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命がけでピューマの餌を盗むコヨーテ、予想よりずっと多かった

  • 2022年4月12日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 コヨーテの優れた適応能力と巧みな戦術はよく知られている。このしたたかな動物は、かつての生息地の大半に再び定着し、人間の生活圏の周辺にも新たに進出している。

 コヨーテ(Canis latrans)は中位捕食者として知られる中型の肉食動物で、人間の近くでは慎重に行動するが、人間以外の大型捕食者の周囲では思い切った賭けに出る。新たな研究により、コヨーテは、ピューマ(Puma concolor)が仕留めたエルク(Cervus canadensis、アメリカアカシカ)などの獲物を、頻繁に盗んだり食べ残しをあさったりしていることが明らかになった。だが、こうしたリスクが高い行動にはコストが伴い、コヨーテがピューマの餌食となることも珍しくない。

 この調査は米国オレゴン州の研究者たちが実施した。それによると、研究対象地域に生息するコヨーテの23%が毎年、ピューマに殺されていたと推定された。おそらく獲物を巡る争いの結果だろう。というのも、コヨーテの餌の半分以上はピューマが殺したエルクの肉であることが判明したからだ。

 この論文は、2021年8月24日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。中型肉食動物がこうしたリスクを、これまで予想されていたよりも頻繁に冒している実態については最近、報告が相次いでいる。

 2020年3月17日付けで学術誌「Ecology Letters」に発表された論文によると、全世界の中型肉食動物の死因の約3分の1は、ピューマやオオカミなどの大型肉食動物によるものだという。一方、コヨーテ、ボブキャット(Lynx rufus)、アメリカクロクマ(Ursus americanus)といった中型の捕食者は、餌の約30%を頂点捕食者が仕留めた獲物から得ている。

「リスクが高いにもかかわらず(獲物を横取り)するのは、コヨーテは自力で(シカなどを)捕食できないからでしょう」と、米ワシントン大学のローラ・プルー准教授は話す。プルー氏は、こうした関係性に着目し、上記の「Ecology Letters」に発表した論文を執筆した。「コヨーテは、大型肉食動物が残した形跡の鮮度を調べたり、警戒を強めたりして、リスクを見極めることができるという可能性もあります」

 このリスクを伴う行動、あるいはプルー氏の言う「恩恵をもたらす敵」は、生態系や関与する動物種によって異なる結末をもたらす。これらの論文が共通して指摘するのは、肉食動物を生息域から排除したり復帰させたりする試みによって、予測困難な結果がもたらされる可能性だ。

「ネコの存在はコヨーテに影響しますし、コヨーテの存在もネコに影響します。オオカミはコヨーテに影響を及ぼし、コヨーテもオオカミに影響を及ぼします」と、米ワイオミング大学の研究者、ケビン・モンティス氏は説明する。「動物のあらゆる行動には、必ず相互作用があるのです」

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肉食動物のリスク計算

 アラスカ中部でハイイロオオカミを調査していた時、プルー氏は自ら「危険な誘惑」と名づけた現象に遭遇した。当時は、頂点捕食者が下位の捕食者を抑制しているという考え方が主流だった。だが、プルー氏の調査地域でカンジキウサギの数が激減すると、コヨーテは、オオカミが仕留めた獲物をさらに頻繁にあさり始めた。これを知ったプルー氏は、周囲に頂点捕食者がいることは、実は中位捕食者にとって好都合なのかもしれない、と考えるようになった。

 コヨーテは、実際にある程度の恩恵を受けていた。プルー氏は、コヨーテがオオカミの群れがいる地域に長く留まり、オオカミの獲物を盗む機会をうかがっていることに気づいた。一方、コヨーテがオオカミに殺されるリスクも増加していた。

「つまり、(オオカミが)仕留めた獲物にただでありつけているわけではないということでしょう」と、プルー氏は話す。

 コヨーテが注目されているのは、北米の中位捕食者のなかで非常に強い勢力を持っているからだ。コヨーテは、アラスカから中米パナマまで広く生息し、恐らくさらに南にも生息域を拡大しているとみられる。賢く、繁殖力も適応力も高い動物であり、餌を得るためにはリスクを冒すこともいとわない。

 PNASに発表された研究では、コヨーテ、ピューマ、アメリカクロクマ、ボブキャットに首輪をつけて調査を実施した。また、キルサイト(捕食動物が獲物を解体した場所)に監視カメラを設置し、現場を訪れる動物とその行動を記録した。その結果、アメリカクロクマはピューマを避け、まれにしかキルサイトを訪れないことがわかった。ボブキャットは、ピューマにもピューマの獲物にもほとんど関心がない様子だった。

