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ゴリラはなぜ胸を叩くのか? その音からわかったこと

  • 2021年4月12日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 1933年にキングコングが銀幕に登場すると、「胸叩き(ドラミング)」というゴリラの行動を世界中の人々が知ることになった。

 しかし、ゴリラのオスがなぜ自身の胸を叩くのかについては、科学者による推測はあるものの、確かな証拠はこれまでほとんど見つかっていなかった。

「非常に印象的な行動です。ちょっと怖いこともあります。彼らの邪魔になりたくないと思うでしょう」と、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の霊長類学者、エドワード・ライト氏は言う。

 ライト氏の新しい研究によると、マウンテンゴリラ(Gorilla beringei beringei)のオスの胸叩きは、体重200キロにもなるゴリラ同士の争いを防いでいる可能性があるという。数年がかりでゴリラの胸叩きを研究した成果が、学術誌『Scientific Reports』に4月8日付けで掲載された。

 マウンテンゴリラは、シルバーバックと呼ばれるおとなのオスを中心とした、緊密な血縁グループで暮らしている。しかし、シルバーバックはいつでも他のオスから挑戦を受ける可能性がある。だから、自分の体格、繁殖できる状況にあること、戦闘能力などを、音で遠くまでアピールして、これから挑戦しようとする他のオスたちに考え直したほうがいいというシグナルを送っているのだ。

 ライト氏らは、この行動を詳細に調べるため、アフリカ、ルワンダの火山国立公園で、絶滅危惧種のマウンテンゴリラを3000時間以上にわたって観察した。

 チームはナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、2014年から2016年にかけて、25頭のオスにおける500回以上の胸叩きを記録した。ゴリラたちは研究者の存在に慣れてはいるものの、ヒトから病気に感染する可能性があるため、安全な距離を保って観察を行った。

 研究では、胸叩きの周波数、叩いた回数と持続時間を記録した。また、写真からゴリラの各個体の肩幅を測定し、音のデータと体格との関係を調べた。

 その結果、体の大きなマウンテンゴリラは、体の小さな個体よりも低い周波数の音を出していることがわかった。大きな個体は、のどの辺りの気のうが大きいためだと考えられる。つまり、胸を叩くことは単なる視覚的な表現ではなく、ワニの低い声やバイソンの唸り声とも共通する、「競争力を示す正直なシグナル」であるというのだ。

 これまでの研究から、ゴリラの体格が集団内の順位や繁殖の成功に関わっていることはわかっている。しかし、胸叩きがそうした情報の一部を伝える役割を果たしているという今回の研究成果は、これまであくまで推測の域を出ていなかった。

「そうだろうと予測してはいましたが、この主張を裏付ける実際のデータはありませんでした。今回の結果を見られて、うれしく思います」と、米ジョージア大学の霊長類行動生態研究所所長、霊長類学者のロバータ・サルミ氏は語る。氏は今回の研究には関わっていない。

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「個体の特徴」を伝える胸叩き

 映画などでよく見かけるゴリラの胸叩きだが、まだまだ誤解されていることがたくさんある。

 まず、本物のゴリラは、拳を握って胸を叩くことはない。手をカップ状にして叩くことで、音を増幅させている。また、ゴリラは座った状態から立った状態になって胸を叩く。1キロ離れた場所でも音が聞こえるのは、こうした工夫のおかげかもしれない。

 シルバーバックが最もよく胸を叩くのは、メスが発情期を迎えて交尾の準備が整っているときだ。しかし、映画などでよく描かれるように、オスが一日中胸を叩いているわけではない。

 むしろ、ライト氏の調査では、オスたちは10時間に平均1.6回しか胸を叩かなかった。また、下位のオスも胸を叩くし、オスの赤ちゃんも遊んでいるときに胸を叩く。

 ライト氏によると、オスの大きさや順位と、胸を叩く回数や持続時間には関係がないようだ。しかし、一連の胸叩き行動は、他個体にその個体のアイデンティティ、つまり「個体の特徴」を伝えている可能性があるという。

胸叩きの音で争いを避ける?

 ゴリラは巨大な筋肉と長い犬歯を持つが、実際のケンカをすることはほとんどない。その理由の一つは、胸を叩くことで、接触することなくお互いの大きさを知ることができるからだと、ライト氏は考えている。

「勝つ可能性が高かったとしても、ケンカにはかなりのリスクがあります」とライト氏は言う。「力の強い動物ですから、互いに大きなダメージを受ける可能性があります」

 小柄なオスは、シルバーバックの胸叩きを聞いて、接近することを躊躇するかもしれない。同様に、シルバーバックは近くにいる小さなオスの胸叩きを聞いて、相手にするにはちっぽけすぎると判断するかもしれない。

 胸叩きの周波数は体格と相関があり、体格は集団内の順位や繁殖の成功と関わりがある。つまり、メスのゴリラも胸叩きに耳を傾ける理由はたくさんある。格別な胸叩きは、甘い歌声で船員を惑わす妖精セイレーンの歌のようにメスを誘い込むことがあるかもしれないが、これについてはまだ研究されていない。

 サルミ氏は、近縁種であるニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)の胸叩きについて研究していた。興味深いことに、このゴリラでは、危険を知らせるために手を叩く行動が見られるが、マウンテンゴリラではこれまで観察されていない。

 今回新たにわかった研究結果をふまえると、次のステップは、胸叩きに含まれる情報を他の個体がどのように利用しているかを調べることだと同氏は言う。

「行動圏内のどの場所を使うかについて、胸叩きの音が移動や意思決定にどのような影響を与えているか、非常に興味深いです」

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