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タリバンが支配するアフガニスタンを待ち受けるもの

  • 2021年8月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2001年12月、タリバン政権が最後の拠点を追われた翌日、アフガニスタン南部の都市カンダハルに一番乗りした記者団の中に、私(現在はナショジオの編集者のインディ・A・R・ラクシュマナン)も紛れていた。

 悪名高きアルカイダの訓練場レワ・サーハディは、爆撃を受けて廃墟と化していた。地雷を踏まないよう慎重に歩みを進め、アルカイダが残していった大学ノートを拾い上げてみると、そこにはアラビア語と2つのアフガニスタンの言語で、敵の奇襲法や、肥料と燃料油を使った爆弾の製造法などが書かれていた。

 夜はカンダハル知事邸の離れの建物に泊まった。家具が何も置かれていない部屋の、床の上でじかに眠り、過酷な抑圧的支配の終焉を祝うアフガン国民について記事を書き、衛星電話を使って故郷へ送信した。

 イスラム原理主義のタリバン政権下にあったアフガニスタンは、その年の9月11日、米国で同時多発テロを起こしたアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンをかくまっていたとして、米軍による空爆を受けていた。CIAと米軍に助けられた同盟軍がタリバン政権を倒すまでには2カ月以上かかったが、それでも当時はあっという間の出来事だったように感じられた。

20年間で17万人以上の人命が失われた

 ところがあれから20年。勢力を取り戻したタリバンがカンダハルとその他の州都を制圧し、首都カブールを手中に収めるまでにかかった期間は、わずか2日だった。

 2021年初めにバイデン米大統領が、同時多発テロから20周年を迎える9月11日までにアフガニスタンから米軍を完全撤退させると表明すると、タリバンは早速国内各地でその触手を伸ばし始める。地方から包囲網を築き、容赦なく都市に迫り、数の上では上回っていたアフガン軍を追い出しにかかった。

 その結果、アフガン全土はいとも簡単にタリバンの手に落ちた。

 米ブラウン大学の戦争経費プロジェクトによると、過去20年間で米国はアフガニスタンに2兆ドル(約220兆円)以上の税金を注ぎ込み、アフガニスタン人を中心に17万人以上の人命が失われたという。全ては、タリバンやそれ以前の支配権力よりも民主的で、平等を重んじ、多くの人に開かれた政権の樹立を助けるためだった。

 それだけの高い代償を支払った後に残ったものは何か。

 8月15日、米国の後ろ盾を受けていたアシュラフ・ガニ大統領が国外へ脱出した後、町は混乱に陥り、銃弾が飛び交った。恐怖にかられた住民たちは、銀行の預金を全て引き出して国外へ逃れようと奔走している。報道によれば、女性や市民リーダーたちは、「懲罰」の脅しを受けているという。米国は、大使館職員を退避させるために軍を派遣し、まるでベトナム戦争末期のサイゴン陥落を彷彿とさせる事態になっている。

次ページ:不正と汚職が横行、米軍に不満の国民も

多くの国民は米軍による占領と捉えていた

 アフガニスタンでテロ首謀者を追い詰めることが目的だった米国の作戦は、その後20年に及ぶ壮大なアフガン国家建設実験に姿を変えた。しかし、ナショナル ジオグラフィックのために現地取材を続けてきたレポーターのジェイソン・モトラー氏と写真家のキアナ・ハイェリ氏は、その舞台裏は不正と汚職にまみれていたと伝えている。

 国民を犠牲にして私腹を肥やすことばかりに気を取られた政府高官らは、外国からの支援や事業契約の管理を食いものにした。多くのアフガン国民は、米軍の存在を占領と捉え、いつまでも居座っているわりに成果を上げない彼らに対して不満を募らせていた。

 そこにつけこんだタリバンは、自分たちの活動をナショナリスト運動と位置づけ、対する現政府はアフガニスタンへの影響力を行使しようとする外国が据えた傀儡(かいらい)政権であるという印象を与えることに成功した。これまでも、英国、ソビエト連邦、そして米国と、大国が入れ替わり立ち替わりやってきては、アフガニスタンの国家建設に手を出してきたが、全て失敗に終わっている。

 タリバンのイスラム思想は、人間や動物を描く芸術を一切認めていない。アフガニスタンを支配していた1996〜2001年の間に、タリバンは世界遺産に指定されているバーミヤンの大仏をはじめ、かけがえのない貴重な像やその他の文化遺産を破壊した。「タリバンがアフガニスタン掌握、文化財の破壊は繰り返されるのか」の記事にもあるように、今回のあまりに急速なその勢力の再拡大に、国内の博物館学芸員らは不意を突かれ、歴史的遺産の保護はもはや手遅れではないかと考えられている。

 そして、アフガンの女性や少女には、どんな未来が待ち受けているのか。彼女たちは、教育を受ける権利も就労の権利も奪われ、移動や服装、政治的発言の自由を制限される。人権擁護家や地域のまとめ役、女性政治家や起業家は、仕事だけでなく命までも危険にさらされるに違いない。)

 数カ月前、ニロファル・アヨウビさんの母親は、男性の近親者を伴わずに買い物をしたとして、タリバンに暴行を受けた。26歳のアヨウビさんは、男性の同伴なしに買い物する現代女性へ向けたブティックを経営しているが、これまでに殺害の脅しを受け、日中堂々カージャックの被害にも遭った。

 それでも、カブールで手にした自由を捨てることを拒む。「他の場所にいることなど考えられません」と、アヨウビさんは語っていた。

 だがそれも、タリバンが戻ってくる前までのことだ。

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