 一方、オレゴン州に近いワイオミング州の、ヨモギ属などの草やヒノキ科ビャクシン属の針葉樹が自生する山腹では、コヨーテがピューマの生息域を敬遠していることがわかった。このことを示した論文は、2022年2月22日付けで学術誌「Ecology and Evolution」に発表された。著者のミッチェル・ブルネット氏によれば、無線発信器付き首輪のデータから、コヨーテは、においなどで餌の存在を感知した場合を除いて、ピューマが狩りをしやすい樹木や岩が多い地域を避けていることがわかったという。

 ワイオミング州とオレゴン州の研究者たちによれば、コヨーテの餌のかなりの部分をピューマが仕留めた獲物が占めているものの、こうした死肉をあさる現場でコヨーテの死亡率が特に高いわけではない。これは、コヨーテが危険な場所に身を置いていることを自覚して、特に用心深く行動しているからかもしれないと、研究者たちは考えている。

「キルサイトのコヨーテは、非常に慎重です」と、PNASに掲載された論文の共著者であるオレゴン州立大学のタール・レビ准教授も話す。「コヨーテたちは通常、単独で行動しません。警戒声を発したり、複数で見張りをしたりします。集団でいれば、ピューマの存在をいち早く認識して身を守ることができます」

次ページ:からみ合う恐怖と飢え

「Ecology Letters」の論文でプルー氏は、世界中で実施された256件の研究の統合的な分析(メタアナリシス)を行った。その結果、頂点捕食者が中位捕食者を多く殺しているという点はおおむね共通していたが、個々の関係性は動物ごとに多少異なっていた。

 ピューマはコヨーテを殺し、頻繁に食べていた。オオカミは、コヨーテを殺しても食べない傾向があり、首を切断し、頭部を雪の中に埋めることもあった。ヨーロッパのヒグマは、オオヤマネコの獲物の40〜60%を横取りするうえ、オオヤマネコを追い払ってしまう。オオヤマネコがヒグマに餌を取り上げられる率は非常に高く、プルー氏はこの現象を「ヒグマ税」と名づけた。

 北米のコヨーテは、ピューマやオオカミに襲われて命を落とすこともある一方、集団で警戒体制を強めながら獲物を盗み、人間に近い環境にも順応して、たくましく生き延びている。

 だがプルー氏によると、アフリカの一部に生息する中位捕食者は、それほど幸運ではない場合もある。頂点捕食者であるライオン、ハイエナ、ヒョウ、チーターなどが増えれば、中位捕食者にとっては単に敵がいない場所が減るだけで、彼らは非常に大きな圧力を受けるという。

からみ合う恐怖と飢え

 コヨーテがピューマに依存するように、中位捕食者が頂点捕食者の獲物に依存する状況は、何を意味するのだろうか。捕食動物は、獲物となる動物の生息状況にあまり影響を及ぼしていないのか、それとも多大な影響をもたらしているのか。その答えは人によって異なると、レビ氏は考えている。

「捕食動物を嫌う人は、『ピューマはシカを殺すだけでなく、同じくシカを殺しながら大量に生息するコヨーテまで養っている。だから、ピューマを駆除しなくてはならない』と主張するかもしれません」と、レビ氏は説明する。「あるいは『ピューマを駆除してはいけない。ピューマが仕留めたエルクをコヨーテに供給するおかげで、シカはコヨーテに捕食されずにすんでいるのだ』と言う人もいるでしょう。でも、どちらの見解にも、まだ解明されていない部分が残っています」

 研究者たちは、キルサイトで死肉をあさる行為が中位捕食者の死亡リスクを増加させているのかどうかを明らかにしたいと考えている。コヨーテのような動物は、どこで過ごすかに関係なくピューマやオオカミに殺されるリスクが高いのかもしれない。

 わかっているのは、コヨーテやキツネのような捕食動物でも、死に対する恐怖は行動の動機となるが、飢えもまた彼らを動かすということだ。

「死亡率が5分の1という値は、かなりのリスクです」とレビ氏は言う。「そうしたリスクをコヨーテは絶対に避けようとするだろうと考えられます。しかし、実際のところは、殺されるか殺されないかという相対的なリスクが肝心なようです」

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