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残り30匹、絶滅寸前のテナガザル、ロープ橋渡った

  • 2020年10月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ハイナンテナガザルは、世界で最も絶滅が危惧される霊長類だ。中国、海南島の森の一画に、わずか30匹がかろうじて生き残るのみである。

 非常に危うい種で、1匹1匹が生き残ることが極めて重要と話すのは、ハイナンテナガザル保護プロジェクトを管理するボスコ・プイ・ロク・チャン氏。このプロジェクトは、香港にある嘉道理農場暨植物園(KFBG)が運営している。

 ハイナンテナガザルは樹冠に暮らし、長い腕を使って振り子のように木から木へと移動し、森の果物をたやすく集めることができる。その一方で、彼らは地面を移動することを怖がる。何十年にわたる伐採や農業活動によって生息地の森林が分断されるにしたがい、彼らの集団は互いに孤立し、ゆっくりと絶滅に向かい始めた。

 2015年5月、台風ラマスーン9号が海南島を襲い、大規模な地滑りを引き起こすと、ハイナンテナガザルの生息地はさらに破壊され、木々が失われ、森の空白が広がった。これを受け、チャン氏らは緊急措置を取った。

 プロのツリークライマーを雇って、被害を受けた森にロープの架け橋を作ったのだ。このような介入は、ハイナンテナガザルに関しては初の試みだった。橋は、幅15メートルにわたって森が途切れた箇所に2本の登山用ロープを張って作られた。また、橋の近くにカメラトラップ(自動撮影装置)を設置した。

 10月15日付で学術誌「Scientific Reports」に発表された新たな論文により、吉報がもたらされた。ハイナンテナガザルがこの橋を使っているというのだ。この戦略は森の他の場所でも利用でき、サルたちが移動したり、互いに交流したり、交尾相手を見つけたりするのに役立つことが示唆された。当初、ハイナンテナガザルは橋を無視していたという。176日待って、「彼らがようやく橋を使った時には、うれしくてホッとしました」とチャン氏は話す。

ロープのテクニック

 カメラトラップで撮影された写真にも、チャン氏は驚いた。

 木の枝をつかむ時のように、ロープに腕でぶら下がって振り子のように進むのではなく、彼らの多くは、チャン氏が「ハンドレイリング(手すり伝い歩き)」と呼ぶ方法でロープを移動した。人が手すりを支えに使うのと同じように、一本のロープの上を歩きながら、もう一方のロープを頭の上で持ってバランスを取っていたのだ。

次ページ:橋の利用に最も積極的だったのは

 橋の利用に最も積極的だったのは、メスと若い個体だ。おそらく、オスは十分に力があり、森が途切れている箇所を飛び越えられるからではないかと、チャン氏は推測している。また、妊娠中や赤ちゃんを抱えているおとなのメスは、このようなジャンプはリスクが高すぎると判断するのかもしれない。

「世界中で使われているキャノピーブリッジ(樹冠部に架けられた橋)には様々なデザインのものがありますが、これはシンプルかつ低コストで、ハイナンテナガザルにとても適していて、特に素晴らしいです」と、米国ワシントンD.C.のスミソニアン保全生物学研究所の保全生物学者トレメイン・グレゴリー氏は話す。

一時は10匹まで減っていた

 ハイナンテナガザルは、1950年代には推定2000匹が野生に残っていた。だが1970年代までに、生息地の喪失や狩猟により、その個体数は10匹にまで激減した。種を救う懸命の取り組みの中、ハイナンテナガザル保護プロジェクトは最後に生き残った個体たちのモニタリングや調査を行い、担当区域をパトロールしてハンターを取り締まり、木を植えた。現在、その個体数は3倍に増えたものの、ハイナンテナガザルの将来は、依然として危うい(飼育下で繁殖させる試みは失敗した)。

「我々は、道路やその他のインフラで、世界をどんどん細かく切り刻んでいます。分断された生息地どうしのつながりを維持するための解決策を考えることが重要なのです」とグレゴリー氏は話す。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。キャノピーブリッジが、希少な樹上性動物を守ろうとする他の保護活動家を奮い立たせる可能性があると、同氏は付け加える。

 チャン氏もそれには同意するが、ロープの橋は、短期的な対策にすぎないと警告する。ロープの橋の下に、成長の速い在来種の木を植える森林再生プロジェクトを立ち上げた同氏は語る。「自然の森の回廊を再生することを優先すべきです。それが、保護のための最も持続可能で長期的な解決策なのです」

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