サイト内
ウェブ

米議会乱入事件、現場にいた記者は何を見た?

  • 2021年1月12日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

6日に発生した前代未聞の米議会乱入事件。議事堂内の生々しい様子を、ジャーナリストのロバート・ドレイパー氏が報告する。

 2021年1月6日水曜日の午後1時前、マイク・ペンス副大統領は100人の上院議員の行列の先頭に立ち、米連邦議会議事堂のロタンダ(円形広間)を横切って下院に向かっていた。

 全員がマスクをつけて粛々と行進し、足音だけが大理石の廊下に響き渡った。彼らはこれから選挙人投票の結果を正式に集計し、昨年11月の米国大統領選挙の結果を最終的に決定する。

 これはごく形式的な手続きであり、通常ならば誰も気にとめない儀式のようなものだ。一部の共和党議員が選挙結果に異議を申し立てようとしていることが数日前から報道されていたものの、最終的にはその日の終わりまでにバイデン氏の勝利が確定するはずだった。けれども私は、ほんの数分前に議事堂の地下のカフェテリアで気がかりな情報を耳にしていた。

 そばにいた議会警察官のトランシーバーから、数ブロック先の共和党全国委員会本部の隣で「爆弾のような装置」が発見されたと聞こえてきたのだ。その知らせを聞いて、3人の議会警察官が走り出していった。私は直後にその場を離れた。何事も計画通りにはいかないものだと思いながら。

 副大統領と上院議員が下院に入るのを見届けた後、私は議事堂のほかの場所で問題が発生していないか確認することにした。新型コロナ対策と副大統領が来ていることを理由に、議事堂内には許可を得たスタッフとメディアしか立ち入ることができなかった。円形広間には1人の警備員もいなかった。階段で、どこかに走っていく1人の警官とすれ違った。私がいることにも気付いていない様子で、どうしたのだろうと思った。

 西側のテラスへの出口で、6人の警官が建物内に飛び込んできた。顔は赤く、まぶたが腫れている。彼らは催涙スプレーを洗い流すための水を探していた。1人は医務官を呼んだ。もう1人は廊下を走っていって女子トイレのドアを叩き、よろめきながら中に入った。2人の議会職員がキャビネットを探し回ってバケツを見つけ、水を入れ始めた。私が警官のところまでバケツを運ぶと、彼はそれをつかんで外に戻った。そこでは暴徒に攻撃されて退却した数人の警察官が治療を待っていた。

 1人の若い警官が建物内の壁にもたれかかっていた。彼は胸を大きく上下させながらアルミの袋を開けてガスマスクを取り出した。私は彼に、デモ隊に催涙スプレーを使ったのかと尋ねた。

「違います」と、彼はあえぎながら言った。「彼らが私たちに容器を投げつけているのです」

 外の暴徒の声はますます大きくなり、これに対処するには明らかに人数が足りない。議会警察の不安がつのっていくのがわかった。議事堂の出口は封鎖されていた。私は長いトンネルを通ってキャノン下院議員会館に行ったが、議員たちはすでに避難していた。数十人の職員が緊張した面持ちで廊下に身を寄せ、海外メディアの数人の記者が彼らに取材をしていた。私は警備員から、議事堂から出るにはレイバーン議員会館の地下駐車場を抜けていくしかないと教えられた。

次ページ:「これまで米国では感じたことのない」緊迫した気配

 空気は冷たく、何かの気配が満ちていた。これまでソマリア、アフガニスタン、イラク、イエメン、コンゴ民主共和国で感じたことのある気配だったが、米国で感じるのは初めてだった。サイレンがけたたましく鳴り響き、時折おもちゃの銃声が聞こえた。議事堂を取り囲む数千人の群衆のほとんどがマスクをしておらず、時折「USA! USA!」と唱和する声も聞こえたが、ずっと聞こえていたのは無秩序で俗悪な叫び声だった。

 その1時間前、私は議事堂内で警官からコンスティテューション通りは封鎖されたと聞いていた。しかし、実際にはそうではなかった。デモ隊は自由に歩き回っていた。警官たちは走り回っていたが、戦術的な目的があるようには見えなかった。数人は最高裁判所の階段に並んで立っていた。車を止めて取り囲み、運転手に外に出るように要求する警官たちもいた。その1人が、「こんな日に出てくるべきじゃなかったな、相棒」と話す声が聞こえた。

 デモに参加した人々の多くは、仲間意識と敗北した大統領への支持を表明するためにその場にいるように見えた。彼らがトランプ支持者であることは、赤い帽子を見れば明らかだ。彼らはおしゃべり好きで、時に熱くなりすぎることもあったが、基本的には、ごくふつうの人たちだった。

 敵対的な雰囲気の人々も数十人いた。彼らは男性で、ほとんどが若く、ひげを生やしていた。戦闘服を着て、何かで膨らんだ迷彩色のバックパックを背負っていた。何らかの計画を持っているかのように、彼らは数人ずつまとまって行動していた。のちの報道を目にして「あのとき見た彼らだ」と思い至ることになってもおかしくないような人々。

