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宇宙飛行士になれるのはどんな人? NASAの選考責任者に聞く

  • 2020年10月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米国の航空宇宙局(NASA)で現在、宇宙飛行士の選考が進んでいる。2020年3月に候補生の募集が行われると、1万2040もの人が応募した。

 当初、20年9月後半〜10月前半が一次面接の予定だったが、新型コロナによるパンデミックのため、面接は2021年春に延期された。「延期となりましたが、それだけ応募書類をじっくり見る時間ができました」とNASAの宇宙飛行士選考責任者アン・ローマー氏は説明する。

 パンデミックがなかったとしても、宇宙飛行士を選ぶのは容易なことではない。宇宙飛行士は自制心も柔軟性も兼ね備えた人物である必要がある。さらに、冒険好きでありながら、安全意識は高く、リーダーであると同時に時には指示に従うフォロワーでなくてはならない。「je ne sais quoi(フランス語で、何とも言えない何か)」、つまり「ライトスタッフ(不可欠な資質)」を持った人物が求められるのだ。

 現在、ローマー氏と現役の宇宙飛行士から成る選考委員会が応募者を精査し、地球上で最も排他的とも言える集団に適した特性と経験を併せ持つ候補者を最終的に10人前後まで絞ろうとしている。選ばれた候補者から、人類初の火星着陸という偉業を成し遂げる人物が現れる可能性もある。

 ナショナル ジオグラフィックはローマー氏にインタビューを申し込み、NASAはどのように宇宙飛行士を選んでいるのか、候補者に求めていることは何か、現在の宇宙船をどう考えているかなどを語ってもらった。以下に、ローマー氏とのインタビューを抜粋してお届けしよう。

――宇宙飛行士候補生は何人くらい選ぶ予定でしょうか?

 自然減に対応できるよう、人員には余裕を持たせようと考えています。他部門に異動したり、宇宙飛行士を引退したりする人が出るためです。大ざっぱに言えば、8〜12人くらいになるでしょう。どの候補も落としたくないような場合、過去の例を見ると12人近く選ぶこともありえます。

――選考プロセスを教えてください。

 まずは書類選考です。私たちはここで、応募者を初めて知ることになります。次に、リファレンスチェック(候補者の関係者への問い合わせ)を行って絞り込んでいきます。最終的には、120人前後に一次面接に来てもらいます。そこで、技能試験や基本的な健康診断をして、40〜60人が二次面接へと進みます。

 二次面接に残った候補者は1週間ほど私たちと過ごします。チームワークのテストや個人能力のテストなど、さまざまなことを行い、良い宇宙飛行士になるために必要な資質があるかどうかを評価します。

――今回は応募条件が変わったと聞きました。具体的に何を変えたのでしょう。また、その理由は何ですか?

 1万8000人以上の応募があった前回の募集の反省からです。前回は、修士号は「あれば望ましい条件」としましたが、今回は修士号を持っていることを必須条件としています。これは、最近の候補生を振り返ってみても、学士号のみの人物を結果として選んでいないことが分かったためです。

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――1万2000を超える応募書類をチェックしていて、目を引くのはどんな人でしょう?

 私たちは、ストレスの多い環境にありながら、短時間で決断を下すような状況を経験していることを重視しています。そのような仕事に直接就いていなくても、同様の経験をしたと見なせる経験はあります。例えば、南極に行ったことがある人や、自然の中でレスキュー活動に従事したことがある人などです。履歴書にチームワークやリーダーシップの経験が書かれていることも重要です。応募者の多くが自家用飛行機の操縦士の資格を持っているようです。

 大量の履歴書をチェックしていると、ユニークなものに目を引かれることもあります。趣味や関心について記入する欄がありますが、応募者たちは本当にいろいろなことをしていますね。マラソンを25回完走した人もいれば、スキューバダイビングの経験が300回に達している人もいます。

――特に印象に残った趣味があれば教えてください。

 間違えば、身体に危険が及ぶような挑戦をしている人がいます。また、美術を趣味にしている人もいますし、科学的な趣味やSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の趣味を持っている人もいます。

 本当に多種多様です。選考に入る前に読んだものですが、私がお気に入りのユニークな履歴書を紹介しましょう。学歴は「ホグワーツ魔法魔術学校」(ハリー・ポッターシリーズに登場する学校のこと)卒業で、最初の就職先はSNASA、つまりシークレットNASAというものでした。

――人格面で宇宙飛行士に求められる特性はありますか?

