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カリブ海の島国で42年ぶり火山噴火、過去に数千人の死者

  • 2021年4月14日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 4月9日、カリブ海の島国、セントビンセント・グレナディーンで火山が噴火した。噴火したのはセントビンセント島北部にあるスフリエール火山で、1979年以来、42年ぶり。兆候は数カ月前から見られ、爆発前日には避難命令も出されていた。これまでのところ、死者が出たとの報告はない。

 スフリエール火山では、2020年12月から粘性の高い溶岩がにじみ出ていた。これは島民約11万人を危険にさらすものではなかったが、2021年3月末には火山が振動を始めた。

 そして現地時間の4月9日午前8時41分、最初の大爆発が山を揺り動かした。島は大変な騒ぎになった。避難を余儀なくされた2〜3万人の島北部の住民は、ボートで島を離れたり、車で島の南部に向かった。避難は前日に始まっていたものの、実際に噴火が始まってもまだ続いていた。

 心配なのは、噴石や火砕流による被害だ。過去にはこの火山の噴火により数千人が死亡している。かつての噴火を考えると、スフリエール火山の活動は始まったばかりだ。

「1回の爆発があったからといって、これでおしまいかはわかりません」と話すのは、英イーストアングリア大学の火山学者、ジェニー・バークレー氏。「火山噴火は多くの場合、数週間から数カ月にわたって続き、さまざまな段階の活動を伴います」と言う。

危険な地域に暮らす人々

 セントビンセント島は、カリブ海の東に連なる島々のひとつで、スフリエール火山はこの島で最も新しい火山だ。その噴火は、大変強烈で危険なことで知られる。

 ヨーロッパから入植者がやって来るまで、先住民は噴火の危険が及ばない海岸沿いに住んでいた。しかし、1760年代に英国の植民地になると、奴隷にされた住民は火山の危険にさらされながら暮らし、働くことを強制された。1812年の噴火で亡くなった人の多くはそうした住民だったし、1902〜03年の噴火によって命を落としたのも彼らの子孫だった。

 1979年の噴火後、この火山は比較的静かだった。だが2020年12月に粘性の高い溶岩がにじみ出すと、数カ月で長さ900メートルほどの溶岩流に成長した。英プリマス大学の火山学者、ポール・コール氏は、今回の爆発で再び静かになる可能性はあると言う。

 しかし、スフリエール火山は気まぐれなことで有名だ。そのマグマは、米ハワイのキラウエア山やアイスランドの火山から噴出するマグマより粘性が高い。そのため、閉じ込められたガスが一気に膨張し、しばしば爆発的な噴火を引き起こす。

 スフリエール山のような火山で、流出性の噴火と爆発性の噴火が突然切り替わる理由はわかっていないと、英国を拠点とする社会・歴史火山学者のジャズミン・スカーレット氏は言う。しかし、切り替わりは急速に起こるため、12月から火山学者らは警戒を強めていた。

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噴火の兆候

 溶岩ドームが成長を続ける中、3月末に数回の強い地震が、そして4月5日にはさらに激しい2回目の群発地震が発生した。VT地震として知られる火山性地震で、マグマが地中深くの岩石を押しのけようとしたときに起こることも多い。

「このVT地震を見た瞬間、多くの関係者が非常に悪い知らせだと思ったことでしょう」とコール氏は話す。

 爆発が近いと考えた火山学者らは、避難通知が出されることを願った。「ですが、はっきりとこの日時に家にいるのは危険だと言えるわけではないので、これは非常に難しいことです」とバークレー氏は語る。

 セントビンセント・グレナディーンのゴンザルベス首相は、4月8日、テレビを通じて島の北東部と北西部の住民にただちに避難するよう命じた。警報はラジオやソーシャルメディアを通じても発せられ、島の北部の警察もこれを伝えて回った。

 4月9日の朝、山頂で爆発的な噴火が発生し、噴煙が高さおよそ10キロ近くまで上がった。数時間後に2回目の爆発が起こった。

 爆発的噴火の危険が及ぶ可能性の最も高い「レッドゾーン」には約2万人の住民がおり、さらにそのすぐ南の「オレンジゾーン」には約1万人が住んでいる。島の北部と南部をつなぐ道は1本しかなく、大渋滞する様子がソーシャルメディアで伝えられた。

 漁船やクルーズ船を使って、海から避難しようとする人もいた。周囲の島国は避難者の受け入れを表明しているが、「今年はパンデミックのために、物事がはるかに複雑になっています」と、英オックスフォード大学の火山学者、デビッド・パイル氏は言う。避難船に乗るには、COVID-19のワクチン接種の証明が必要だという。

心配される持久戦

 9日の火山活動は、単なる始まりにすぎない可能性が高い。「爆発はきっとまた起こるでしょう」とコール氏は言う。過去の噴火では、何日も何週間も、ときには何カ月も爆発が続いたことが多い。最初の爆発が最大ではない可能性もある。

 それでもこの島では今回の災害に対する備えができていたことから、最悪の結果が避けられたのかもしれない。

 パイル氏によれば、西インド諸島の17の国と地域が運営する西インド諸島大学が、毎年、火山啓発週間を主導してきた。この努力のおかげで、噴火が起こる可能性があることを市民が心に留めている。

 国の機関も、今回の噴火が始まるずっと前から、地震・火山学のデータを使って警告と避難の手順を継続的に更新してきた。同じく噴火の多いモントセラト島の火山天文台で働く科学者らも支援を行っている。

 この島の歴史に、希望を見いだすこともできる。スカーレット氏は、この地域の火山爆発に関する200年分の記録を調べた。

「わかったのは、カリブ諸国が常に助け合ってきたということです」とスカーレット氏。共通する文化、宗教、歴史、奴隷にされた人びとの子孫としての絆を持つこの地域の島国は、互いが危機に瀕したときには助けようとする。

 すでに、周辺地域や世界から資金や物資などの支援の申し出が寄せられている。セントビンセント島は小さな島かもしれないけれど、とスカーレット氏は言う。「孤独な島ではありません」

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