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一糸乱れず美しく飛び回るムクドリの大群、驚きの秘密と謎

  • 2021年5月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 動物が何千、何万と集まっているとそれだけで目を奪われるが、ホシムクドリの群れはなかでも壮観だ。一糸乱れぬバレエダンサーのように、夕暮れの空をバックに動きを合わせ、旋回したり、急降下したり。それは息をのむような美しさで、多くの人が足を止めて見物する。

 ホシムクドリ(Sturnus vulgaris)はユーラシア大陸を主な原産地とするムクドリの仲間で、こうした巨大な群れは、秋から冬にかけて南へ移動する際の休憩地で見られる。この間、ホシムクドリはねぐらの木から1日に約100キロも移動して、植物の種や昆虫、幼虫などを食べ、再び集合し、長ければ45分もの間、群れで飛び回る。

 もちろん、鳥が群れをなして移動するということ自体は何も新しくない。鳥類学者が長年にわたって研究してきたことだ。しかし、ホシムクドリほど協調性と複雑なパターンをもって飛ぶ鳥は他にいない。彼らは時に、75万羽もの集団を作って飛ぶ。さらに、至る所で見かけるにもかかわらず、なぜ彼らがこうした動きをするのかについては、あまり知られていない。

「結論を言えば、私は50年間これを研究してきましたが、いまだにわからないのです」。1960年代、ホシムクドリの行動に関する初期の研究を行った、米ロードアイランド大学名誉教授の鳥類学者、フランク・ヘップナー氏はそう話すが、これまでにわかったこともある。

 イタリア、ローマ大学の物理学者アンドレア・カバーニャ氏は、過去16年間にわたり、ホシムクドリがどのようにして正確かつ優雅に動きを同期させるのかを研究してきた。そのために同氏は、ローマの500人広場上空に集まるホシムクドリの群れの、高度な3Dモデルを作成した。この広場にやってくるホシムクドリの数は過去10年間で倍増し、およそ100万羽にもなっている。

 ホシムクドリが冬の渡りを行う間、カバーニャ氏は共同研究者のイレーネ・ジャルディーナ氏とともに、広場の南西側にあるマッシモ宮の屋根の上に設置した3台の高速度カメラを操作する。

「毎年冬になると、冷たい雨の中、毎晩のように屋根に登っています。そこにいるのは私たちと彫像だけです」

次ページ:全体の同期を生み出す7羽との協調

全体の同期を生み出す7羽との協調

 カバーニャ氏らは映像をもとに、群れを構成する個々の鳥の位置と速度をコンピュータモデルで再現した。

 そこからわかるのは、ホシムクドリは「スケールフリー相関」と呼ばれる仕組みで、流動的なフォーメーションを維持しているということだ。各鳥が、周りのおよそ7羽に対して近接して位置取りをし、互いの動きを協調させることで、同期を全体に広げている。

 カバーニャ氏は、この現象を高速道路での運転を例に考えるとよいと言う。「前方と後方の車、そして両側の1台か2台と、ある程度、決まった数の車と関わると思いますが、50メートルも先の車とは直接関わることはないので、そちらに気を取られたりはしないでしょう」。また、ホシムクドリの目は頭の側面にあり、体のほぼ全周を見渡せる広い視野を持っている点も有利だ、と同氏は話す。

 それぞれの鳥は近くの個体とのみ関わっているが、すべての個体の動きが群れ全体に影響を与え、また全体の動きがそれぞれの個体に影響を与えもする。これがスケールフリー相関の特徴だ。おかげで、情報が一定の速度で群れ全体に伝わり、結果として、集団の意思決定がとても速い。通常は外周にいる個体が発する「曲がれ」の合図が、400羽の群れの中をおよそ0.5秒、時速にして約145キロの速さで駆け抜けることになる。

群れの動きがタカを幻惑する

 ホシムクドリの群れが空中で織りなす様々な形やパターンには、「バキュオール(液胞)」「コルドン(非常線)」「フラッシュ・エクスパンション」など、いずれも情景が目に浮かぶような名前が付けられている。

 最も魅力的なのは、ホシムクドリが作り出す雲の中を、まるで川の流れのように暗色の帯が広がる「ウェーブ」かもしれない。オランダ、フローニンゲン大学の進化生命科学教授、シャーロット・ヘメリク氏はそう語る。

 躍動感あるウェーブを地上から見ると、ホシムクドリがより密集しているように見える。しかし、これはホシムクドリが上方へ体を傾けた際に、下で観察する人間からはより翼の広い範囲が見えることによる。また、このときホシムクドリたちは、周囲の7羽に協調しているだけでなく、全体が特定の1羽の動きに追随している。「最新のモデルによると、最も近接している個体の行動を模倣することで、その動きが群れの中に広がっていくことがわかっています」とヘメリク氏は言う。

 同氏はさらに、高度なコンピュータモデリングを用いて、捕食者であるタカやハヤブサの動きに特異的に関連した群れの動きが捕食者を混乱させ、群れからはぐれた鳥を捕まえることを難しくしているという、集団での逃避のパターンを立証した。

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巨大な群れの謎

 とはいえ、なぜホシムクドリがこれほど巨大な群れを作って空を旋回するのかは、依然として大きな謎だ。

 最も一般的な説明は、それぞれが捕食者から身を守るための反応だというもので、“一緒に方が安全(希釈効果)”仮説と呼ばれる。しかし、ホシムクドリたちは巨大な群れを作って空を旋回せずともまっすぐねぐらに戻れるのだから、それは理論的におかしいとヘップナー氏とカバーニャ氏は言う。

「飛行時間は最小限にしたいはずだと思うでしょう。ところがむしろ30分から45分もの間、猛烈な勢いでエネルギーを消費して、壮大なディスプレイを繰り広げるのです」とヘップナー氏。

「その間、実際に捕食者を引き付けてもいます。まるで、『私たちはここにいますよ』とアピールしているようなもの。このようなメカニズムがどのように進化したのか、考えざるを得ません」

“一緒にいる方が暖かい”仮説とでも呼べる考え方もある。騒々しい群れがねぐらとなっている場所の宣伝になり、体温を保つべく多くの個体が集まってくるというものだ。

 この謎を解き明かそうと、英グロスターシャー大学および王立生物学協会の研究者たちは、23カ国のボランティアが2014年と2015年に集めた3000以上のデータをまとめた。だが、2017年に発表された結果によれば、気温と群れの大きさに相関関係は見られなかった。

 また、3分の1弱の群れにタカやハヤブサなどの猛禽類がともなっており、安全説をある程度、裏付ける結果となっている。しかし、なぜホシムクドリたちがこのような長時間のパフォーマンスを行うのかについては、解明されないままだ。

驚くほど賢いホシムクドリ

 一方で、ホシムクドリのある特徴については、研究者の間で意見が一致している。彼らは驚くほど賢い、ということだ。ヘップナー氏は研究のためにホシムクドリを飼育していたが、「ケージの鍵を開けるのがとても上手だったので、南京錠をつけなければなりませんでした」と言う。

 ホシムクドリの「脳力」を考えれば、彼らの行動は単に、動くということの喜びを意識的に表現したものだ、という可能性もあるのだろうか?

「捕食者がいない場合、このような振る舞いを一種のダンスと見なすことは可能だと思います」とヘメリク氏は言う。

「あまり意図的に結びつけ過ぎないようにしたいとは思いますが、彼らは実に楽しそうに、時に非常に長い時間、それをやっているのです」と同氏は語る。「すぐに寝ればいいものを、ね」

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