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マスクの不快感、「折り紙」技術で解決できるか

  • 2021年1月26日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 伝統的な折り紙の技術を使うことで、マスクのフィット感が増し、その機能やファッション性が高まるかもしれない。

 リチャード・ゴードン氏は、折り紙の技術を用いたマスク「エアガミ(Airgami)」を販売する米Air99社の創設者兼CEO。ゴードン氏が折り紙マスクを作り始めたのは、今から10年以上も前のこと。きっかけは、中国の蘇州で、大気汚染から息子を守るためのフィット感の良いマスクが見つからなかったことだった。しかし、今回のパンデミックで、ゴードン氏をはじめマスク開発者の仕事は新たな緊急性を帯びてきた。

 ワクチン接種の順番を待つ米国人にとって、マスクの着用は、感染拡大を抑えるための重要な対策だ。バイデン新大統領は、今後100日間はマスクを着用するようにすべての米国人に呼びかけており、連邦政府の建物内でのマスク着用を義務付ける大統領令に署名した。

 バイデン大統領は就任式で、「私たちはこれから新型コロナウイルスによる最も過酷で悲惨な期間に入ろうとしています」と語った。「政治を脇に置き、1つの国家としてパンデミックに直面しなければなりません」

 マスクはパンデミック後も、ウイルス対策や汚染対策として、重要な役割を果たす可能性がある。マスクは多くの国々で日常生活の一部になっているが、米国ではそうではない。しかし、ナショナル ジオグラフィックと調査会社のモーニング・コンサルトが最近行った世論調査によると、米国でもマスクの着用に対する姿勢が変わりつつあるようだ。米国の2200人の成人の約63%が、パンデミック後も常時または時々マスクを着用すると回答した。約64%は、大気汚染を防ぐためにマスクをすると答えた。さらに67%が、インフルエンザの季節にはマスクをすると答えている。

 しかし、マスクへの不満は多い。平べったいマスクをしていると、濡れた布を顔に押しつけられたような不快感に悩まされる。布製のマスクや医療用マスクは、健康な成人には十分な量の酸素を通すことができるが、息苦しく感じさせるものもある。さらに、ウイルスを防ぐ効果はマスクによってまちまちだ。折り紙マスクは、こうした問題の多くを緩和できると期待されている。

折り紙マスクができるまで

 折り紙マスクの開発において、最初の大きなハードルは素材である。マスクは単純な濾し器ではなく、粒子を捕まえる迷路のようなものだ。粒子が壁にぶつかる機会が多ければ多いほど、フィルターの性能は良いことになる。1層よりも2、3層ある方が優れており、無秩序な構造を持つ素材ほど良いフィルターになる。

 米カリフォルニア大学アーバイン校の博士課程研究員であるジョナサン・リアルムート氏は、一般の人が入手しやすい材料の中にも、効果的なマスクになるものがあると言う。なかでも、暖房、換気、空調システムに広く使用されている不織布のフィルターは特に効果的で、ほとんどのホームセンターで購入できる。

次ページ:何より重要なのは顔にフィットすること

 適切な素材を見つけることは、効果的なマスクを作るための第一歩にすぎない。さまざまな素材のろ過性能を調べた米コロラド州立大学のジョン・フォルケンズ氏は、「どんなに良いフィルターを使っても、顔にフィットしていなければ意味がありません」と言う。

 マスクのデザインや装着の仕方が不適切だと、鼻や頬の周りに隙間ができて、ウイルスを含んだ粒子の出入り口になってしまう。折り紙マスクの長所は、この隙間をふさげる点にある。

 フォルケンズ氏によると、市販の多くのマスクには、すでに折り紙の技術が取り入れられているという。例えば、3M社のVフレックスは、折り紙の技術と熱溶着の手法を組み合わせた、より快適なN95マスクである。しかし、米国では需要の急増によりN95マスクの供給が滞っていて、入手は困難だ。

 そんなマスク需要の高まりを受けて、誰もが家庭で作れるようなマスクから、折り紙の達人でなければ作れないようなマスクまで、さまざまなデザインの折り紙マスクが登場した。

 一般的な医療用マスクのひだの角度を変えるだけで、フィット感は格段に向上する。ジャンメイ・ウー氏の折り紙マスクのデザインの中心にあるのは、この発想だ。折り紙アーティストで、米インディアナ大学のインテリアデザインの准教授でもあるウー氏は、コロナ禍が本格化しはじめた2020年1月に、香港にいる兄から連絡を受けて、マスクのデザインパターンの実験に取りかかった。

「目標は、単純で、作りやすく、よくフィットするデザインを見つけることでした」とウー氏は言う。氏は、マスクの端の折り方を再検討することで、さまざまな顔の輪郭にフィットする3種類のデザインを考案した。

 ゴードン氏の「エアガミ(Airgami)」はもっと複雑で、山折りと谷折りを重ねることでマスクに独特の構造を与えている。エアガミは引っ張ると膨らむオーセチック材料という素材でできているため、着用者が動いても、マスクが顔に密着した状態を保つことができる。このマスクはAir99社が独自に実施したN95のフィット試験とろ過試験に合格しており、同社は米国立労働安全衛生研究所による認証取得を目指している。

次ページ:製造工程の問題

 折り紙マスクのデザインを工夫すれば、着用時の快適性を高めることができる。折り目をつけてマスクを立体的にすれば、唇がじかに触れなくなり、不快感を軽減できる。

 エアガミマスクは、複雑な折り目があるおかげで表面積が大きい。フィルターを広げると、一般的なN95マスクの2〜3倍もの大きさになる。したがって空気が透過しやすく、呼吸がしやすくなるという。

「太いパイプをくわえて息をするのと、ストローのような細いパイプをくわえて息をするのと同じくらいの違いがあります」とゴードン氏は言う。

 折り紙マスクには美しさという利点もある。素材にさまざまな色や柄を印刷することもできる。米ペンシルベニア大学の材料工学教授であるシュー・ヤン氏は、「美しいマスクができれば、それを身に着けることが心地よく感じられるので、着用する人が増えるでしょう」と言う。

製造工程の問題

 しかし、デザインが複雑になればなるほど、製造は難しくなる。「この種のイノベーションは素晴らしいと思います」とフォルケンズ氏は言う。しかし、「1日に100万個のマスクを製造できるようにならないかぎり、問題を解決することはできません」

 ウー氏のシンプルな折り紙マスクでさえ、安価に製造するのは難しかった。彼女は現在、このマスクを1枚1ドル(約103円)以下で大量に生産する方法を模索している。「それが折り紙マスクの課題です」とウー氏は言う。

 ゴードン氏のチームも生産のスピードアップに取り組んでいる。このマスクは1枚33.99ドル(約3500円)で販売されているが、ゴードン氏は製造工程の改良によりコストを下げていきたいと考えている。ゴードン氏は、エアガミの折り畳みの工程を支援するツールを開発したが、デザインが複雑であるため、どうしても手で折らなければならない。1個のマスクを製造するのに要する時間は数分だが、「これを数秒にしなければなりません」とゴードン氏は言う。

 しかし彼らは、折り紙マスクの未来は明るいと考えている。ゴードン氏は、著名な折り紙アーティストであり物理学者でもあるロバート・ラング氏が2008年にTEDの講演で語った言葉を心の支えにしている。ラング氏は講演で、「奇妙で意外に思われるかもしれませんが、折り紙はいつか人々の命を救うかもしれません」と言ったのだ。

 ゴードン氏は言う。「ロバートの言葉が正しいことに賭けてもいいでしょう」

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