サイト内
ウェブ

ハキリアリは鉱物の「よろい」に覆われていた、昆虫で初

  • 2020年11月28日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ハキリアリの名前は、その働きぶりに由来する。木の葉を切り落とし、遠くの巣まで運ぶのだが、体の何倍もある緑の旗が移動しているように見える。巣にたどり着くと、葉をかみ砕き、地下で栽培している菌類の餌にする。道中では、あらゆる捕食者に勇敢に立ち向かい、たびたびほかのアリと交戦する。

 しかし、ハキリアリはこれまで考えられていた以上に頑強だということがわかった。

 最新の研究によれば、中米に生息するハキリアリの一種は、外骨格が天然のよろいで覆われているという。このよろいのようなコーティングは、マグネシウムを大量に含んだ炭酸カルシウムでできていた。これと似た組成のコーティングを持つ生物構造は、ウニの強靭な歯でのみ見つかっている。

 炭酸カルシウム(方解石)を主成分とする骨や歯は、多くの動物に見られる。カニやロブスターといった甲殻類の外骨格にも含まれている。しかし、昆虫から炭酸カルシウムが報告された例はこれまでなかった。

 ハキリアリのコーティングは無数の小さな板状結晶でできており、外骨格を硬くする役割を果たしている。11月24日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された論文によれば、この「よろい」はほかのアリとの戦いで脚を失わないように守り、さらに真菌感染を防いでいるという。

 ハキリアリは研究がよく進んでいるだけに、これは驚くべき発見だ。研究に参加した米ウィスコンシン大学マディソン校の進化生物学者キャメロン・カリー氏は「ハキリアリに関する論文は何千もあります」と話す。

「自然界で最も研究されている昆虫の一つでこのような発見ができたことをとても喜んでいます」

 今回はパナマハキリアリ(学名Acromyrmex echinatior)1種のみの研究だったが、カリー氏らはほかの近縁種も同様の鉱物を持つのではないかと考えている。

石に覆われたアリ

 約6000万年前、ヒトやその直系の祖先が現れるはるか以前、ハキリアリは独自の農業を発明した。巣の地下にある菌類農場は、菌類がアリの幼虫の餌となり、その代わりにアリが菌類を守るという共生関係の結果であり、ハキリアリの種によって菌の種類が変わる。

 ハキリアリは50種近く存在するが、パナマハキリアリを含む一部の種は、バクテリアと共生することで、彼らの農場が他の有害菌に感染するのを防いでいる。若い働きアリの体はバクテリアに守られている。アリが農場を歩くと、バクテリアが有害菌を殺す化学物質を分泌するのだ。

 カリー氏の研究室の元博士研究員で、現在は中国の寧波大学で研究員として働くホンジエ・リー氏は、これらのバクテリアを研究し始めて間もなく、ハキリアリの外骨格を覆う小さな結晶に興味をそそられた。リー氏は地質学者に協力を依頼。電子顕微鏡をはじめとする数種の画像技術を駆使し、鉱物のような物質の組成を調べた。

次ページ:アリ戦争

 2018年秋のある朝、アリたちが生体鉱物に覆われていることが判明した。昆虫では前例のないことであり、リー氏は興奮を隠すことができなかった。

「アリが石に覆われていました。石に覆われたアリを見つけたのです!」

 リー氏によれば、ハキリアリのよろいはわずかに硬度が高いことを除き、ドロマイト(苦灰石:炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムが主成分の鉱物)とよく似ているという。

 アリを含めすべての昆虫は、丈夫で柔軟なキチン質の外骨格を持つ。今回の鉱物コーティングがよろいとして機能しているかどうかを調べるため、リー氏らはコーティングを持つアリと持たないアリを研究室で飼育した(さなぎを巣から分離し、特定の条件下で飼育すると、生体鉱物の層を持たないアリになる)。そして、いくつかの実験を行った。

アリ戦争

 リー氏は実験の一環として、少し大きい近縁種と「アリ戦争」をさせたと説明する。1時間の戦いで、「石に覆われたアリ」はそうでないアリに比べ、失った体の部位が3分の1と少なかった。

 次に、リー氏らはアリたちを病原性真菌にさらした。アリの「ゾンビ化」に関連する菌だ。6日後、生体鉱物に覆われていないアリは全滅したが、よろいを持つアリの死は半数にとどまった。

 さらに別の実験では、生体鉱物に覆われたアリはそうでないアリに比べ、外骨格が2倍以上硬いことが判明した。

 アリの成長とともに、生体鉱物のコーティングも成長する。若いアリは真菌農場の世話を担当し、ほかのアリや捕食者に襲われるリスクが低いため、コーティングをほとんど必要としないようだ。成長し、真菌農場の外で餌を探し始めるころには、コーティングも厚くなるとリー氏は説明する。

 米イリノイ大学の昆虫学者アンドリュー・スアレス氏は、外骨格でこの種の鉱物が見つかったことに特に興奮していると話す。これまでに確認されているのは、歯のような独立した特殊構造のみだった。

「あなたの体がエナメルの小さな結晶に覆われているようなものです」。スアレス氏は今回の研究に参加していない。

 米ハーバード大学で生体鉱物を研究するアンドリュー・ノール氏は「私はこの論文を楽しく読みました。生体鉱物に覆われた昆虫の外骨格という新しいものが記録されているためです」と感想を述べている。

「カニ、ロブスター、絶滅した三葉虫など、多くの節足動物が炭酸カルシウムの外骨格を持っていますが、陸上のみで暮らす昆虫まで拡大しているというのは本当に興味深いことです」

未発見のよろい

 このような生体鉱物の結晶は製造業に応用できる可能性があると研究チームは述べている。さまざまな素材を強化したり、腐食を防いだりするコーティング、ナノ結晶などだ。

 研究チームは当面の課題として、生体鉱物がハキリアリ自身のために果たしている役割を理解すること、ほかにも未発見のよろいや生体鉱物が存在するかどうかを調べることを挙げている。

 カリー氏は存在する可能性が高いと考えている。「この種の生体鉱物についてすらわかっていませんでした。そして、昆虫の約99.9%はほとんどあるいは全く研究されていません。これらの事実は何を意味しているのでしょう?」

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2021 日経ナショナル ジオグラフィック社