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急速に消える昆虫たち、だが希望はある、科学者らが警鐘

  • 2021年1月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 地球の昆虫は、毎年今の1〜2パーセントずつその量を減らしている。特に深刻な地域では、20年間で昆虫全体の3分の1が失われる恐れがある。

 そう警告するのは、権威ある学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の表紙を飾った特集「地球規模で昆虫が減っている」に寄せられた一連の論文だ。1月11日付けで発表された11本の論文には数十人の専門家が参加し、世界の様々な場所で昆虫たちに今何が起きているのかを伝えている。

 だが、すべての昆虫がそれほど急速に減少しているわけではない。なかには、数が増えている昆虫もいる。そして何よりも重要なのは、研究者たちによれば、まだ昆虫を救う道は残されているということだ。

 1000万種はいると言われる昆虫の世界を脅かしている問題は、ひとつだけではない。森林消失、気候変動、外来種、農業の工業化、そして光害まで、あらゆる脅威が昆虫たちに迫っている。

「千の傷を受けて死に至るようなもの」と、論文に関わった米コネチカット大学の昆虫学者デビッド・ワグナー氏は表現する。

 世界の食料供給を支えたり、庭の美しい花を咲かせたりするなど、花粉を媒介する昆虫たちの健全な数を維持することは極めて重要だ。虫が苦手という人は多いが、私たちの生活に虫が果たす役割の大きさは、どんなに強調してもしすぎることはない。科学者たちは、その昆虫を救う努力を優先すべきだと警告する。

「昆虫も、他のあらゆる野生生物と同様に減っています」。論文の協力者のひとりで、米ネバダ大学リノ校の昆虫生態学者マシュー・フォリスター氏は言う。「けれど、回復への道は確かにあります。険しい道ですが、まだ手遅れではありません」

実態を慎重に評価

 昆虫が世界的に減少しているという報告は、最近になって出てきた話ではない。ここ数年間、昆虫終末論から終末懐疑論まで、全く異なる見解の論文やニュース記事が次々に発表されている。

 最新の論文に関わったワグナー氏や他の研究者たちは、誇張的な論争はさておき、昆虫の世界的な実態を把握するために、できるだけ多くの研究を分析することにした。

 それは、ある特定の地域で極端に数が減っているという事実を取り上げて、そこから全世界的な傾向を推測するという過去の研究と比べて「はるかに抑制された、慎重で客観的な評価です」と、ワグナー氏は言う。

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 昆虫は急激に数を減らしているのだろうか。ワグナー氏の答えは「イエス」だ。では、昆虫の世界的な壊滅が間近かというと、実態はもっと複雑だという。

 米国西部で蝶の研究をするフォリスター氏は、全く異なる状況にある蝶2種の例を挙げる。

 米国南部の一部地域からメキシコ、中米にかけて分布するヒョウモンドクチョウ(Agraulis vanillae)は現在、カリフォルニア州で増えている。同州で、ヒョウモンドクチョウの好きなトケイソウを育てる人が増えているためだ。

 反対に、侵略的外来種のカラシナを好むシロチョウの仲間ラージマーブル(Euchloe ausonides)は、かつては広い範囲に分布していたが、気候変動、生息地の消失、農薬の3重苦に見舞われ、最近になって激減している。

 フォリスター氏の研究では、特に気候変動が蝶に与える影響に焦点が絞られている。蝶は、気候変動が原因とされる森林火災、干ばつ、荒天の脅威にさらされている。山地にすむ蝶はよりよい環境を求めて山を移動できるだろうという説もあるが、すべての種がそうだとは限らないようだ。

 オオカバマダラなどは、いつもより暖かい日が多かった2011〜2015年の夏に繁殖の機会が増え、予想よりも健全な個体数を保っていた。とはいえ、西部での減少に歯止めをかけるまでには至っていない。

私たちにできることがある

 悲観的な統計が積み重なるなか、フォリスター氏とワグナー氏はまだ希望はあるという。

 2019年にドイツは、昆虫の保護、監視、研究に1億2000万ドル近い予算を出すと発表した。コスタリカも、国内に生息する全ての多細胞生物について、一部のゲノムを解読し、記録する国際団体を支援している。10年間に1億ドルを投じるこの取り組みは、無数に存在する熱帯の昆虫にとってとりわけ重要な意味を持つと、ワグナー氏は論文の紹介文に書いている。

 一般人も、市民科学者として知識基盤の拡大に協力し始めている。「iNaturalist」というアプリでは、昆虫の画像をアップロードし、種の特定と分類を誰でも助けることができる。これが、今や昆虫観察にとって最大の情報源となりつつある。

 気候変動といった大きな問題の解決には法案と新しい政策が必要だが、個人も自宅の裏庭や近所、地域で昆虫のためにできることはあると、ワグナー氏とフォリスター氏はアドバイスする。

 まず、庭での殺虫剤や除草剤の使用を控えること。そして、できれば一部を自然の状態に戻す。米フロリダ大学ゲインズビル校の昆虫学者河原章人氏は論文のなかで、たとえば米国の全ての住宅、学校、公園にある芝生の10パーセントを自然の状態に戻せば、昆虫の生息地は1万6000平方キロ(関東地方の面積のほぼ半分)以上増えると指摘している。

 在来種の植物を育て、屋外の照明を減らすのも有益だ。照明があると、夜行性の昆虫が集まってきて、時には死なせてしまうこともある。

 もっと簡単な方法として、秋に庭に落ちている枝を拾わず、土をむき出しのままにしておけば、ハチが巣を作りやすくなると、米ワイオミング自然多様性データベースの無脊椎動物学者ルシャ・トロンスタッド氏は言う。同氏は、マルハナバチの仲間(Bombus occidentalis)の減少について研究しているが、今回の論文には関与していない。また、冬前に庭の落ち葉を集めないという手もある。

「人間が少し怠けることは、昆虫にとっていいことなんです」

 トロンスタッド氏はさらに、種の運命はあっという間に良いほうにも悪いほうにも転ぶ可能性があると指摘する。氏が研究するマルハナバチの仲間は、わずか20年で93%減少した。

 一方ワグナー氏によると、絶滅が危惧されているシジミチョウの仲間カーナーブルー(Lycaeides melissa samuelis)は、再生事業によってかなり数が回復した。カーナーブルーは体が小さく、米国五大湖の端からニューイングランド地方の砂地に生息する。長い間森林火災や住宅・商業開発によって脅かされてきたが、成虫と卵に必要な植物ルピナスを植えたり、その他の生息地改善プロジェクトが効果を上げている。

 個人が殺虫剤の使用を控えたとしても、気候変動による最悪の影響を回避するのは難しいとフォリスター氏は言うが、近所の昆虫を少しは助けられるかもしれない。こうした小さな積み重ねが、やがて大きな変化となって表れるはずだ。

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