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【解説】月面の水、予想よりも豊富だった 水循環の解明に一歩

  • 2020年10月28日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 科学者たちは、月の水をめぐる謎を解き明かそうと長年、研究を続けている。先日、学術誌「Nature Astronomy」に掲載された2つの研究は、いずれも月の表面に水が存在する可能性を示すものだ。

 2つの研究のうちの1つは、太陽の光が当たる場所でも、水の分子が月の土の表面に付着している、あるいは土壌の内部に封じ込められていることを示す証拠が初めて見つかったというものだ。

 もう1つは、月面上に数多く存在する、太陽光が当たらない、つまり恒久的に影となった場所をモデル化した研究だ。月面の日が全く当たらない場所に氷が存在しうることを明らかにした。この研究によれば、月面上のこうした場所は合わせて約4万平方キロメートルにもなり、これまで考えられていたよりも約2割多いことになる。

 月の表面に、水がどのような形で存在し、月の地表のどこにあるのか――。これらを調べることで、謎に満ちた月の水循環を解明できると研究者たちは考えている。地球では、雨が降って川に流れるというように水が循環している。月では、太陽風に含まれる水素が月の地表に含まれる酸素と反応したり、氷を含んだ隕石が月に衝突したりすることで水が存在すると考えられている。

 ただ、月に存在する水がどのように動いていくのか、また太陽の当たる場所から影に覆われた場所へと移動することはあるのかといったことは、まだ分かっていない。米メリーランド大学の惑星科学者ジェシカ・サンシャイン氏によると、新たな研究は「これまで考えられていたよりも、はるかに複雑なプロセス」が月の水循環にあることを示唆しているという。

 月の水循環に関する研究は、人間がこの先、月を含めた太陽系内の天体を探索する上で不可欠なものだ(米航空宇宙局(NASA)は現在、アルテミス計画の中で、女性と男性による有人月面着陸を計画している)。というのも、水と氷が月面にあれば、これを地中から掘り出して燃料に変換することも可能となるからだ。実現すれば、火星などを目指す際に必要な装備を減らすことにもつながる。

 また、月には複雑で多様な形で水が存在している、という今回の研究で得られた新たな知見は、「乾燥しきった大地」と考えられていた月に対する固定的な見方を変えていくことになりそうだ。

「ゆっくりとした革命と言っていいでしょう」。こう話すのは、米コロラド大学ボールダー校の惑星科学者で、月の影に覆われたゾーンに関する論文の主著者であるポール・ヘイン氏だ。「ゆっくりであっても、革命であることに違いありません」

次ページ:水はどのように存在?

水はどのように存在?

 月は、極端に暑く寒い世界だ。月の赤道付近の気温は、日中は120℃を超える。その一方で、夜はマイナス130℃まで急降下する。また月は、厚い大気に覆われていないため、蒸発した水はすぐに宇宙空間に出て行ってしまう。

 それでも水の痕跡は日の当たる月面にわずかに残る。このことは、2009年、3基の探査機に搭載された機器で確認されていたが、問題が一つあった。当時の分析では、水(H2O)と水酸基(OH)とを区別することができなかったのだ。

 研究者は、赤外線を用いて月面に残る水の痕跡を探した。可視光線がプリズムを通すことで分割されるのと同じように、「肉眼では見られませんが、赤外線にも赤外線の虹があります」と、NASAゴダード宇宙飛行センターの博士研究員で、今回の水分子に関する論文を執筆したケーシー・ハンニバル氏は語る。以前の分析では、赤外線スペクトルのうち、水と水酸基の両方の光る部分に注目していた。ハンニバル氏のチームは、スペクトルの別の部分に注目することで、H2Oだけを判別することに成功した。

 2009年に、月面の水のシグナルの検出作業に参加していたサンシャイン氏は「すばらしいアイデアです。正直に言えば、もっと早くこの方法を思いつけなかったのかと思います」と話す。

