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コロナ変異株が増えるとこうなる、米国で最も優勢に

  • 2021年4月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 従来の新型コロナウイルスより致死リスクも感染力も高い変異株の割合が、日本国内で増え始めている。4月7日の国立感染症研究所の発表によれば、なかでも大半を占めるのが英国で最初に報告された「B.1.1.7(VOC-202012/01)」変異株で、特に関西圏で増加傾向だ。

 奇しくも同じ日にホワイトハウスが行った記者会見でも、この変異株が現在米国で最も優勢と発表され、急激な拡大に感染症学者らが警戒を強めている。

「B.1.1.7株の登場によって状況は一変しました」と、米感染症研究政策センター所長で感染症学者のマイケル・オスターホルム氏はいう。パンデミック(世界的大流行)の初期には、新型コロナウイルスに感染する子どもの数はさほど多くなく、ほかの年齢層に対する大きな感染源とはなっていないようだった。しかし、「現在は、学校や学校関連の活動において数多くの感染が起こっています」

 1月4日付けで論文投稿サーバー「medRxiv」に発表された、英国で行われた研究によると、B.1.1.7の場合、ほかの変異株より20歳未満の感染者の割合が高かった。これと同じことが現在、米国で起こりつつある。

 ミネソタ州カーバー郡で急速に拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、学校が主催する活動やクラブ活動に関連している。ミネソタ州保健局が行った調査では、この症例全体のうち、B.1.1.7変異株がすでにおよそ4分の1を占めていた。同様の流行はウィスコンシン州でも報告されており、デーン郡の保育所で陽性が確認された子どもたちは、全員が6歳以下だった。

 この現象の数少ないプラスの面を挙げるとすれば、イングランド公衆衛生局(PHE)が1月に発表した変異株の調査結果において、年齢の低い子どもたちは大人に比べて、ウイルスをほかの人たちに感染させる可能性が低いと示唆されていることだ。

 また、3月11日付で学術誌「Nature」に発表された論文によれば、現在米国で認可されているワクチンはB.1.1.7株に対して有効であり、人々が現行の対策や規制を今後も守っていけば、パンデミックを抑える一助になると見込まれる。

「まだワクチンを接種する理由が十分でないと考えている人に伝えたいのは、これこそがその理由だということです」と、バンダービルト大学医療センターの感染症学教授ウィリアム・シャフナー氏は言う。「この株は感染力が強いだけでなく、感染した場合に重症化する割合も高く、われわれの懸念はそこにあります」

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11月にはすでに米国に侵入していた変異株

 12月初旬、英国で大々的なワクチン配布に対する期待が高まっていたころ、同国の科学者と公衆衛生当局は、英国ケント州で感染者が急増していることに気がついた。現地での症例のうち、遺伝子配列の解析が行われたのはわずか4%だったが、そのうち約半数が新規変異株であることが判明した。

 今では B.1.1.7と呼ばれているこの変異株は、従来のものよりも感染力が強いため、またたく間に世界に広がり、12月29日にはコロラド州公衆衛生環境局が米国での初の感染例を報告している。しかしながら、学術誌「Cell」に掲載予定のいくつかの研究によって、B.1.1.7株はおそらく以前考えられていたよりも早く、2020年11月から2021年1月の間に複数回、米国に侵入していたことが明らかにされた。

 また2月初旬、カリフォルニア州ラホヤにあるスクリプス研究所の大学院生カルティック・ガンガバラプ氏は、B.1.1.7が2021年3月末までに米国において優勢になるという論文を共同執筆し、同じく「Cell」に発表されることになっている。

「この変異株が世界のほかの地域で引き起こしている事態を踏まえれば、これが米国で起こらないと考える理由はありません。大半の感染症学者にとって、これはさほど予想外なことではないでしょう」と、ガンガバラプ氏は言う。

