリップに入ってしまったゼニガタアザラシだ。米国では、ゼニガタアザラシを含むすべての海洋哺乳類が海洋哺乳類保護法で保護されている。

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 ボディーグリップは、中に入って通り抜けようとする動物の命を奪う金属製の装置だ。「体を押しつぶし、絞め殺します」とニーマイヤー氏は説明する。ビーバーなどを捕獲するため、水中に設置されることもあるという。

 しかし、ゼニガタアザラシのような大きい動物の場合、顔や首が入った時点で、わなが閉じてしまう可能性があるとニーマイヤー氏は話す。「アザラシの首はかなり強いため、おそらく首を絞められている間に、溺れてしまうのではないでしょうか」

 ボディーグリップは2021年だけで、カワウソ544頭、トウブワタオウサギ11匹、アライグマ44頭、ミヤマシトド3羽などを誤って死に至らしめた。

わな以外の手段は

 野生動物が引き起こす問題の軽減策として、アドキンス氏とルート氏はより人道的な実績ある方法をいくつか提案している。例えば、家畜を守りたければ、フェンスを強化したり、明るい照明を付けたり、番犬を置いたりすればいい。ただし、政府が費用の一部を支援すべきかもしれないとルート氏は述べている。

 アドキンス氏はさらに、家畜の死骸の除去や産後の清掃を素早く行えば、捕食者を遠ざけられると指摘する。

「衝突に対処する唯一の方法は、関係した個体、捕食が発生した場所、時間をターゲットにすることです」とルート氏は話す。発生後、時間がたってからの介入は不正確で、問題の解決にはならない。

「それでは、ただ動物が犠牲になるだけです」とルート氏は語る。「必ずしも関係した個体とは限りませんし、ほぼ間違いなく、その場所は新しい個体の縄張りになります」

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