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15年間目撃されていないハチ、絶滅危惧種に指定

  • 2021年9月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2006年を最後に目撃されていないマルハナバチ、フランクリンズ・バンブルビー (Bombus franklini)を米国の絶滅危惧種に指定すると、8月24日、米類野生生物局が発表した。

 今回の指定は同国の「絶滅危惧種法(ESA)」に基づくもの。マルハナバチが指定されるのは、米国で2例目、米国西部に生息する種としては初めてだ。2017年には、かつて米国内の28州で目撃されていたマルハナバチ、ラスティーパッチド・バンブルビー(Bombus affinis)が絶滅危惧種に指定されている。

 20世紀のハチ研究者の名に由来するフランクリンズ・バンブルビーは、殺虫剤や病原菌、限られた生息域など、いくつもの脅威にさらされている。生息域は、カリフォルニア州とオレゴン州の州境の約3万4000平方キロメートルの地域のみで、ひょっとすると、マルハナバチの生息域としては世界で最小かもしれない。

 このマルハナバチは15年間にわたって目撃されていないが、保護に取り組む研究者たちは、まだ絶滅していないと考えている。今回、絶滅危惧種法の対象となったことで、このマルハナバチに危害をもたらす恐れがある行為が広く禁止されるだけでなく、生息数回復のために州が行う調査や対策に対する連邦政府からの補助金が増えることになる。

 フランクリンズ・バンブルビーの保護を担当する魚類野生生物局の野外生物学者、ジェフ・エベレット氏は「きっと見つかると信じています」と話す。「居場所さえ確認できたら、もっと強力で有効な保護策を実施できます」

 フランクリンズ・バンブルビーは、さまざまな野生の花の間を飛び回り、おもにルピナスやポピーから花粉を、ミントからは蜜を集めている。だが、この種についてわかっていることは非常に少なく、こうした花々や生態系全体にとっての重要性もほとんど明らかになっていない。しかしながら、一般にマルハナバチは重要な送粉者であり、生息数が減少すれば、生態系にさまざまな影響をもたらしかねない。

姿を消したハチの捜索

 フランクリンズ・バンブルビーは、100年前に初めて特定されてから325回しか観察されていない。その多くは、米カリフォルニア大学デービス校の昆虫学教授だったロビン・ソープ氏による記録だ。1998年にソープ氏は98匹の個体を確認。しかし、2006年に1匹だけ見つかったのを最後に、まったく目撃されなくなった。

 そこで2010年、ソープ氏とザーシーズ無脊椎動物保護協会(Xerces Society for Invertebrate Conservation)は魚類野生生物局に、フランクリンズ・バンブルビーの絶滅危惧種指定を求める請願書を提出した。2019年、ソープ氏の死去から2カ月後、魚類野生生物局は絶滅危惧種への指定案を公表した。

「フランクリンズ・バンブルビーが15年間も目撃されていないのは、たしかに心配です」と、ザーシーズの保全生物学者であるレイフ・リチャードソン氏は話す。「しかし、さじを投げて絶滅を宣言するには、まだ早すぎます」

 エベレット氏も、諦める前にできる調査がまだたくさんあると話す。

次ページ:再発見の希望を抱いて

 エベレット氏は、毎年7月に1週間の調査を実施しており、現在では、60人もの研究者とボランティアが参加するまでになった。メンバーはフランクリンズ・バンブルビーの姿を求めて、カリフォルニア州とオレゴン州で調査を行い、生息域とされる岩だらけの荒地で採集網を振り回したり、野の花をのぞきこんだりして捜索を行っている。

 それでもエベレット氏は、「私たちは、適切な時間に適切な場所を捜索していないのかもしれません」と言う。たとえ適切な捜索であっても、メンバーのすぐ背後にいる1匹のハチが、振り返った時にはもう飛び去っていることもあるだろう。

 そこで、エベレット氏は、もうひとつの発見方法を研究している。この数年間、魚類野生生物局と米国地質調査所では、フランクリンズ・バンブルビーのDNA鑑定の開発を進めてきた。この技術が完成すると、花のサンプルを調べて、フランクリンズ・バンブルビーの遺伝物質の有無を確認することができる。そうすれば、個体そのものを見つけなくても、生息しているかどうか、特定の地域に最近やってきたかどうかを判断できるようになるだろう。

再発見の希望を抱いて

 フランクリンズ・バンブルビーは、個体数が少なく、生息域も限られているため、非常に脆弱な立場にある。農地に頻繁に飛来しているかどうかは確認されていないものの、ネオニコチノイド系殺虫剤の影響を受けている可能性はある。この殺虫剤は、昆虫の神経系の働きを阻害して、まひや死に至らしめる農薬だ。

 また、授粉のために導入された飼育下のハチから、フランクリンズ・バンブルビーや他の野生生物に病原体が感染した可能性もある。たとえば、1990年代半ばに飼育マルハナバチの間で発生した真菌病は、フランクリンズ・バンブルビーを含む欧米のハチ数種の急激な減少と関連している。

 このような脅威はあるが、今回の絶滅危惧種への指定や調査活動の拡大を受けて、リチャードソン氏とエベレット氏は、フランクリンズ・バンブルビーの発見に明るい希望を抱いている。

 フランクリンズ・バンブルビーが発見されたら、より具体的な保護計画を策定することができる。たとえば、特定の場所や期間における殺虫剤の使用制限、営巣期や冬眠期におけるハチを脅かす活動の制限、飼育下のハチの輸送・飼育方法に関する国内の許可手続きの制定、そして、ハチの個体数の回復に不可欠な特定の生息地の指定などが考えられる。

 フランクリンズ・バンブルビーが姿を消してから15年になるが、その再発見は決して非現実的な話ではない。過去にも、絶滅したと考えられていたハチやその他の昆虫が再発見された有名な事例がある。フロリダ州では9年間目撃されていなかったハチ、ブルーカラミンサ・ビー(Osmia calaminthae)の生息が確認され、オレゴン州ではフェンダーズ・ブルー・バタフライ(Icaricia icarioides fenderi)が52年ぶりに再発見された。また、インドネシアで再発見された世界最大のハチ、ウォレス・ジャイアント・ビー(Megachile pluto)は、なんと122年間も目撃情報が途絶えていた。2011年のある調査によれば、1889年以降に再発見された350種以上の事例では、最終目撃情報から再発見まで平均すると61年かかっている。

 そして、再発見された種の多くは、生息域が限られ、個体数も少なかった。つまり、フランクリンズ・バンブルビーと同様の状況にありながら、再発見されたのである。

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