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新政権誕生、米国と世界が直面する気候変動「5つの数字」

  • 2021年1月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 欧州連合の気象情報機関であるコペルニクス気候変動サービスによると、2020年は、2016年と並んで観測史上最も暑い年となった。この数字は、明らかに地球の環境が変化していることを示している。

 だが、これは意外な結果ではない。昨年、化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出量は、新型コロナウイルス感染症による世界的な経済不況で7%減少したものの、全体で約400億トンもの二酸化炭素が排出された。19世紀からの累積排出量は数兆トンに上り、世界の平均気温は上昇を続けている。

 ジョー・バイデン米国大統領は、原油輸送用のキーストーンXLパイプラインの認可を取り消し、米国の排出量を削減する大胆な計画を採択すると公約していた。就任初日の20日にパリ協定へ復帰する大統領令に署名し、米国の気候変動政策は今、新たな幕を開けようとしている。そこで、米国を含め世界が現在直面している問題を5つの数字とともに挙げてみた。

1.25℃:産業革命以降上昇した地球の平均気温

 コペルニクス気候変動サービスによると、2020年の世界の平均気温は、1800年代後半と比較して1.25℃高かった。この他、米航空宇宙局(NASA)、米海洋大気局(NOAA)、英国気象庁などは、1.29℃まで上昇したと推測している。

 2020年が2016年と同じくらい暑かったという事実には、見過ごせない背景がある。2016年は、地球の気温を一時的に数℃上昇させることで知られるエルニーニョ現象がとりわけ活発だった年だ。2020年は、後半になって穏やかなラニーニャ現象(エルニーニョの反対で、地球の気温をわずかに下げる)が発生したが、それでも大量の炭素排出による温室効果を相殺するには至らなかった。

「強力なエルニーニョに相当する暑さが、2016年以降、加わってしまったということです」。米ブレークスルー研究所の気候科学者で、カリフォルニア州の研究機関バークレー・アースによる世界の年間気温調査にも関わっていたジーク・ハウスファザー氏は言う。

 2015年の採択以来、世界のほぼすべての国が、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑え、さらにできる限り1.5℃未満を目指すとするパリ協定を批准した。現在は10年間で0.2℃ずつ上昇しており、このままでは数十年以内に毎年のように目標数値を上回ってしまうことになるのは目に見えている。

次ページ:北極の氷がなくなる夏が来る

945ギガトン:「2℃目標」達成に残された炭素排出量

 66%の確率で気温上昇を産業革命前の2℃未満に抑えるために、世界の炭素予算(カーボン・バジェット、二酸化炭素の累積排出量の上限)に残された二酸化炭素排出量が945ギガトンだ。2020年は、新型コロナによる都市封鎖があったにもかかわらず、化石燃料の燃焼で34ギガトン(340億トン)もの二酸化炭素が排出された。ちなみに、2019年の排出量は36ギガトンだった。この他、土地利用の変化(森林消失など)によって約6ギガトンが排出され、総排出量は40ギガトンに上った。このまま行けば、あと25年以内に残りの予算を使い果たしてしまう。

 1.5℃未満の達成となると、さらに厳しくなる。50%の確率で目指すなら、炭素予算に残された排出量は355ギガトン、66%の確率であればわずか195ギガトンしかない。つまり、世界はあと数年以内にすべての排出を実質ゼロにするか、または二酸化炭素を効果的に大気から回収する技術を今すぐにでも開発する必要がある。

 炭素予算は世界全体の排出量を計算しているが、これまで大部分の二酸化炭素を排出してきたのは、一握りの国々だ。たとえば、1751年以降の排出量は、米国だけで全体の4分の1を占めていた。残りの炭素予算のうち各国がどれだけ使うことができるかについて、国際的なコンセンサスはない。しかし、先進国はできるだけ早く排出量を実質ゼロにする責任があると、専門家たちは指摘する。バイデン大統領は、2050年までに排出量を実質ゼロにするという目標に掲げている。

2035年:夏に北極海の海氷が完全に消滅する年

 およそ200万年前から存在していた北極海の氷は、ここ数十年で減少の一途をたどり、それほど遠くない未来、夏の間は完全に消滅してしまうと予測されている。その時こそ、北極が地球全体を様変わりさせるかもしれない「転換点」を迎えると恐れられている。

 これは、北極海だけの問題ではない。北極が温暖化すれば、広範囲で大気や海流のパターンが変化し、その影響は地球の真裏である南極の気象にまで及びかねない。また、それが悪循環に陥って温暖化に拍車がかかるという事態も起こりうる。その一例として、暖かい夏が永久凍土の融解を加速させ、その下に閉じ込められていた強力な温室効果ガスが大気中に放出される恐れがある。

