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欧州の豪雪「東の猛獣」は海氷が減ったせいだった、最新研究

  • 2021年4月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2018年2月から3月にかけて、ヨーロッパは歴史的な大寒波と豪雪、いわゆる「東の猛獣(Beast from the East)」に見舞われた。南はローマまで雪が降り、英国では猛吹雪で高さ約8mもの雪溜まりができたほどだった。

 最新の研究により、この豪雪には、ノルウェーとロシアに囲まれた北極海の一部であるバレンツ海の海氷の減少が関係していたことが明らかになった。降雪量の88%に相当する1400億トンもの雪が、その年に海氷が異常に少なかったバレンツ海から蒸発した海水に由来した可能性があるという。論文は4月1日付けで地球科学の専門誌「Nature Geoscience」に発表された。

 ヨーロッパの寒波の原因としては、上空1万メートル前後で吹く強い西風であるジェット気流の蛇行がマスコミに取り上げられることが多い。だが、同位体マッチング、衛星データ、モデルなどを使う新たな手法による今回の研究は、北極海の海氷の減少が、はるか南の天気に影響を及ぼしうることを示している。

 研究者らはまた、冬のバレンツ海の海氷がずっと減り続ければ、大気中の水蒸気量が増加するため、ヨーロッパ北部で極端な大雪が降る回数は増えるだろうと主張する。たとえ、気候変動によって年間の平均降雪量が減少したとしてもだ。

「冬の気温が高くなってきているのに降雪量が増えるのはおかしいと思われるかもしれません」と、論文の筆頭著者であるフィンランド、オウル大学のハンナ・ベイリー氏は言う。「けれども自然は複雑であり、北極で起きたことの影響が北極だけにとどまることはないのです」

北極ならではの難しさ

 冬の海氷が減少すると降雪量が増加する、という考え方自体は新しいものではない。湖や海を覆う氷は、その下にある水が大気中に蒸発するのを防ぐ蓋のような役割を果たしている。これまでの研究により、北米の五大湖での冬の湖氷の減少が降雪量の増加と関連づけられている。

 また、北極海の海氷の減少と蒸発量の増加、(特にシベリア沿岸の)降雪量という3つの要素の関連を調べるモデル研究も行われている。その一方で、北極地方でサンプルを採取する現実的な難しさから、3つの要素の直接的な結びつきを解明する研究はほとんど行われてこなかった。

 しかし、バレンツ海はこのような関連性を探るには理想的な場所だ。ここは冬の海氷減少のホットスポットで、3月の最大海氷面積は1979年からほぼ半減している。そして「東の猛獣」は、バレンツ海の氷の減少がより南の地域への降雪を増やすのではないかという仮説を検証するのにうってつけの事例だった。

次ページ:「このような研究は見たことがありません」

 冬の北極の上空では通常、強い西風が吹ている。だが、この年は「成層圏突然昇温」と呼ばれる現象のせいで、シベリアからヨーロッパに厳しい寒気がなだれこんでいたことはすでに報告されていた。

 このとき、バレンツ海の表面温度は平均より2〜5℃も高かった。当時、バレンツ海の60%は海氷に覆われていなかったため、冷たく乾燥した空気が比較的暖かい海の上を通過する際に、大量の水蒸気を受け取ったはずだと、気象コンサルタント会社「Atmospheric and Environmental Research(大気環境研究所)」の北極地方の専門家であるジュダ・コーエン氏は推測する。なお氏は今回の研究に関与していない。

 実際、その通りになったようだ。研究者たちは、「東の猛獣」が発生していたときの水蒸気に含まれる酸素と水素の同位体のデータを、その1年前にフィンランド北部に設置された気象観測所のおかげで収集できた。これらの同位体には、水が最初に蒸発したときに関する情報が含まれており、水蒸気の発生源を直接たどることができた。その大部分はバレンツ海だった。 

 大気モデルも、寒気の発生に伴う風が海から水分を吸い上げ、2月中旬から3月末にかけてヨーロッパ全域に3回大雪を降らせたという説を裏付けた。

 ベイリー氏によると、2018年の冬の終わりにバレンツ海を覆っていた海氷の面積は、例年に比べて約17万平方キロメートルも少なかったという。これほど多くの海面が露出していなければ、「東の猛獣」はまったく違った気象現象となり、降雪量はもっと少なかったかもしれない。

 著者らは「再解析」という手法を用いて気象パターンをモデル化し、大寒波の間にバレンツ海から1400億トンの水分が蒸発していたことを明らかにした。同じ時期のヨーロッパの降雪量は1590億トンなので、そのうちの88%がバレンツ海から来た可能性が示唆された。

 これまでの研究に比べて、海氷の減少と降雪量の増加との関係が「より確実なものになった」とコーエン氏は評価する。「特に新しいと思ったのは、同位体トレーサーを利用することで、降雪量を実際にその海域に結びつけたことです」と言う。「このような研究は見たことがありません」

海氷の変化と気候との関係に注目

 今回の研究は、特に降雪量が多かった冬に焦点を当てているが、より長期的な傾向についても示唆している。

 著者らは、大気モデルと、1979年以降の衛星による観測データを用いて、バレンツ海の海氷の減少と海面からの蒸発量の増加、そしてヨーロッパ北部における3月の最大降雪量の増加との間に強い相関関係があることを発見した。別の研究の気候モデルでは、バレンツ海は2060年代初頭までには冬になっても海面が氷で覆われないようになるという予測があり、この時期の新たな水分供給源になる可能性がある。

 米ニューヨーク州立大学オールバニ校の大気科学者アンドレア・ラング氏は今回の研究には参加していないが、研究チームが海氷と降雪との関連を証明したことは、北極海の海氷の減少が及ぼす影響に関する考察の「次の一歩として理にかなっている」と評価する。

 ラング氏によると、現在、ほかの研究チームが海氷の減少と夏の北極低気圧との関連性を調べているという。そのプロセスは多少異なるものの、海氷の変化が天候に直接影響を及ぼすという考え方は、今、研究者の間でホットな話題になっている。

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