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ツイードの物語、伝統の生地はこうしてスコットランドの誇りになった

  • 2021年1月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 80年間使われている織機に身をかがめ、27歳のミリアム・ハミルトン氏はカチカチと音を鳴らし、毛糸からツイード生地を織っていく。ここは英国スコットランドの西端、アウターヘブリディーズ諸島のルイス島。湖畔の工房で、彼女は何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統を担っている。ただし彼女の作る美しい生地は、昔ながらのハンティングジャケットやシャーロック・ホームズの帽子に使われるのではなく、鮮やかな色の男性用ベストや小洒落たランプシェードになる。

「自然の中にあるパターンをツイードにしたいのです」と、クロスボストの町にある「ザ・ウィービング・シェッド」で仕事をするハミルトン氏は言う。彼女は2018年に90歳の職人から織り方を学んだが、生地には彼女自身のセンスが吹き込まれている。「それは湖の色かもしれないし、アザミの花のグラデーションかもしれません」と彼女は言う。「この環境の中にあるドラマを反映しているのです」

 丈夫で耐久性に優れるツイードは、かつての素朴な生活を彷彿とさせる。その歴史には英国王室も登場すれば、この島の農業生活も登場する。一方で、現在のツイードは、地方の手工業コミュニティーと都会のデザイナー、昔ながらの技術と最新技術とが幸福なマリアージュを見せてくれようとしている。ツイードの歴史、そしてこれからを見てみよう。

ツイードはどのようにして誕生したのか

 ツイードの歴史は、一つの町や工場のものではない。毛織物は、スコットランドの日常の一部であり、農民から猟場の管理人、アスリートまで広く身に着けられてきた。スコットランドの由緒あるクラン(氏族)がタータン織物やフェアアイルのセーターを着用したのと同様に、ツイードはこの土地柄を映し、国家の誇りとなり、寒さの中で着込むのにぴったりの衣服として利用されてきた。

「想像を絶する寒さと雨の中、丘を這うようにして歩くという生活に起源があります」。そう語るのは、スコットランド南部、スコティッシュボーダーズ地方にある町ホーイックで1882年からツイードを生産しているロバット・ミル社の代表取締役、スティーブン・レンドル氏だ。

 ツイードとは簡単に言えば、地元の丈夫な羊から採取したウールを染め、紡ぎ、織って作られた、繊細な模様の入った生地のことである。スコットランドでは18世紀初頭から、大型の織機と地元の地衣類や野草で染めた糸を用いて生産されてきた。

次ページ:ツイードの名前の由来は偶然

 ざっくりとした風合いのツイードと、より華やかなタータンを混同してはならない。同じ織物でも、タータンは2色以上を用いた大胆なクロスチェック柄が多く、ウール、シルク、またはそれらを合わせた糸で作られている。ツイードは射撃、狩猟、農牧などのお供だが、タータンはハイランド地方の族長たちが着用してきたキルト、つまりこの地方の男性が着用する短いスカートに使われる儀式用のものだ。

 ツイードの名前の由来は偶然のものだった。1826年、ホーイックでロンドンの製粉業者に向けて出荷されたウールの「ツイル(スコットランドの言葉で綾織りのこと)」のラベルが、近くの「ツイード川」と読み間違えられたことがきっかけだ。その後まもなく、染料をより鮮やかにする新しい技術や、スコットランドとロンドンを結ぶ新しい鉄道路線ができたことで、ホーイックと近隣のガラシールズでは20以上の工場がツイードを生産する、繊維ブームが起きた。

 昔も今もツイードは、周辺のチェビオット丘陵に放牧されているホワイトフェイス・チェビオット種の密な羊毛から作られる。耐久性があり暖かく、防水性に優れたこの厚手のウールは、農家の人々に人気の素材となった。模様は「シェパードチェック」や「ハウンドトゥース」と呼ばれる、小さく目立たない柄が特徴だ。

 ツイードはイングランドやアイルランド、ドイツでも生産されているが、大半は今もスコットランド産だ。大きく2種類に分けると、アウターヘブリディーズ諸島で密に織られるカラフルなハリスツイードと、スコティッシュボーダーズ地方やハイランド地方で生産されるより落ち着いた色彩のものがある。

「ハリスツイードという血が流れています」

 ハリスツイードは、アウターヘブリディーズの湿原に囲まれた土地で何百年にもわたって作られてきた。ゲール語で「an clò-mòr(大きな布)」と呼ばれるこの織物は豊かな色彩が特徴で、700本または1400本の糸で織られる。その粗い生地は今も、島で染められ紡がれたバージンウールを使い、人里離れた場所にある織り小屋で手織りされている。バージンウールとは、一度も毛を刈ったことのない羊から取れる最初のウールのことだ。

「スコットランド、特にヘブリディーズ諸島は、織り手にとっては夢の国のようなものです」と、世界のハリスツイードの約4分の3を生産するハリスツイード・ヘブリディーズ社のクリエイティブ・ディレクター、マーク・ホガース氏は言う。1909年、ハリスツイードと島の脆弱な経済を守るために、190人の織り手と9000種類の模様を守る監視団体、ハリスツイード・オーソリティーが設立された。

次ページ:過去と現在の融合

 スコットランド人はハリスツイードを非常に大切にしており、1993年にはスコットランド外の工場がハリスツイードと表示することを禁じる法律を成立させている。

「私たちの体にはハリスツイードという血が流れています」と、ハリスツイード・オーソリティーの最高責任者であるローナ・マコーレー氏は言う。「ハリスツイードは社会的に隔絶されたコミュニティーで作られており、この島にとって、経済的にも歴史的にも文化的にも、大変重要であることは言うまでもありません」

