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米議会乱入、暴徒のタトゥーや旗は何を意味するのか

  • 2021年1月17日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2021年1月6日、米連邦議会議事堂へ乱入した暴徒たちは、さまざまなシンボルを携えていた。

 その中には、テレビでこの異様な光景を見ていた人々にも一目で意味がわかるシンボルもあった。赤地に青いX印、その中に白い星が並ぶ旗は、南北戦争時代に奴隷制維持を支持して合衆国からの独立を図った南部連合の旗で、今も奴隷制や白人至上主義の象徴になっている。絞首台と首のしめ縄も同様に、人種隔離政策であるジム・クロウ法時代の黒人リンチや、西部開拓時代の無法地帯を思い起こさせる。

 だがその他にも、議事堂の建物を破壊し、死者まで出した騒乱のなかには、トランプ大統領支持者や陰謀論信者、白人至上主義者の間でしか通じない多くのシンボルが飛び交っていた。旗に描かれていようと、暴徒の腕に刺青されていようと、これらのシンボルに共通しているのは、キリスト教徒の白人男性を中心とする理想化された歴史に立ち返れというメッセージだ。

 毛皮のローブに角が生えたかぶり物を着けた自称、陰謀論「Qアノンのシャーマン」は、おそらくこの日最も多く写真に撮られた暴徒ではないだろうか。何も着ていない上半身は、男の主義主張を表すシンボルで埋め尽くされていた。

 左胸には生命の樹「ユグドラシル」の下手な刺青、腹部には北欧神話の神トールの槌ミョルニル、心臓の位置にはバイキングのシンボル「バルクナット(殺された者たちの結び目という意味)」が描かれていた。いずれも、古代スカンディナビア人の図像を19世紀ヨーロッパの国粋主義者や20世紀のナチスが復活させ、歪曲して自分たちのシンボルとして使い出したものだ。こうした文化の盗用に、現代の非キリスト教徒の立場からは怒りの声が上がっている。

 米バージニア工科大学の宗教文化学部長マシュー・ガブリエル氏は、バイキングや十字軍の図像を極右主義者が採用するのは、「二重の郷愁」の表れであると語る。「1000年前も昔の中世の時代への郷愁と、近代になって興った白人至上主義運動への郷愁です」

 ほとんどが白人男性で占められていた乱入者たちの目には、バイキングの「戦う男らしさ」が魅力的に映るのだと、ガブリエル氏は言う。「少なくとも彼らの頭の中では、これらのシンボルが勇敢な戦士の象徴として刷り込まれてしまっているのは確かです」

「誰も、バイキングのような生活に戻ろうと思っているわけではありません。ただ、そういったイメージが欲しいだけです」

 南軍旗以外にも、議会で暴徒たちが掲げていた旗のなかには同様の意味を含むガズデン旗があった。ガラガラヘビの下に「Don’t Tread On Me(私を踏みつけるな)」と書かれたこの旗は、元々独立戦争時に英国に対抗する植民地軍の旗としてデザインされ、2000年代に共和党の超保守派によるティーパーティ運動で採用された。

 一方で、ほとんどの米国人が教科書の中でしか見たことのない旗に暴徒たちが手を加え、盗用した例もある。切り刻まれた蛇が描かれた旗は、「Join, or Die(団結か死か)」旗と呼ばれ、合衆国建国の父のひとりであるベンジャミン・フランクリンがデザインしたものだ。

次ページ:独立戦争時代の旗を持ち出す意図は

 米国独立後初の国旗は、独立時に合衆国を構成していた13の州を表す13個の星が円形に並んだ星条旗で、考案した女性の名をとってベッツィー・ロスの旗と呼ばれている。この円の中にローマ数字の3を書き入れた旗を作ったのは、「スリー・パーセンターズ」と名乗る反政府集団だ。

 彼らは、独立戦争では人口のわずか3%が英国を相手に戦い、独立を勝ち取ったと信じている。ある動画には、捨てられたベッツィー・ロス旗の横に、負傷した体を丸めて地面に横たわる警官が映っていた。

 歴史的なシンボルは、白人至上主義者の同志に向けた犬笛、つまり暗黙のメッセージになると同時に、自分たちの考えに同調しない人たちへの言い訳にもなると、ガブリエル氏は言う。「彼らは、そのシンボルを見た他の人が理解し、同調してくれることを期待しています。けれど、同意が得られず、しかもそれによって自分が不利益を被ると感じたら、軽い冗談か何かのように『大昔のシンボルだよ』などと言い逃れます」

 だが、1000年前の記号であろうと、独立戦争や南北戦争の象徴であろうと、白人至上主義者たちはその歴史的な重みが自分たちの活動に信用と先例を与えると信じている。

「我こそは本当の過去に忠実であり、現代社会は本来あるべき道から外れてしまったのであるという主張は、今になって出てきたものではありません」と、ガブリエル氏は指摘する。「白人至上主義者や極右主義者にとって、本来あるべき社会とはキリスト教白人男性の社会であり、そこに女性や少数派グループの入る余地はありません。彼らは、そんな社会を望んでいるのです」

