サイト内
ウェブ

渦巻くオーロラ「宇宙ハリケーン」を初確認、研究

  • 2021年4月1日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 太陽から地球に向かって高エネルギー粒子が放出されると、地球の北極や南極の空に美しい光の帯が現れる。オーロラだ。けれども時折、北極の上空に不鮮明な謎の光が漂っていることがある。太陽活動が静かな時期に現れるこの光の正体は何なのか、どのようにして作られているのかは、これまではっきりしていなかった。

 国際的な科学者チームが、ついにその謎を解き明かした可能性がある。科学者たちはこの光を、オーロラがハリケーンのように渦巻き状に回転しているものではないかと考え、「宇宙ハリケーン」と名付けた。2月22日付けで科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に論文が発表された。

 研究チームは、人工衛星が収集してきたデータを解析し、北極上空のオーロラの活動をかつてないほど詳細にとらえた。論文によると、2014年に北極上空に現れた珍しいオーロラにはハリケーンの「目」に相当する穏やかな中心部があり、そのまわりにプラズマ(正負の電荷をもつ粒子が混ざり合ったガス)の強風が渦巻いていたという。宇宙ハリケーンは8時間前後続き、直径は1000km以上あり、海面から100km〜800kmの高さの宇宙空間まで広がっていた。

 2014年以前に観測された同様のオーロラも、宇宙ハリケーンであった可能性がある。だが、「その形態や挙動において本当にハリケーン状であることを確認できたのは今回が初めてです」と、論文の共著者であるノルウェー、ベルゲン大学の宇宙物理学者キェルマー・オクサビク氏は語る。

 しかし、宇宙ハリケーンがどれほどの頻度で発生するのか、また、そのエネルギーのどのくらいの部分が地球大気に移行するのかなど、まだわからない部分もある。

宇宙ハリケーンを探す

 論文の筆頭著者である中国、山東大学の張清和氏は、ここ数年、米国の防衛気象衛星計画(DMSP)などの衛星データに目を通し、興味深い高層大気現象を探していた。DMSPは、もともとは1960年代に米国が世界の気象状況を把握し、米軍の軍事行動計画に役立てるために設立したプログラムだが、現在は機密解除されている。

 木星、土星、天王星、海王星の大気には、ハリケーン状のものがある(木星の大赤斑はその一例だ)。それなら、ほかの惑星の最上層の大気にも同じようなものが存在するのではないかと、張氏は考えた。そうしてまずは多くの人工衛星に取り囲まれている地球から探してみることにしたのだという。

 これまでにも人工衛星が北磁極の上空にオーロラのようなものを発見したことがあったが、人工衛星の軌道や搭載されているカメラの関係で、ぼんやりとしか見えなかった。しかし、米国の軍事衛星はもっと地球に近い軌道を回っているし、それらの現象をはっきりとらえられる観測機器も搭載している。とはいえ、出現時期も特徴もわからない宇宙ハリケーンを発見するのは容易ではなかった。「自分が何を探しているのかわからないまま探すのですから」とオクサビク氏は言う。

 2014年8月20日、北磁極の真上で回転するオーロラを、人工衛星はとらえていた。しかしこの日の太陽活動は、オーロラにふさわしいものではなかった。太陽の磁場の向きは強いオーロラを発生させるには不適切で、太陽風(太陽から宇宙空間に向かって放射される粒子や磁気の流れ)の動きは遅く、高エネルギー粒子も多くなかった。

 ではなぜ、このオーロラは発生したのだろう?

