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カモノハシを守れるか 数が減少、科学者たちは警鐘鳴らす

  • 2021年1月8日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 18世紀末、大英博物館で自然史コレクションの学芸員をしていたジョージ・ショーは、オーストラリアから送られてきた動物の皮を見て首をかしげた。それはまるで、水かきがついたカモの足とくちばしを、毛で覆われた哺乳類の胴体にくっつけたような不思議な代物だったからだ。学者でもあるショーは、最初、誰かが冗談で複数の動物の部位を縫い合わせたのかと思ったが、後に本物の動物であると認めた。

 それから200年以上たった今も、カモノハシは科学者たちを驚かせ続けている。メスは哺乳類なのに卵を産み、オスは後ろ足の蹴爪に毒を持つ。その毒は猛烈な痛みを引き起こすという(最近ではこの毒に、糖尿病治療に役立つかもしれないホルモンが含まれていることがわかった)。

 これだけではない。カモノハシには胃がなく、食道が直接腸につながっている。人間は性染色体を2本しか持たないが、カモノハシにはなんと10本もある。おまけに、それでも足りないと言わんばかりに、2020年の研究では毛皮が発光することが明らかになった。紫外線を当てると、毛皮は鮮やかな青緑色に光ったという。

 だが、カモノハシの研究者の一番の関心事は、奇妙な生態よりも、個体数が減少しているという厳しい現状にある。カモノハシのエサ場であり、繁殖場であるオーストラリア東部の川が、気候変動、人間による開発、干ばつ、森林火災で甚大な被害を受けているのだ。そこで科学者たちは、カモノハシの保護支援を拡大するために、連邦政府と一部の州政府に対してカモノハシの危機評価を格上げするよう求めている。

水不足が追い打ち

 カモノハシは、夜行性で人目に付くのを恐れるため、正確な個体数を把握するのが極めて難しい。ただ、個体数の減少を示す兆候はある。ニューサウスウェールズ大学の研究者やオーストラリア保護財団などによる最近のレポートでは、過去30年の間に22%以上の生息地でカモノハシがいなくなってしまったようだと報告された。

次ページ:今後50年で4分の3の個体が消える予測

 過去の歴史的資料を調べてみても、やはり数の減少が示唆されている。「その毛皮目当てに、数十万匹のカモノハシが殺されたという記録が残っています」と語るのは、ニューサウスウェールズ大学の生態学者で、カモノハシの個体数の動向を研究するターニール・ホーク氏だ。「ひとつの川で20匹のカモノハシを見たという記録もありますが、私が一度に目撃した数は、最大でも4匹です」

 2020年2月に学術誌「Biological Conservation」に公開された論文で、ホーク氏の研究仲間のギラッド・ビノ氏は、気候変動がこのまま悪化すれば、今後50年間でカモノハシの4分の3近くが消滅するだろうと予測している。

 気候変動によって干ばつは今後ますます激しく、頻繁になると予測されている。また、森林火災のリスクも高まる。2019年から2020年初頭にも、オーストラリアは大規模な森林火災に見舞われた。環境コンサルタント会社「シーザー・オーストラリア」の生態学者ジョシュ・グリフィス氏らの調査によると、その火災の後カモノハシは生息地の14%で姿が見られなくなったという。

 13年間カモノハシの研究をしているグリフィス氏は、カモノハシに脅威を与える原因を挙げる。「水不足、水不足、水不足、とにかく水不足につきます」と話す。

 同氏は、自身の勤務先があるメルボルン近郊の都市化に対しても懸念を抱いている。車道や歩道、その他の固い人工物が地表を覆い、大量の雨水が都市の河川へ流れ込む。その結果、河岸は浸食され、堆積物が増加し、カモノハシのエサとなる川の生き物が減少するばかりか、ほかの問題も悪化させていると見ている。

 川の流れを変えてしまうダムの建設も、カモノハシの移動を妨げる原因になる。ニューサウスウェールズ大学生態系科学センター長のリチャード・キングスフォード氏は、大学のあるニューサウスウェールズ州で検討されている3つのダム計画が特に気がかりだと話す。

「ニューサウスウェールズ州政府は、このダムで干ばつに対応できると考えていますが、川にとってもカモノハシにとっても、事態を悪くするだけです。ただ、被害を受ける動物たちがいると州政府が認識すれば、州はダム計画の認可基準をこれまでより厳しくするでしょう」

次ページ:危急種に格上げを求める

危急種への格上げを求める

 カモノハシは、オーストラリアを代表する動物として世界中で愛されている。また「特別な存在だと考える先住民もいる」と話すのは、オーストラリア保護財団の環境政策アナリスト、ジェームス・トレザイス氏だ。ワディワディ族は、カモノハシを聖なる霊の象徴として崇敬するが、彼らの住む地域ではもう長いこと実物のカモノハシは目撃されていない。

 カモノハシが完全に絶滅してしまわないように、研究者や写真家のダグ・ガイムジー氏などの保護活動家たちは、国や州政府に対し、カモノハシの危機評価を格上げし「危急種」に指定するよう求めている。ビクトリア州科学諮問委員会も20年11月に、この要請を認めることを提言した。南オーストラリア州では既に、危急種よりもさらに厳しい「絶滅危惧種」に指定されている。

 国レベルで危機状況の分類を格上げすれば、ただでさえ個体数の把握が難しいカモノハシの監視は強化され、ダムなどの大規模な開発計画案の審査でも、カモノハシへの影響が考慮されるようになるだろう。

 研究者は、河川に関する規制の面でも、カモノハシに配慮した措置が取られるよう望んでいる。具体的には、川の浸食を引き起こす土地の開墾を制限する、カモノハシの混獲につながるザリガニ漁を禁止するといった措置だ。

 国際自然保護連合(IUCN)にも、分類の見直しを期待する。IUCNが作成するレッドリストで、カモノハシは2016年に「近危急種(near threatened)」に分類されたが、これを「絶滅危惧種(endangered)」の一歩手前である「危急種(vulnerable)」に引き上げれば、オーストラリア政府を動かすプレッシャーになるだろう。

「手遅れになる前に何か手を打つ最後のチャンスです」と、キングスフォード氏。「今すぐ、もしくは来年にでもリストに載らなければ、2年後か5年後には確実に載せられているでしょう。けれどそれでは、私たちは責任を果たさなかったということになってしまいます」

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