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カリブのビーチにあふれる海藻、異常繁殖が観光業を打撃

  • 2021年8月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 青く澄んだ美しい海で知られるメキシコのカリブ海ビーチが今、大量の海藻に占拠され、硫黄のような腐敗臭が漂い、ほとんど泳ぐこともできない状態となっている。

 ユカタン半島のカンクンとトゥルムを結ぶ、パラダイスのような海岸線を苦境に陥れている海藻は、ホンダワラ類だ。

 ホンダワラは標準的な量であれば有益な面もある。たとえばホンダワラが生育する海は、魚やエビ、カメなどにすみかを提供する。「ホンダワラは非常に重要な生息場所となっており、海中の『黄金の森』とも呼ばれます」と、米サウスフロリダ大学の光学海洋学教授チュアンミン・フー氏は言う。

 しかし、カリブ周辺のホンダワラは2011年以降、過去に類を見ない大繁殖を起こしている。科学者がNASAの衛星データを利用して行った調査によると、2015年と2018年には海に浮かぶホンダワラの帯の長さは8850キロメートルに及んでいたという。

 原因は、ブラジルのアマゾン川から流出する農業用水や下水が増えたことや、大西洋東部の水温上昇や湧昇の影響で、海水中の栄養分が増えたためではないかと、科学者らは考えている。

 その結果、外洋では太陽光がホンダワラに遮られ、サンゴ礁まで届かなくなっている。腐敗したホンダワラは、海洋生物にとって有害な化合物を放出する。影響は陸上にも及んでいる。海岸に打ち上げられたホンダワラの山は、ウミガメの産卵の妨げとなる。この海藻はまた、ひどい悪臭を放つため、浜辺を訪れる人たちが頭痛や吐き気を覚えることもある。

 こうした現象が始まったのは十年前で、それ以降、海岸に漂着する海藻の量は増減を繰り返している。4月から8月まで続く「ホンダワラのシーズン」には通常、ビーチは藻に覆い尽くされる。2018年など、繁殖量が特に多い年もあり、そして2021年もどうやら「記録的な年」になりそうだと、フー氏は言う。「これは一過性の現象ではありません。今ではこれが当たり前の状態なのです」

 これは生態系のみならず、経済にとっての危機でもある。観光業が州のGDPの87%を占めるメキシコのキンタナロー州では、ホンダワラの大量発生は暮らしを脅かす非常に差し迫った脅威となっている。この事態に対処する方法はあるのだろうか。

経済的な影響と生態系の問題

 2021年6月にカンクン国際空港を利用した乗客は200万人を超え、2020年2月以来最多となった。メキシコのリゾート地リビエラマヤの客室稼働率は、同国が観光客に対するCOVID-19の規制を行っていないこともあって、パンデミック前の水準に戻っている。しかし、ホンダワラの問題が再び客足を鈍らせる可能性はある。「COVID以前、ホンダワラが予約に影響を与えていたことは確かです」と、旅行代理店「ジャーニーメキシコ」のCEOザック・ラビノー氏は言う。「ホンダワラは常に逆風となっていました」

次ページ:「澄んだ海が目当ての顧客にはメキシコを紹介しないことにしています」

 2018年のホンダワラ大繁殖の後、リビエラマヤのホテルの客室稼働率は2.87%低下した。これを補うために、ホテルは価格を下げたり、不満を抱く観光客を別の施設に移したり、ビーチ以外の観光スポットのツアーを提供したりした。

 同年、現地のホテルはどこも、海藻対策に大金を費やした。ビーチの清掃、処理場までの海藻の輸送、沖合で海藻を遮るバリアも設けた。「大きなビーチに面した中規模ホテルは、ピーク時には1日に少なくとも数千ドルを海藻の除去に費やしていると思われます」と、ラビノー氏は言う。

 旅行代理店を経営するマロリー・ジョーンズ氏は2021年5月、リビエラマヤを訪れた。ジョーンズ氏が所有するリゾートの職員は海藻の除去作業に励んでいたが、「大自然を前にしては焼け石に水」だったと氏は言う。ホンダワラが山積みになっているせいで、砂浜には近づけず、カヤックツアーを計画することもできなかった。

「非常にやっかいです。個人的な旅行では、わたしでもあの時期を避けるでしょう」。今では、「ほんとうに美しいビーチと澄んだ海が目当ての顧客にはメキシコを紹介しないことにしています。まったく当てにできませんから」とジョーンズ氏は言う。

厄介者をお金に?

 今のところ、ホンダワラを止める唯一の方法は上流から始めることだと、2015年からホンダワラを研究しているメキシコ国立自治大学の研究者ロサ・ロドリゲス=マルティネス氏は言う。「各国が海へ流す栄養分を減らし、気候変動を緩和するための行動を取る必要があります」。しかし、ブラジルで熱帯雨林の破壊と農場開発が続くなら、ホンダワラの大繁殖が衰えることはないかもしれない。

 科学者らは現在、除去した海藻の利用法を探っている。トリニダードトバゴにある西インド諸島大学の植物微生物学者ジャヤ・ジャヤラマン氏のチームは、ホンダワラを使ったバイオスティミュラントを開発している。バイオスティミュラントとは、従来の肥料とはやや異なり、「植物の成長を助ける薬のような働きをする」物質のことを指す。

 2020年には、英国のエクセター大学、バース大学の生化学研究者たちが、ホンダワラをバイオ燃料に変えるのを助ける方法を初めて開発した。

 プエルトリコのバイオメーカー、C-コンビネータ社は、海藻を加工して植物由来のレザー、化粧品、農業資材を製造している。プラヤデルカルメンにあるバイオマヤ社は、地元のマヤの村々の女性たちと協力して、藻類を加工して石けんを作り、病院やホテルに販売している。

 C-コンビネータ社のホルヘ・ベガ・マトス氏は言う。「海藻から、より高級で需要の高い製品を作ることによって、海藻の収穫に価値を見出してもらうことができます」

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