 重要なのは対人スキルですね。具体的には、チームワーク、フォロワーシップ、リーダーシップ、コミュニケーション能力といったものです。理想的な状況だけでなく、ストレス下でどのように他者とコミュニケーションを取るか? 私たちは本当に、高い能力を求めています。宇宙船に乗り込み、ほかの飛行士の隣に座ったとき、結局考えることは「私はこの人と一緒に飛びたいか?」ですからね。

 月面着陸ミッションや、火星に到達するという目標を考えてみてください。極めて長期にわたるミッションでは、宇宙飛行士たちは次のようにお互いを評価することになるでしょう。「私はこの人と狭い空間に閉じ込められたとき、何も心配ないという安心感を得られるだろうか? 私はこの人とうまくやっていくことができるだろうか? 互いを思いやることができるだろうか?」

――長期間のミッションに適した特性とは何でしょうか?

 緊急事態に陥ったときなどは、責任者として命令を出し、周りから尊敬される行動をとる必要があります。一方で、管制センターの命令に必ず従わなければならないときもあります。自分のスキルセット、さらには、人格をうまく調整し、そのとき必要な準備を整える方法を知っていなければなりません。

次ページ:宇宙船の多様化が門戸を広げる理由

――次の宇宙飛行士候補生を選ぶとき、実際にミッションに携わった人たちから、こんな人材が欲しいという指摘はあったりするのでしょうか?

 ある程度はあります。一例がパイロットでしょう。ミッションが終わって、スペースシャトルが使われなくなりましたので、宇宙飛行士たちは今もT-38ジェット機を使って訓練しています。そのため、パイロットの経験がある人が欲しいという要望は強くあります。

――科学、工学分野で特定分野の経歴を求めることはありますか?

 惑星ミッションや地上ミッションが復活すればあり得るでしょう。事実、アポロ時代には、地質学者を月面に送り込みたいと考えられていました。可能性は常にあると思います。

――宇宙船の種類が増えました。皆が同じタイプの宇宙船で飛んでいた時代と、現在は異なる人材を選ぶようになったのでしょうか?

 身体的な基準で言えば、以前より少し選択肢が広がりました。もしソユーズ(ロシアの宇宙船)だけで飛び続けていたら、身長と体重には厳格な制限があります。身長が高すぎると、誤って押すべきでないボタンを体で押してしまうことがあるため、ソユーズでは骨盤から膝までの長さが一定内である必要がありました。宇宙船の種類が増えた今は、体のサイズという点でも、多くの人に宇宙飛行士の門戸が開かれたと言えます。

――身体的な制限ですか。考えたことすらありませんでした。

 そうですね。おそらくソユーズは制約の多さでは一番の宇宙船です。ソユーズの中を見たことがないかもしれませんが、私は100万ドル(約1億円)もらっても乗りたくありません(笑)。

――スペースX社のドラゴンも有人飛行が始まりました。こちらならどうですか?

 ソユーズに比べると、本当に広々としていますね。それでも、私は軽度の閉所恐怖症なので、宇宙より地上にいたいです。何しろ、好きなときに窓を開けられますし、外出もできます。私は地球にいるほうを選びます。

――現在、候補者の選考中ですが、今後選ばれた人の中から人類初の火星着陸をする人が登場すると思いますか? それとも、現役の宇宙飛行士が火星に行くのでしょうか?

 どちらも可能性があると思います。2024年までに月面に着陸することは目標の一つですから、その役割は現役の宇宙飛行士が担うことになるでしょう。でも、人類初の火星着陸は、前回選出された候補生かこれから選ばれる宇宙飛行士に任せたいと考えていると思います。

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