 現在、米国におけるB.1.1.7株の感染者数は1日7.5%の割合で増加している。

「別の感染症として扱ってもいい」

 この変異株がこれほど急速に拡大している理由について研究者らは、英国のチームが当初発表したように、B.1.1.7がウイルスのタンパク質に関わる変異を非常に多く獲得し(計17カ所)、その中にはヒトの細胞に取り付く部分であるスパイクタンパク質の変異が8カ所もあるためだと考えている。

 スパイクタンパク質は、ヒト細胞の外壁にある「ACE2受容体」に取り付く。ACE2受容体に結合したウイルスは、宿主細胞の中に侵入して、自分自身の複製をさらに増やして感染を引き起こす。

 ACE2受容体に以前よりも強く結合するようになる「これらの変異は、B.1.1.7の生き残りを優位にします。この変異株が至るところに広がっているのはそのためです」と語るのは、フランス、パリにあるパスツール研究所のウイルス免疫部門責任者オリビエ・シュワルツ氏だ。「いわゆるダーウィンの自然選択の一種です」

 3月10日付けで医学誌「BMJ」に発表された、B.1.1.7または従来株に感染した10万人以上を分析した英国の調査では、新規変異株の方が致死リスクが32〜104%高かったことが示された。

 英ケンブリッジ大学の臨床微生物学教授ラビンドラ・グプタ氏によると、B.1.1.7の振る舞いが従来株のそれとあまりに大きく異なるため、研究者の中には「別の感染症として扱ってもいい」くらいだと考える人もいるという。

次ページ:広がる子どもへの影響

 B.1.1.7はまた、ほかの面でも問題を引き起こしている。この変異株のスパイクタンパク質の遺伝子には、「欠失」と呼ばれる変異がいくつかある。欠失というのは遺伝子コードの一部分が欠如することであり、そのため感染後に体の免疫反応が起こっても、この変異株は抗体を逃れやすくなるという研究結果が2月5日付けで学術誌「Nature」に発表された。

 こうした欠失はまた、スパイクタンパク質の遺伝子を標的とする一部の検査キットにおいて、偽陰性の結果が示される原因ともなる。これは「SGTF(Spike Gene Target Failure)」と呼ばれ、米食品医薬品局(FDA)は、米国内においてB.1.1.7およびその他の欠失変異株が増加していることにより、検査で偽陰性の結果が出る可能性に対処するよう勧告を出している。

広がる子どもへの影響

 B.1.1.7が子どもたち、ひいてはその家族にもたらすリスクは、感染性の高さというよりも、子どもたちが社会的な距離を保ってマスクをつけたり、接触のあるスポーツを避けたりできないことに起因するのではないかと、オスターホルム氏は述べている。

 シュワルツ氏によると、すべての年齢層において新規変異株の感染力が高まっており、学校や保育園で密接な接触がある子どもたちは、以前よりも感染しやすくなっている。であれば、子どもたちはお互いに、また家庭において、さらに感染を広げやすいはずだ。

 実際のところ、先に述べたように、子どもたちの間で現在B.1.1.7変異株の感染率が上昇している。米国では学校再開への要求が高まっているが、この先より多くの学校で、教室での学習を維持することは難しくなっていくだろう。

 一方、明るいニュースは、ワクチン接種を受けた人や、すでに別の変異株に感染したことのある人は、B.1.1.7をも中和する抗体を持っていることだと、シュワルツ氏は言う。ワクチン製造会社はすでに、現在使用されているワクチンは12〜15歳の子どもたちに対して有効であるという臨床データを発表しており、それより年下の子どもたちを対象とした研究も近々予定されている。

「現在の課題は、パンデミックを抑制するのに十分な量のワクチンを迅速に用意できないこと」であり、当面は人々が安全対策の徹底を続けることが不可欠だと、オスターホルム氏は言う。「ウイルスにさらされる機会を制限して、その感染力に抵抗しない限り、流行を抑え込むことはできないでしょう」

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