 訪問者はストーノウェイにある「ハリスツイード・オーソリティー」や、ハミルトン氏の「ザ・ウィービング・シェッド」で、生地が作られるのを見ることができる。帽子、クッションカバー、バッグなどのお土産は、レバーバーグにある「ボリスデール・ツイード」でも買える。

過去と現在の融合

 アウターヘブリディーズの鮮やかな生地とは異なり、スコティッシュボーダーズやハイランドのツイードには、苔むしたような緑や、くすんだ土のような茶色が使われる。かつてはツイード川、テヴィオット川、ジェド川、エトリック川、ガラ川の柔らかな水が羊毛を洗い、工場に動力を供給していた。今日では、ほんの一握りの製糸場しか残っていない。

 スコティッシュボーダーズではツイードが過去と現在を結んでいる。ホーイックの500年前の石造りの建物の中にあるボーダーズ・テキスタイル・タワーハウスには、衣類や道具、過去200年にわたる織物製造の様子を記録した写真などが展示されている。

 近くにあるロバット・ミル社では、最先端の織機が、軽量で柔軟性のあるツイードを生産している。ファクトリーショップでは、グッチやシャネルなどが使っているのと同じ素材で作られたブランケットやマフラーを手に入れられる。

 ハイランド地方でも、やはりそうした伝統とファッションの融合が見られる。ジョンストンズ・オブ・エルジン・イン・モレー社は1797年からロッシー川のほとりで操業しているが、現在その高密度のツイードは、パリの街並みにも似合うようなハウンドトゥース柄のジャケットやお洒落なマフラーになっている。工場のガイド付きツアーでは、万華鏡のような模様の生地と熟練した織り手の姿を目にすることができる。

「現代のデザインに、色数の制限はありません」と、ジョンストンズのクリエイティブ・ディレクター、アラン・スコット氏は言う。「霜降糸1本に6色から8色を使うこともあれば、撚り糸に16色を使うこともあります。1枚のツイードには何百色もの色が使われる可能性があります」

次ページ:19世紀の王室が人気に火を付けた

アルバート王配が火を付けた

 ツイードは流行したり廃れたりを繰り返しながら、時代の中の一瞬をとらえてきた。ツイードを最大に流行させたのは、1853年にスコットランドのバルモラル城を購入した、ビクトリア女王の夫アルバート王配(プリンス・コンソート)だった。当時、ハイランドの邸宅で働く労働者や住人のために織られたエステートツイードが人気を集めていた。アルバート王配はグレーと赤が入ったチェック柄の生地の作成に協力し、現在も王室によって使われている。

「ツイードの伝統の火付け役となったのがアルバート王配でした」と、ファッション歴史家のカースティ・ハサード氏は語る。氏は、スコットランドのロンドンデザイン博物館の別館、ビクトリア&アルバート・ダンディーでキュレーターを務めている。

 こうして19世紀の粋なロンドンっ子たちの間でツイードが大流行することとなった。高級紳士服店の本格的な仕立てのおかげで、家庭的な生地は上流社会に適した衣服となった。1893年、アーサー・コナン・ドイルが架空の探偵シャーロック・ホームズにツイードの鹿撃ち帽をかぶらせて登場させたほど、ウール素材はステータスシンボルとなった。

 現在も、英国王室はツイードを身に着けている。女王エリザベス2世はバルモラル城で実用的なツイードと雨靴を着用していたし、若い世代もやはりツイードを支持している。「ケンブリッジ公爵夫人(ケイト・ミドルトン)にもその流れは受け継がれていて、ツイードを革新的に用いるデザイナーを選ばれています」とハサード氏は言う。ケイト妃は、アレキサンダー・マックイーンやキャサリン・ウォーカーなど、英国ブランドのツイードのミニスカートやモッズワンピースを着ているところを撮影されている。

世界を魅了したツイード

 20世紀になるとツイードは世界中で人気を博し、プロゴルファーのパンツや大学教授のブレザー、オートクチュールファッションにまで登場するようになった。パリのデザイナー、ココ・シャネルは、1920年代に恋人のジャケットを借りてからこの生地に夢中になり、スコットランド産(後にフランス産)のツイードをスーツやコートに取り入れ始めた。ジョン・F・ケネディ元米大統領や俳優のショーン・コネリーは1950年代から1960年代にかけて、ハリスツイードのブレザーを着用していた。登山家のエドモンド・ヒラリー卿やテンジン・ノルゲイも、エベレスト登頂にあたってツイードを身に着けた。

 スコットランド産のツイードは、米国でも英国と同じくらい人気がある。1960年代には、世界のハリスツイードの売上のなんと70%が米国東海岸でのものだった。この生地は、トッド・スナイダーやブルックスブラザーズ、ボーデン、シュプリームなどのブランドに今も登場する。ベースボールキャップなど、意外なアイテムに使われることも多い。

 英国でもやはり、若手デザイナーがスコットランド産のツイードを取り入れている。チャールズ・ジェフリー氏はラバーボーイというブランドで、ツイードとタータンを使ったクラブウェアを発表している。ジャマイカとスコットランドにルーツを持つニコラス・デイリー氏は、レゲエやアフリカといったモチーフに、ツイードを融合させたメンズウェアを発表している。

「ツイードは伝統を語るファッションステートメントです」とハサード氏は言う。「しかし同時に、その実用性と人目を引く外観のために、最先端であり続けています。ヘブリディーズの海岸のブルーとゴールド、ハイランドのグリーンとブラウンはすべて生地の色に反映され、これによってツイードは他のどの生地とも一線を画しているのです」

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