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実り豊かな「沼」とその生きものたち、沼地の大きな価値とは

  • 2021年5月4日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 官僚主義を改革するという意味で「沼の水を抜く(drain the swamp)」という表現が使われるようになって久しい。沼には、よどんで悪臭を放つ不快な場所というイメージがつきまとっているからかもしれない。

 だが、実際の沼はとても実り豊かな場所だ。文明発祥の地とされる中東では、沼地が農業や人間社会に恵みをもたらした。

 米国大陸部で沼地を含め湿地が占める面積はわずか5%にすぎないが、「米国内の植物種の3分の1近く」、また絶滅の危機にある希少な動植物種の3分の1以上が湿地に生息していると、米アラバマ州にあるモンテバロ大学の生物学者マイク・ハーディグ氏はメールでの取材に対して説明している。

 それでは、沼とはいったい何なのだろう。どのような動物が生息し、どのようにして生物が暮らしやすい環境を提供しているのだろうか。

沼もいろいろ

 英語では「沼」を指す言葉がいくつかあるが、なかでも「沼の水を抜く」のswampは「樹木や低木などが生えていることを特徴とする」湿地のことだと、米フロリダ大学流域生態学研究室の博士課程に在籍するエリオット・ホワイト・ジュニア氏は説明する。氏はメキシコ湾北岸一帯の沼地を調査している(編注:主に草が生える沼地をmarshという。この記事の「沼地」はswampを指す)。

 伐採や農地への転換をされることなく歳月を経た沼地は、「高くそびえた木々が、大きな教会の円柱のように広い間隔を空けて並んでいるので、大聖堂のような雰囲気を感じることがあります」と氏は話す。

 フロリダ州のマナティースプリングス州立公園にある沼地などに分け入ると、よく晴れた日でもひんやりとして薄暗いという。

 薄暗く、気味悪く、近寄りがたいことが、沼地の豊かな恵みが見過ごされてきた一因のようだ。

クマの避難所

 ルイジアナ州のアメリカクロクマは「以前、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種(threatened)に指定されたことがあります」とホワイト氏は話す。だが沼地が回復すると、個体数も持ち直したという。

 沼地では「クマはのびのびと歩き回れます。道路を横断したり人間と危険な出会い方をすることもありません」

 同様にシカやカモも、ハンターが来ない沼地ではのんびりと過ごすことができる。

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万能の掃除人たち

「沼地の微生物は水質を改善してくれます」と米フロリダ大学の保全生態学者クリスティン・アンジェリーニ氏はメールで説明している。微生物が水から過剰な窒素を除去するからだという。

 さらに、沼地でよく見かける植物のサルオガセモドキ(スパニッシュモス)は、空中に浮遊する微小粒子を取り除いて空気を浄化してくれる。また、サルオガセモドキをすみかとするコウモリやクモは、感染症を媒介する蚊やゴキブリなどの数を抑える働きをしているという。

 それだけではない。沼地には、動物の死骸を食べて片付けるカメも多くの種が暮らしている。米国の東海岸や五大湖周辺にすむキボシイシガメもその1つだ。

 また、沼地の水底には二枚貝など、ろ過摂食性の無脊椎動物が多数生息していて、「漂う有機物を掃除して水質を浄化しています」とハーディグ氏は話す。

勤勉な大工たち

 アラバマ州にある沼地「エベニーザー・スワンプ」では、ビーバーたちが活躍している。「ビーバーがダムを築くと、他の多くの生物が暮らせる池ができます」とハーディグ氏は説明する。氏は、エベニーザー・スワンプ湿地研究・解説プログラムのリーダーだ。

 ビーバーたちは、川の流れをせき止めて池を作る。このような池は、テキサス州のように深刻な干ばつに見舞われた土地では特に重要な「開けた水域」で、「周辺に住む野生動物の水飲み場となります」と氏は言う。

 水辺に産卵するトンボや、その餌となる蚊は沼地で卵を産み、鳥類、魚類、両生類、コウモリ、その他の昆虫に餌を提供している。

 沼地は決して不快な場所でも恐ろしい場所でもない。「沼地は私たちに自然の美しさを惜しみなく見せてくれ、現代社会で疲れた心を癒やしてくれます」とハーディグ氏は語る。

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