次ページ:オーロラの渦

オーロラの渦

 まずは、通常のオーロラが発生するしくみを説明しよう。

 太陽から宇宙空間に飛び出した電子が地球の磁極に向かって降り注ぐと、その電子が高層大気中の原子や分子に衝突し、一時的にエネルギーを与えて光を生じさせる。光の色は、電子が衝突したガスの種類によって、白、赤、紫、青、緑などになる。これがオーロラだ。北極で発生するオーロラは北極光、南極のものは南極光と呼ばれることがある。

 北極光は、北磁極を中心とするドーナツ状の「オーロラオーバル」の中で見られる。地球の磁場が太陽風やその磁場に反応するのに合わせて、オーロラオーバルは大きくなったり小さくなったりする。

 2014年に発生したハリケーンに似た渦状のオーロラでは、光は磁北のまわりにコンパクトに集まって回転していた。この現象を説明するため、研究チームは3次元モデルを使って磁性流体の動きをシミュレーションし、人工衛星がとらえた光を再現しようと試みた。

 その日、地球付近の太陽の磁場と地球の磁場とのカップリングは非常に弱く、オーロラオーバルは北磁極の上の小さな点のようになっていた。太陽風は穏やかだったが、電子は地球の高層大気に降り注いでいた。

 オーロラオーバルが広ければ、通常は薄暗いオーロラになるはずだ。しかし、この日は狭いオーロラオーバルに電子が降り注いでいたため、その場所に飛び込んでくるガスの原子や分子が通常よりも多くなり、予想以上に明るいオーロラが発生した。

 また、この日の太陽風には東西方向の磁気成分も含まれていた。これは特に珍しいことではないが、オーロラオーバルが非常に小さくなっているときに東西方向の磁気成分があると、オーロラを押して回転させるようになる。これが宇宙ハリケーンの正体だ。

2つのハリケーン

 論文の著者たち自身も認めているように、オーロラの渦を地球の海上で生まれたハリケーンにたとえることに問題がないわけではない。

 たしかに、どちらも中心に静かな「目」があり、渦巻き状の腕がある。しかし、2つの現象は根本的に異なるものだと、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の気候科学者であるダニエル・スウェイン氏は指摘する。ハリケーンは熱帯地方の海からエネルギーを取り出して極地に運ぶ熱機関であり、「宇宙ハリケーン」とは物理的プロセスが全然違う。なお、同氏は今回の研究に関与していない。

「ハリケーン」という言葉も、地球上のハリケーンのように巨大で、猛烈で、破壊的なものという印象を与えるが、宇宙ハリケーンが脅威となることはあるのだろうか?

 例えば、磁北の上空の大気が電波や衛星通信を跳ね返すと、北極圏の探検家が使うGPS地図上の位置が狂うおそれがある。また、通過する人工衛星の速度が低下する可能性もある。

 とはいえ、その影響は非常に小さいだろう。NASAのゴダード宇宙飛行センターの宇宙物理学者アレクサ・ハルフォード氏は、宇宙天気で本当に危険なのは磁気嵐だと言う。磁気嵐は、太陽で発生する特に強力な爆発によって生じる地磁気の乱れで、地球上の電子インフラが甚大な被害を受けるおそれがある。なお、同氏は今回の研究に関与していない。

地球以外の天体にも?

 研究チームは今、さらなる宇宙ハリケーンを探そうとしている。オクサビク氏は、どのような特徴を探せばよいかがわかったので、衛星データから宇宙ハリケーン候補を検索するアルゴリズムを作れるようになったと言う。ほかの候補が見つかれば、宇宙ハリケーンの挙動をより深く理解することができ、北極の上空でしか発生しないのか、南極の上空でも発生するのかといったことが明らかになるはずだ。

 2014年の宇宙ハリケーンが太陽活動の静かな時期に出現したということは、平均以上の太陽活動を必要としない、ありふれた現象であることを示している。そうであれば、地球だけでなく、磁場をもつ巨大ガス惑星や巨大氷惑星、さらには磁場をもつ唯一の衛星である木星のガニメデなどでも宇宙ハリケーンが見られる可能性がある。

 今のところは、たった1つの発見で十分満足だ。「私たち人間は、宇宙や地球やその周辺にあるものについて多くのことを知っていると思っています」とオクサビク氏は言う。「ところが、こんなにも近いところで、予想外のものを発見することがあるのです」

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2021 日経ナショナル ジオグラフィック社