 第3のグループもいた。あの場所で最もこちらの心をざわつかせたのは彼らかもしれない。彼らはデモ隊というよりは、食料品店のレジの列やアメフトの試合で隣にいるような、普段は暴力に訴えたりしないであろうタイプの人々だったからだ。その1人である赤い服を着た50代ぐらいの男性は、息子と思われる2人のティーンエイジャーに、大きな震え声で「自由はただで手に入るものではない。我々の父祖がそうしたように、戦って勝ち取らなければならないこともある。今日はその日だと思う」と語りかけていた。

 私がその言葉を聞いてから約30分後、暴徒は警備を突破して議事堂内に乱入し、上院のフロアで好き勝手に暴れはじめた。下院議員と上院議員はすでに非公開の場所に誘導されていた。ワシントンD.C.市長ミュリエル・バウザーは夕方6時から市内全域を外出禁止にすると発表した。

 帰りのタクシーの中で イタリアにいる友人からメールが来た。「米国でこんなことが起こるなんて信じられない!」とあった。そのメッセージをツイッターに投稿すると、スイス、オランダ、ルクセンブルクからも同様の返信があった。米国の民主主義が内側から攻撃される様子を、世界は恐怖の感情とともに見守っていた。

次ページ:民主主義国家の議事堂を市民が包囲することの意味

 米国の首都ワシントンは暴力とは無縁ではない。1814年には英国軍による焼き討ちにあった。その25年後には、白人の暴徒が何日も街を占拠する事件が起きた。この事件は、最初に襲撃されたレストランの黒人オーナーにちなんで「スノー暴動」として知られている。1919年には市南西部の貧しい黒人コミュニティーで、白人による略奪が数日にわたって続いた。1968年にキング牧師が暗殺された後には、黒人住民の多いいくつかの地域で暴動が起きた。

 とはいえ、選挙で選ばれた代表者が集まって国家のために職務を遂行する神聖な建物を国民が包囲することには、特別な意味がある。それは、一般的には、民主主義国家ではなく独裁国家と関連づけられる光景だ。

 ワシントンは完全には程遠い町である。人種間の不平等、高級住宅地化による貧しい人々の追い出し、所得格差の拡大などの問題を抱えている。しかし、活気ある中産階級、個性豊かな各地域、そして、不満を表明することを恐れない積極的なコミュニティーを持つ、住みやすい町でもある。人々はこうした環境で暮らしながら、その時々の政権がもたらす環境を忠実に受け入れている。

 私はテキサス州の出身だが、ジョージ・W・ブッシュの大統領時代についての本を書くために、彼を追ってワシントンに移ってきた。私は自分がここにとどまることになるとは思っていなかった。また、堅苦しくて頭でっかちの政治屋の村と揶揄されるこの町を好きになるとも思っていなかった。

 しかし時間の経過とともに、ワシントンと私はお互いをよく知るようになった。テキサスからきた私は、絶えず自らを誇らずにいられない土地に慣れている。ワシントンにはその必要がない。よそ者からなんと揶揄されても、ここはなくてはならない町である。ワシントンは私たちすべての者の町なのだ。

 私はコンスティテューション通りに立ち、議事堂に押し寄せる暴徒に肝を潰しながらブツブツとつぶやいていた。その後に起きたことの映像は、ほんの1時間前には誰もいなかった廊下にデモ隊が騒々しくなだれ込んでいく様子をとらえていた。私は人類学者のように冷静に観察しなければと自分に言い聞かせながらそれを見た。

 彼らは彫像ホールを通り抜けていった。完璧なシンメトリーと音響を誇る、大理石とブロンズ像と自然光に包まれた輝かしい空間だ。何人かは驚いたように足を止めた。おそらくこの伝説的な空間を訪れたことがなかったのだろう。画面で見るかぎり、警察官などはいなかった。代わりに厳しい顔つきでデモ隊を取り囲んでいたのは、往年の政治家たちの彫像だ。彫像のほとんどが男性で、女性は少ない。多くは、今まさしく踏みにじられている民主主義制度を守るために生涯を捧げた人々だ。

 永遠に続くように思われたその夜が終わるまでに、52人のデモ参加者が逮捕された。半数は議事堂で逮捕され、残りは外出禁止令違反で逮捕された。銃で撃たれた1人を含む5人が死亡し、多数の警察官が負傷した。厳重な護衛の下、議員たちは下院に再集合した。ペンス副大統領が各州の選挙人の投票を数え、ジョー・バイデン氏が新大統領になると宣言した。システムは維持されたが、露呈した深い亀裂に全世界の目が注がれた。

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:写真で見る米議会乱入事件、トランプ支持者が暴徒化 あと15点

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2021 日経ナショナル ジオグラフィック社