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時代を築いた巨大望遠鏡が解体へ、破損相次ぎ、プエルトリコ

  • 2020年11月24日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 57年前に建設され、数々の功績を残してきた巨大望遠鏡が、その使命を終える。

 米国立科学財団(NSF)は11月19日、カリブ海の米自治領プエルトリコにある、アレシボ天文台の電波望遠鏡の運用を廃止すると発表した。崩壊の恐れがあるため、望遠鏡を解体する予定という。

「子どもの頃、アレシボ天文台に触発されて天文の道を志した人間として、これは衝撃的な決定で、心が張り裂けそうです。この天文台が今日まで、どれほどプエルトリコの励みになってきたかを、私は見てきました」と、米テキサス州にある月惑星研究所(LPI)のエドガード・リベラ=バレンティン氏は、ナショナル ジオグラフィックへのメールに書いている。

試練の数カ月

 アレシボ天文台にとっては試練の数カ月だった。今回の決定は、その末に出されたものだ。

 この巨大望遠鏡は、直径305メートルの巨大パラボラアンテナで反射した電波を上空に吊るした受信機でとらえる仕組み。ところが2020年8月以降、上空の900トンにもなる受信プラットフォームを吊り下げているケーブル2本が切れてしまった。

 技術チームは望遠鏡を安定運用しようと努力してきたものの、その他のケーブルにも強度の低下や劣化の兆候が見られ、場合によってはプラットフォームが落下して約140メートル下のパラボラアンテナを突き破るかもしれないとの懸念が高まっていた。そして今回、NSFは修復を断念し、望遠鏡の運用廃止を決定した。

「望遠鏡は大惨事を引き起こす恐れがあります」とNSFは11月19日の声明で述べた。「いかなる修復の試みも、作業員の生命を危険にさらす可能性があります」

 アレシボ天文台の望遠鏡は1960年代初頭に建設され、プエルトリコの人々の誇りの源となってきた。太陽系外のものと初めて確認された惑星を発見するなど、科学的にも重要な役割を果たしてきた。また、重力波がパルサーと呼ばれる天体から放出されていることを証明し、この成果は1993年のノーベル物理学賞に輝いた。さらに、アレシボ天文台の望遠鏡は強力なレーダーとして、地球軌道に飛来する小惑星の探知にも役立ってきた。

次ページ:「とにかく悲しいという気持ちです」

「サンフランシスコにとってのゴールデンゲートブリッジや、ニューヨークにとっての自由の女神の意義を考えてみてください。プエルトリコにとってのアレシボは、それ以上のものであり、単なる象徴を超えた存在なのです」と、リベラ=バレンティン氏は書いている。「一部の人にとっては、目指すべき目標であり、我々は偉大なことを成し遂げることができるというシンボルであり、それが自分の住む地域にあって我々は全世界の役に立っているという誇りにもなっていたのです」

 この10年、アレシボ天文台は、次々と試練に見舞われてきた。2017年のハリケーン「マリア」では、島のインフラの多くが破壊され、望遠鏡も損傷を受けた。最近の群発地震では、パラボラアンテナの構造の健全性が失われた可能性があると、アレシボ天文台の元所長で現米アリゾナ大学教授のマイケル・ノーラン氏は言う。

 近年、NSFは、望遠鏡の廃止を提言するいくつかの報告に基づいて、資金投入の継続に後ろ向きだった。今回、建築工学企業3社からの提言を検討し、望遠鏡の運用廃止を進めることを決定した。報告の1つは、万一ケーブルがもう一本切れれば、壊滅的な惨事を引き起こす可能性が高いことに言及している。また、現場に入っているソーントン・トマセッティ社は、「構造物を可及的速やかに制御下で破壊すること」を推奨している。

「我々のチームはNSFと協力して、最小限のリスクで望遠鏡を安定させる方法を模索し、根気強く取り組んでまいりました」と、望遠鏡を管理する米セントラルフロリダ大学のアレクサンダー・カートライト学長は声明で述べた。「この結果は我々が目指していたものではなく、このような重要な科学的資源の運用廃止は残念ですが、安全が最優先です」

 一方、別の報告では、構造を安定させるために可能な方法がいくつか提示されており、NSFがこうした選択肢を試そうとしないことに失望していると、ノーラン氏は言う。「がっかりです。とにかく悲しいという気持ちです」

 今のところ、NSFは、天文台の一部をそのまま残し、その後も教育目的に使えるようにすることを提案している。

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