 北極圏では、地球上のどこよりも早く温暖化が進んでいる。1900年以来気温は約3℃上昇し、ここ数十年間は世界平均の4倍の速さで上昇している。2020年は、この激しい温暖化の傾向を象徴したかのような年だった。シベリアを襲った熱波は半年近く居座り、ピーク時には気温が約38℃を記録した。この夏、北極海の海氷面積は過去2番目の小ささを記録した。

 気がかりなのは、海氷の消滅だけではない。温暖化がこのまま抑制されなければ、グリーンランドや西南極の氷床が崩壊したり、植物の二酸化炭素排出量が吸収量を上回ったりするなど、その他の「転換点」を迎えてしまう日もそう遠くはない。

28%:世界の発電量における再生可能エネルギーの割合

 国際エネルギー機関(IEA)のアナリストは、2025年までに再生可能エネルギーが石炭や天然ガスを抜いて世界最大のエネルギー源となると予測している。パンデミックが始まった頃の予測に反して、太陽光や風力をはじめとする再生可能エネルギー発電プロジェクトの導入は2020年に急増した。IEAは、それが今後も増え続けるだろうと予測する。

 しかし、世界の排出量を実質ゼロにするには、今世紀半ばまでに再生可能エネルギーが石炭と天然ガスにほぼ完全に取って代わる必要がある。また、電気自動車へ移行して、ガソリンの使用をやめなければならない。中国、韓国、スペインなど、既に多くの国が高い削減目標を設定し、再生可能エネルギーの使用を積極的に拡大している。米国もこれに続かなければならない。2019年、米国の全発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、世界平均の28%よりも低い17.6%だった。

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22:2020年に米国で起きた大規模自然災害

 2020年、米国で発生した被害額が10億ドル超の気象・気候関連の自然災害は、過去最高の22回に達した。これは、年に7回という長期的な平均に比べるとはるかに多い。これ以前に最も災害が多かった2017年と2011年ですら、年16回だった。

 気候変動は既に、様々な自然災害の性質、威力、リスクを変貌させている。その多くに関して、科学者は気候変動の影響であることを示す「指紋」をピンポイントで指摘することができる。例えば2020年、カリフォルニア州で1万6000平方キロが焼けた森林火災や、歴史的なハリケーン・シーズンでは、いずれも気候変動が呼び水となった。

 気候変動はハリケーンの速度を落とし、大量の湿気を含んだ雨雲が、これまで経験したことのない大雨を降らせる。2017年、テキサス州を襲ったハリケーン「ハービー」により、ヒューストンは洪水に見舞われ、この年に米国が被った気候・気象関連の被害総額は過去最高を記録した。1月26日付けだがすでに学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表されている研究によると、1988年から2017年の間に米国で発生した洪水の被害総額のうち、3分の1に相当する約700億ドルは、気候変動によって雨や雪の性質が変化したことに起因するという。

「年間数十億ドルもの損失を、過去30年間出し続けているということです」と米スタンフォード大学の気候科学者ノア・ディフェンボー氏は指摘する。そしてその数字は、気候変動が抑制されない限り増える一方だ。

 ナショナル ジオグラフィックとモーニングコンサルトによる最近の世論調査によると、45歳未満の米国人のうち、住む場所を決める際に気候変動を考慮に入れたと答えた人の割合は51%だった。また、そう答えたのは女性よりも男性、保守派よりもリベラル派、年長者よりも若者のほうが多かった。

 気候変動は今現実に起こっていることであると人々が認識し、どこに住むかといった人生の大事な選択にまでそれが影響を及ぼしている事実は、決して小さいことではないと、米イエール大学の気候変動コミュニケーションセンターの研究者ジェニファー・マーロン氏は指摘する。マーロン氏のチームは、米国人が気候変動をどう理解し、どう考えているのかについて、2010年から調査を実施している。

「ここ5年間でようやく大きく動き始めたという印象です」。特に、気候変動に危機感を抱く人、つまりこの問題を真剣に受け止め、政治に関わり、政策変更を推し進めるとみられる人の数は、2015年以降2倍に増えたという。

 こうした変化が気候変動問題をめぐる運動を前進させ、まだあまり関心を持っていない人々の意識をも変化させるだろうと、マーロン氏は予測する。気候変動対策として野心的な取り組みを掲げる新たな大統領が就任した今、その予測が正しいかどうかは近いうちに明らかになるだろう。

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