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海のプラスチックごみ、主要な流出源は都市部の小さな河川、研究

  • 2021年5月16日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 プラスチックごみが海に流れ出るのを防ぐにはどうすればよいか? 一つは、川から流れ出るごみを減らすことだ。

 河川は、プラスチックごみが海に流出する主要なルートになっている。2017年の研究では、海へ到達するプラスチックごみの90%が、ナイル川、アマゾン川、長江(揚子江)など世界有数の10の大河から流れ出ているとする成果が発表された。同じ年にもう1件、よく似た研究成果が報告され、大河の浄化が問題解決に大きな効果をもたらすという点で、研究者たちの見解は一致していた。

 しかし、2021年4月30日付で学術誌「Science Advances」に発表された新たな論文は、この見解を覆した。プラスチックごみの80%が、10や20ではなく1000以上の河川から流出していると報告したのだ。さらに、こうした廃棄物の大部分は、大規模河川というよりもむしろ、人口が密集した都市部を流れる小規模な河川によって運ばれていることもわかった。

 これまでプラスチック汚染の筆頭とされてきたのは、中国を流れる全長6300キロの長江だったが、今回の研究結果により、1400万人が暮らすフィリピンの首都マニラを流れる全長26キロのパシッグ川に、その座を譲ることになった。

 今回の論文は、プラスチックごみ問題について二つの重要な事実を示してくれる。一つは、プラスチックごみが地球のあらゆる隙間に拡散していること、もう一つは、プラスチックごみ問題を解決するにははるかに複雑でお金がかかるだろうということだ。さらに、この論文は「海洋と淡水系を保護する究極の解決策は、プラスチックごみを発生源である陸上で食い止めること」という海洋科学者やその他の専門家の長年の主張をあらためて裏づけている。

 インドネシア、バリ島で45の河川の浄化に取り組んでいる「スンガイ・ウォッチ」の代表、ゲイリー・ベンチェギブ氏は、2017年の論文には納得できなかったという。

「10の河川が取り上げられた論文には、とても驚きました。インドネシアで私たちが目の当たりにしている小規模河川の実態にそぐわない内容でした。ここは火山地帯の熱帯地方で、500メートルごとに川があり、どの川もプラスチックごみであふれています」

プラスチックが移動する様々な要素に着目

 人類は、文明の夜明けからごみを川へ処分してきた。ここ10年でプラスチックごみ問題がクローズアップされるようになったが、研究されるのはたいてい海のプラごみについてで、河川やその他の淡水系に関する分析は大幅に遅れをとってきた。

 今回の研究は、2017年の研究にも参加した研究者らが、新たなモデルに基づいて実施した。新モデルでは、ごみが海までに流れる距離のほか、降水量や風向き、勾配など、プラスチックが川を移動するのに影響しそうな作用を考慮した。たとえば、プラスチックは、森林地帯よりも都市部から河川に流入しやすい。また、乾燥した気候よりも雨が多い気候において遠くまで移動する。さらに、埋立地やゴミ廃棄場が河川から約10キロ以内にある場合は、プラスチックごみが河川に流入する可能性が高いと想定した。

 この新モデルによる計算では、海のプラスチックごみ全体の80%の排出に、1656の河川が関わっているとする結果が出た。

「数年前との大きな違いのひとつは、河川を単なるプラスチックごみのベルトコンベアとは考えていない点です」。論文の筆頭著者、ローレンス・J・J・メイジャー氏はこう話す。「河口から数百キロも離れた場所で川にプラスチックを投げ入れても、それがそのまま海に流出するというわけではありません」

次ページ:上位50の河川のうち、アジアの河川が44

 プラスチックが川を流れる距離が長いほど、実際に海に流れ出す可能性は低くなる。フランスのセーヌ川では、1970年代のラベルが貼られた飲料水のプラスチックボトルが河岸で発見された例がある。

 メイジャー氏は、フィリピン、インドネシア、ドミニカ共和国のような熱帯の島を流れる小さな川が大量のプラスチックごみを運んでいることに驚いた。同様に、マレーシアや中米の比較的短い河川も、大量のプラスチックごみを流出させている。

「ガンジス川や長江のような大河だけが流出源ではないのです」とメイジャー氏は言う。

 プラスチックの海洋流出に気候がもたらす影響も明らかになった。熱帯地方の河川はプラスチックを絶え間なく海に流出させているが、温帯地方では、雨期にあたる8月などの1カ月間で、または鉄砲水のような1回の事象で、大半のプラスチックが流出している。

 プラスチックごみを海に流出させている川の大部分は、アジアの河川だ。この認識は、2017年の研究から変わってない。新しいリストの上位50の河川のうち、アジアの河川が44を占めている。論文の著者らによれば、これは人口密度が影響している。

「アジアと東南アジアはホットスポットですが、これは改善することができます」と、共同著者のロラン・ルブルトン氏は話す。「今後数十年間にアフリカがどうなるか、それが少し心配です。アフリカは人口が増加し、若い世代が多く、経済も上向きなので、人々はもっと多くの商品を購入するようになるでしょう」

1000を超える河川からごみを排除できるのか

 発表まで2年かけて査読が行われた今回の論文には、オランダの起業家、ボイヤン・スラット氏が出資する非営利組織「オーシャン・クリーンアップ」が資金を提供した。スラット氏は、太平洋のプラスチックごみの清掃活動に3000万ドル(約33億円)もの資金を投じた取り組みによって、世界にその名を知られており、ルブルトン氏とメイジャー氏も、このNPOで活動している。

 スラット氏のチームは、その後、河川からごみを収集する「インターセプター」という名のごみ回収船を開発した。これは、米ボルチモアの清掃船「ミスター・トラッシュ・ホイール」の応用といってもいいだろう。ボルチモアでは、水車の力を利用したこの平底船が、2008年から川のごみ回収に活躍しており、現在は4隻の清掃船が配備されている。

 2019年、スラット氏は、5年以内に1000隻のインターセプターを大量生産して展開する計画を発表した。この計画は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で遅れが生じているが、マレーシア、インドネシア、ベトナム、ドミニカ共和国で数隻がすでに稼働している。スラット氏によれば、課題はこの野心的な目標を達成できるように取り組みを拡大していくことだ。「1つの河川に配備するだけならば、それほど難しくはないのですが」とスラット氏。「10、100、1000の河川に展開するのは、かなりの難題です」

 海洋保護団体「オーシャン・コンサーバンシー」の主任科学者で、今回の研究には関与していないジョージ・レナード氏は、清掃作業用の装置が進化しているとはいえ、1000の河川を清掃するという挑戦は、同団体が長く発してきたメッセージを体現するものだと話す。

「海洋プラスチックごみの除去よりも、まずプラスチックを海に流出させないようにする必要があると、私たちはずっと訴えてきました。それは、河川にごみを流出させないということでもあるのです」

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