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気候変動対策で急浮上の森林再生、米国の鍵は「苗木」、研究

  • 2021年3月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 二酸化炭素を吸収し気温の上昇を抑える手段として植樹が急浮上しており、今やアマゾンやアップルをはじめとする多くの企業や政治家、環境保護主義者論者らがこぞって森林再生を急速に推し進めている。

 しかし、学術誌「Frontier in Forests and Global Change」に2月4日付けで発表された最新の論文によれば、森林再生に使える土地を十分に活かすには、現状では苗木が足りておらず、全米の生産量を少なくとも年間30億本に増やさなければならないという。30億本は現在の2倍以上だ。

 論文の筆頭著者である、自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシー北米支部のジョー・ファジョーネ氏は「早いうちに」増やさなければならない、と述べる。「木は育てなければ植えることができません。そして、種がなければ苗木を育てることすらできません」

 米国の苗木生産量をどのように増やすべきかをより深く理解するため、ファジョーネ氏ら十数人の研究者は2020年、連邦、州、民間合わせて181の育苗業者と森林業者を調査した。米国の苗木生産量の半分以上をこの181業者が占める。

 今回発表された調査結果によると、現在、全米の育苗業者で年間13億本の苗木が生産されている。その大部分が製材会社による伐採や山火事での損失を補うために充てられる。もし論文にある通り米国の森林を2600万ヘクタールほど増やすには、苗木を年間17億本増産しなければならない。その結果、必要な苗木は年間30億本になる。つまり、現在の2.3倍だ。

 論文によれば、苗木生産量を2.3倍に増やし、排出された炭素を十分回収できるほど長く維持するには数百億ドルのコストがかかるという。種子の収集を行う専門家を養成し、新たなインフラに投資するだけでなく、森林が害虫、病気、干ばつ、山火事などを乗り越えられるよう長期的な監視を強化する必要がある。これらの脅威はすべて、気候変動によって増加しているものだ。

次ページ:山火事などによる消失に追いつかない

苗木の生産拡大の可能性は

 現在、森林の再生と保護を迫る動きはかつてないレベルに達している。2020年8月には、25を超える米国の地方政府、企業、NPOが2030年までに全世界で1兆本を植樹するという世界経済フォーラムの取り組み「1t.org」への参加を表明した。10月には、当時の米大統領ドナルド・トランプ氏が大統領令に署名し、国としても達成を目指すことになった。

 木を育てることは個々の企業や地域の目標を超え、国の気候目標にもいくらか貢献できる。ある試算によれば、今回の研究で示された2600万ヘクタールの森林再生が実現した場合、その二酸化炭素排出削減量は米国のパリ協定目標値の約7.5%に相当するという。

 しかし、現在の森林再生ペースでは、米国西部で近年頻発している壊滅的な山火事によって消失した面積に追い付くことはできない。気候変動により山火事は激化すると予想されており、森林はむしろ減少することになる。

「植樹が必要だが間に合っていない土地の面積が増えていることをやっと認識し始めたところです」と、論文の共著者オルガ・キルディシェワ氏は話す。キルディシェワ氏はネイチャー・コンサーバンシーのプログラムマネージャーで、種子の生態学を専門とする。

 炭素排出量を相殺するため、より多くの木を植えることになれば、苗木の需要はさらに増える。ファジョーネ氏によれば、朗報が1つある。調査の対象となった公営、民間の育苗業者のうち、現状でフル稼働しているのはわずか3分の1だ。つまり、拡大の大きなチャンスがある。

 苗木の生産は30年以上前にピークを迎えた。米国では1980年代後半、年間26億本を超える苗木が生産されていた。ところが、2008年の景気後退をきっかけに、多くの育苗業者が廃業。苗木生産量は10億本以下まで落ち込んだ。

 かつての規模を取り戻すにはかなりの労力が必要だと、自然保護団体アメリカン・フォレストで森林再生担当バイスプレジデントを務めるエリック・スプレーグ氏は述べる。それでも、米国が森林再生の目標を達成できるかどうかの「非常に重要な部分を占めることになる」と言う。アメリカン・フォレストは今回の研究と1t.orgの両方で主導的な役割を果たしている。

「今あるものを拡大、改善するだけでは足りません」とスプレーグ氏は話す。「この目標を達成するには、新しい育苗業者をつくっていく必要があります」

 公営、民間の育苗業者すべてがフル稼働した場合、毎年さらに4億本の苗木を育てることが可能だと論文は試算している。研究チームはまた、過半数の育苗業者が生産能力を拡大すれば、年間11億本を増産できると予想している。調査の対象となった育苗業者の大部分が生産拡大への意欲を示している。現在の生産量である13億本にこれらすべてを足すと、論文が示した最低限必要な数である年間30億本に近づく。

次ページ:育苗業者を取り巻く事情

種子を集め苗を育てる仕事

 苗木の生産量を増やし、それらを植えていくには、プロセス全体で支援や投資を強化する必要がある。論文が指摘している通り、専門的な労働力、インフラ、訓練への「投資が慢性的に不足」している。「労働力の課題は規模拡大の一番の障壁です」とスプレーグ氏は話す。

 種子の収集者は特定の種が種子を飛ばす時期を予測し、実際に収集し、栽培できる状態にしなければならない。さらに、数年たっても使用できるように種子の品質を検査し、保管する方法を習得しなければならない。研究に参加した米ウィスコンシン州自然資源局林業部門のグレッグ・エッジ氏は「種子は傷みやすいため、慎重に扱う必要があります」と話す。しかし、この仕事を専門とする人の数は減る一方だ。

 また、育苗業者でも常勤スタッフが少数しかいない。残りは種まき、収穫、選別、梱包を担当する季節労働者だ。しかし、多くの育苗業者は辺ぴな場所にあり、農業関係の仕事との競争もあるため、季節労働者を集めるのは容易ではない。移民政策も労働者の数に影響を与えていると論文は指摘する。

植えるだけでは森にはならない

 官民を問わず、長期的に資金をもたらしてくれる植樹キャンペーンを実施すれば、育苗業者は確実に生産量を増やせるだろうと専門家は口をそろえる。

 今回の研究では、森林再生の目標を達成する主な手段として植林を前提にしているが、既存の森を守り、天然更新を促すことも忘れてはならないと、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の環境学教授カレン・ホール氏は言う。なお氏はこの研究に参加していない。

 さらに、「何本の木が育って根づくかより何本の木を植えるかに重点を置くという見当違い」によって、植樹キャンペーンが失敗に終わることさえあると論文は警告している。そして、気候変動によって植物の生育地が変化している現状を踏まえ、さまざまな環境でどの種子が繁栄するかについてのガイドラインを作成すべきだと提言する。

「ただ木を植えればいいわけではありません。よく考えてうまくやる必要があります。ただ地面に木を突き刺せば、100年後には森になっているというものではないためです」とエッジ氏は話す。種を苗木にするには膨大な資金、労力、忍耐が必要だ。「死んでしまう苗木を地面に突き刺し、時間を無駄にするようなことはしたくありません」

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