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南アフリカ、ライオン飼育繁殖産業を廃止へ 法制化がカギ

  • 2021年5月8日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 南アフリカが、観光、トロフィーハンティング(趣味の狩猟)、伝統医学用の骨の供給などを目的とする、ライオンの繁殖や飼育の廃止に動いた。こうしたライオン繁殖産業は数百万ドル規模になると推定されている。

 同国の環境林業漁業相のバーバラ・クリーシー氏は2021年5月2日、声明を発表し、「ライオン繁殖産業は自然保護に貢献しておらず、南アフリカの自然保護と観光の評判を傷つけているという見解」を認めた。

 今回の発表で、南アフリカ政府は、ライオンの繁殖、飼育、狩猟、触れ合いなどの商用サービスに新たな許可を出すことを停止し、すでに出ている許可も取り消していくことになる。この決定には、非倫理的な産業であるという反発の高まり、ライオンの骨の合法取引と違法取引の関連性、動物から人に感染する病気への理解の深まりなど、さまざまな要因が影響していると考えられる。

 現在、南アの民間施設で飼育されているライオンは6000〜8000頭と推定されているが、ライオン繁殖産業の廃止を目指すNPOブラッド・ライオンズのディレクター、イアン・ミヒラー氏によれば、実際は1万2000頭に達している可能性もあるという。

 同国内には野生のライオンが2000頭ほど生息しており、アフリカ大陸全体では約2万頭と推定されている。生息地が分断され、アンテロープなどの獲物が少なくなった影響で、野生の生息数はこの四半世紀でほぼ半減した。一方、ライオンが農村部の人々と接触する機会は増え、ライオンにも人間にも好ましくない状況を招いている。飼育下に置かれたライオンの体の一部が合法的に取引されていることで、野生のライオンの密猟が増加している可能性もあるとクリーシー氏は指摘する。

 南アフリカのライオン繁殖産業に関する報告では、ライオンが過密空間に押し込められ、栄養や医療が行き届かない非倫理的な環境で飼育されていることが示唆されている。

 5月2日の南ア政府の発表は、自然保護団体だけでなく動物愛護団体にとっての勝利ととらえられている。NPOワールド・アニマル・プロテクションの野生動物キャンペーンマネジャーを務めるエディス・カベシイメ氏はメール取材に対し、「南アフリカでは毎年、残酷な民間繁殖施設で何千頭ものライオンが生まれ、惨めな暮らしを送っています」と述べている。「南アフリカ政府は勇気ある行動を取りました。長期的に意味のある変化への第一歩を踏み出したのです」

 南アフリカの飼育繁殖施設には、観光客相手に、ライオンの子をなでたり、哺乳瓶でミルクを飲ませたり、一緒に写真を撮ったり、成長したライオンと並んで歩けるものもある。こうした触れ合い型の観光も、虐待や非倫理的な繁殖につながると批判されている。特に指摘されているのが、ライオンの子を数多く産ませるため、子を母から早く引き離すスピード繁殖がある。

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 ミヒラー氏によれば、飼育下に置かれたライオンの多くは、寿命が近づくと狩猟施設に売られ、ときにはフェンスに囲まれた「缶詰」ハントで、トロフィーハンティングの犠牲になるという。トロフィーハンターは仕留めたライオンの毛皮や頭部を持ち帰り、残った骨は伝統薬の材料としてアジアに輸出される。

 こうした慣行を止めるため、南アフリカ動物虐待防止評議会が訴訟を起こした2018年まで、南アフリカは合法的に輸出できるライオンの骨格の年間割当を設定していた。しかも同年、南ア政府は輸出割当を800から1500へとほぼ倍増させていた。

受け入れられた提言

 クリーシー氏は2019年10月、南アフリカのゾウ、ライオン、ヒョウ、サイの管理、繁殖、狩猟、取引に関する方針を見直すための委員会を結成。2020年12月、委員会は600ページ弱の報告書を提出し、ライオンの飼育、繁殖、体の一部の販売を禁止することに加えて、缶詰ハンティング、(子を含む)ライオンとの触れ合いを直ちにやめるべきだと勧告した。さらに、保管されているライオンの骨を破壊し、現在飼育されているすべてのライオンを倫理的に妥当な方法で安楽死させるよう提言した(飼育下に置かれている動物を野生に戻しても、狩りの方法を学んでおらず、また人を怖がらないこともあり、ほとんど生き残ることができないため)。

 クリーシー氏と内閣は委員会の提言を受け入れたことを発表した。

 ミヒラー氏は「大きな成果」と評価している。「重大な方針転換であり、段階的に廃止しなければならないという大臣からの明確な命令だと私たちは受け止めています」

 次は議会が提言を法制化することになる。すでに政府が支持していることを考えれば、「議会で否決されることはないでしょう」

 飼育繁殖を推進する南アフリカ捕食者協会にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 委員の一人である自然保護活動家兼経済学者のマイケル・トゥ・サス・ロルフェス氏は、ライオンの飼育繁殖は段階的に廃止するが、骨の取引は維持するという少数派の意見を述べた。トゥ・サス・ロルフェス氏は「慎重なアプローチ」を提唱している。具体的には、「大型ネコ科動物の密猟危機を招くことなく」取引を終了できるかどうかが判明するまで、既存の在庫や飼育個体の死骸、将来的には、管理された野生の個体群を供給源とする改良された持続可能な取引を行うべきだと考えている。さらに、ライオン繁殖産業を維持しながら規制を強化するという少数意見もある。

 一方、アジア諸国にライオンの骨を供給すること自体が、骨の需要を刺激することになっているという主張もある。野生生物取引を監視するトラフィックは2018年の報告で、ベトナムではライオンの骨の需要が高まっていることを示す事例証拠が存在すると述べている。野生のトラの個体数が3200頭を切り、古くから好まれてきたトラの骨の希少価値が高まっていることが一因だ。トラとライオンの骨は見分けにくいことも手伝って、骨の需要が高まれば、トラやライオンの密猟が増加する可能性がある。

 ワールド・アニマル・プロテクションで野生動物の研究を率いるニール・ドクルーズ氏は、禁止によって違法取引が増加する可能性は「無視できない問題ですが、同時に、克服できない問題でもありません」と述べている。

 ちなみに、南アフリカ環境林業漁業省は、サイの角と象牙の取引再開を推し進めるべきではないという提言も受け入れた。

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