 新たな研究で、ハンニバル氏のチームは、2018年に行われた成層圏赤外線観測所(SOFIA)のデータを収集した。SOFIAは、ジャンボジェットに赤外線望遠鏡を搭載した天文設備と考えてもらえばいい。数カ月後、ハンニバル氏が自宅のソファでデータを処理していると水のシグナルが見つかった。「たしか叫び声を上げたと思います」とハンニバル氏は言う。

 もちろん、水の存在と言っても、その量は、1立方メートルの土に約350ミリリットルが含まれている程度と推定され、非常に少ない。ちなみに、この割合はサハラ砂漠と比べて100倍乾燥している(ハンニバル氏)ことになる。もちろん、この推定値は月の1日のある時点の、一カ所での観測に基づくものであり、本当の水の濃度を確かめるには、さらなる検証が必要だ。

影では氷になっている

 もう一方の研究は、月面の割れ目や穴など影に覆われた場所に焦点を当てたものだ。以前から科学者たちは、巨大なクレーターの内部など常に影となる場所に、氷として水が存在するのではないかと考えてきた。実際に2009年10月には、NASAが探査機エルクロスの一部を月の南極付近の影となる場所に衝突させ、舞い上がった塵(ちり)の中に氷の証拠を検出している。

次ページ:アリ1匹ほどの影にも水は存在しうる

 それ以来、研究者は常に日が当たらない領域の地図を作製してきた。そして、今回NASAのルナー・リコネサンス・オービターが撮影した高解像度の月面画像から、氷が存在しうる影の領域がこれまで考えられていたよりも広く遍在する可能性があることに気付いた。しかも、画像を拡大して調べたところ、日が全く当たらない小さな場所がたくさん見つかった。

 研究チームが月の気温と影をモデル化したところ、氷はアリ一匹ほどのごく小さな領域でも形成され得ることを確認した。こうした極小の影であっても、広い影と温度は変わらず氷点下となると、ヘイン氏は書いている。月の大気は非常に薄く、月面の温度が均一にならないため、100℃以上にもなる暑い場所のすぐ隣に、マイナス数百度にもなる場所が存在することもあるのだ。

 そして、こうした冷たい影のゾーンに覆われた面積は、これまでの推定よりも20%以上大きいことも分かってきた。こうした冷たい影のゾーンすべてに氷があるなら、その量は数十億キログラムもの水に相当するという。もちろん、実際にどれくらいの数のゾーンに氷があるのかを知るには、今後の研究を待たなければなかない。

ゆっくりとした革命

 これら2つの研究は、いずれも月の水の循環を解明する手がかりとなるだろう。月の水の起源は複数存在し、月面に衝突する隕石とともにやってくるものもあれば、太陽風に含まれる水素が月面の酸素と反応して水酸基を形成する場合もある。太陽からの熱や微小隕石の衝突が、水酸基分子を衝突させて水分子を形成することもあると、ハンニバル氏は言う。

 また、微小隕石などの衝突体の熱が月面の岩を溶かして、付近にある水を蒸発させることもある。溶けた岩が冷えてガラス質になるとき、その内側に水蒸気が封じ込められることもあるだろう。これこそが、ハンニバル氏のチームが発見した水のシグナルなのかもしれない。

 繰り返しになるが、水が月面でどう循環するのかについては、まだ不明だ。隕石がぶつかることで月面から水が解放されるのかもしれない。また、月の日中の暑さがピークに達するとき、水と水酸基のシグナルが弱くなることから、太陽が月面の水の移動に関係している可能性もある。サンシャイン氏は言う。「水はそこで失われてしまうのか、それともどこか影のあるゾーンに移動するのでしょうか。氷が捕らわれている小さなゾーンを研究することが、さらなる理解につながるでしょう」

 2022年には、NASAが水の氷を探すために、揮発性物質調査用極地探査車(VIPER)を月の南極に送り込む。2022年にミッションが予定されている月用小型赤外線撮像システム(L-CIRIS)からも、手がかりが得られるだろう。

 1960年代以降、科学者たちは月に水があるかどうかを推測してきた。月のどこに水があるのか、月面に着陸する飛行士たちは月面の水を活用できるのか――ひょっとすると数年のうちに解明されるかもしれない。

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