 暴徒たちが掲げていたシンボルには、なぜこんなものがヘイトに使われるのかと多くの米国人が理解に苦しむものもある。ケキスタン国の国旗もその1つだ。ケキスタンはペペという名の白人至上主義者が統治する架空の国だが、元々カエルのペペはヘイトとは何の関係もない漫画のキャラクターだった。

 また、親指と人差し指で円を作り、残り3本の指を広げるOKサイン(日本ではお金を意味する)は、「White Power(白人の権力)」の頭文字をとって、広げた3本の指がWを表し、丸めた指はPの上の部分を表すサインとしても使われている。しかし、こうしたシンボルが無害なわけではない。

「重要なのは、一般の人が理解するかどうかではなく、(そうしたシンボルが)何かを意味しているということです。それは知っておく必要があります。そうでなければ、暴徒たちはそんなもの使ったりしません」と、南部貧困法律センター長のレシア・ブルック氏は指摘する。

 ほとんどの米国人は、暴徒たちの奇妙な格好に混乱させられたことだろう。ヒトラーの軍隊のような揃いの軍服集団と比べると、派手に着飾ったQアノンのシャーマンは、群衆の中でかなり目立っていた。その滑稽さとファシズムの危険な組み合わせのほうが、実は米国らしいと言えなくもない。

 そのルーツにあるのは、白人至上主義団体のクー・クラックス・クラン(KKK)が着るお化けのような白いフードとローブだ。KKKは「黒人は教育がない迷信好きであるため、お化けの衣装で簡単に脅かされる」とみなしていた。KKKは時にはジョーカーの衣装を着たり、顔を黒く塗って黒人をからかうこともあったと、通常のやり方ではアクセスできないダークウェブに広がる白人至上主義文化を暴いた本『Culture Warlords: My Journey Into the Dark Web of White Supremacy(文化の主導者たち:白人至上主義のダークウェブ探訪記)』の著者タリア・レイビン氏は言う。

次ページ:多様な政治的シンボルが集結していたことこそ衝撃的

「まず、彼らのやったことがどんなに激しい暴力であったとしても、ふざけた格好をしているだけで、その政治的立場に賛同する人々に『あいつらは本気じゃないさ』と言わせる効果があります。被害者にしてみたらたまったものじゃありません」とレイビン氏は言う。

「『ふざけていただけだよ、な?』で済ませようとするんです。プラウド・ボーイズ(トランプ大統領を支持する白人至上主義者のグループ)が『自分たちはただの飲み友達だよ』というように。そんなわけがないでしょう」

 暴徒のなかには、インターネットの裏街道で使われる頭文字を入れたシャツやパッチを着けていた者もいた。WWG1WGAとは、「Where we go one, we go all(1人が行くところへ全員も行く)」の頭文字を並べたもので、Qアノン信奉者の間で結束を示すメッセージとして使われている。Qアノンとは、「世界のエリート層はサタン崇拝者で、子どもたちを殺し、その血を飲んでいて、トランプ大統領はそのエリート層と闘っている」とする陰謀論のことだ。

 また、2020年12月にワシントンD.C.でデモ行進したプラウド・ボーイズの写真に、6MWEと書かれたシャツを着たメンバーが写っていた。「Six Million Wasn’t Enough(600万人では足りない)」の頭文字で、600万人とはホロコーストで犠牲になった人々の数だ。つまり、このシャツはホロコーストはまだ終わっていないと宣言している。

 ブルックス氏とラビン氏が最も衝撃を受けたのは、この日ありとあらゆる政治的シンボルが一堂に会していたことだ。アウシュビッツ収容所と書かれたスウェットシャツを着た男の横で、米国の国旗を振る人がいた。「これまでは過激すぎて本流から外れていた白人至上主義者たちと、米国第一主義のトランプ支持者が重なってきているのです」

 極右主義者による歴史的図像の盗用は、歴史教育に関わる学識者の注意も引き付けていると、ガブリエル氏は言う。特に、中世の専門家の間で危機感が高まっている。「これを真剣に受け止め、私たちの教育や研究の意味について考えなければならないという動きが強くなっていると思います。これらのシンボルが、ぞっとするような形で人々の目につき、消費されています。しかも、教育者のなかにまでこれを助長し、扇動している人々がいます。学術界としてこの問題に取り組み、解決しなければなりません」

 そして、最後にこう付け加えた。「ひとつ言えることは、バイキングや十字軍の授業をなぜやるのかについて説明しなくてもよくなったということです。今各地で起こっている人種差別的なデモや集会の写真を見せれば、必要であることは明らかです」

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