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人気高まる蒸留酒メスカル、でもコウモリには「悲報」の理由

  • 2020年10月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 アメリカ大陸最古の蒸留酒メスカルの人気が再燃している。米国では、2019年の輸入量が50%以上増加し、原産国であるメキシコの消費量を初めて上回った。2020年の状況はまだわからないが、業界は成長傾向が続くと予測している。

 メスカルは、とがった葉のある大型の砂漠植物リュウゼツラン(アガベ)を原料にするメキシコの蒸留酒。地域密着型で小規模の製造が多い。

 だが、その人気の高まりは、ある動物にとってはバッド・ニュースとなる。花蜜を作り出す前にリュウゼツランが過剰に刈り取られることで、主要な花粉媒介者であるレッサーハナナガコウモリ(Leptonycteris yerbabuenae)が大きな影響を被るというのだ。

 体重30グラム足らずのレッサーハナナガコウモリは、小さいが勇敢な哺乳類だ。メキシコ中部で冬を過ごした後、米国とメキシコの国境沿いの洞窟で出産するため、毎年1200キロ以上も移動する。サボテンの花やリュウゼツランの花を探しながらの長旅だ。コウモリたちが往復の燃料をリュウゼツランの蜜に頼っている一方で、リュウゼツランもコウモリの手を借りて受粉している(リュウゼツランは夜行性の動物を引きつけるため、日没後に蜜の多くを出すように進化してきた)。

 レッサーハナナガコウモリは、以前から生息地の減少によって危機にさらされてきた。1980年代には約1000匹まで減少したが、活発な保護活動のおかげで、メキシコ全土と米国南西部でおよそ20万匹まで個体数が回復。2018年には米国の絶滅危惧種リストから除外された。これは、コウモリとしては初めてのことだ。

 だが、メスカル人気と気候変動が続けば、せっかく増えたコウモリが減少する恐れがあると、自然保護活動家は警告している。気候変動の影響でリュウゼツランの開花が早くなり、コウモリが飛来する前に花が咲いてしまうのだ。2020年に発表されたある論文は、このコウモリが再び減少に転じたと報告している。

 専門家はすでに解決策を提唱している。持続可能なリュウゼツランの収穫だ。つまり、リュウゼツランを選択的に収穫し、一部を再繁殖のために残しておくよう農家に奨励するのだ。

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 農家が必要とするのはリュウゼツランの「心臓」ともいえる球茎部(ピニャ)。これを切り取ると植物は枯れてしまう一方で、醸造者はこれを蒸留してアルコールを抽出する。「コレクティボ・ソノラ・シルベストル」など一部の団体は、酒造会社と協力して、リュウゼツランの一部をコウモリのために残して、持続可能な収穫を行うように働きかけている。

 これはコウモリにとってだけでなく、健全な生態系を維持するためにも重要なことだと、米国とメキシコの国境地帯の保護団体である「クエンソ・ロス・オホス」の事務局長、エレミヤ・H・ライボウィッツ氏は言う。

「ここは地球上で非常に多様性に富む地域ですが、とても脆弱な地域でもあります。うまく機能するためには、すべてのバランスがとれていなければならないのです」

100年に及ぶ過剰収穫

 メスカルをはじめリュウゼツランを使った蒸留酒(アガベ・スピリッツと呼ばれる)には、メキシコの原産地に由来するさまざまな呼称がある。たとえば、ハリスコ州で生産されるものは「テキーラ」、ソノラ州産は「バカノラ」だ。テキーラはもう何十年も人気だが、小規模生産の酒に米国人が注目し始めたことで、バカノラの人気も急激に高まっている。

 バカノラの生産量が増加するにつれて、生産者たちはこの業界が持続不可能であることに気がついた。その主な原因は、100年ほど前に定められた法律だ。

 1915年、メキシコのソノラ州では、米国の禁酒法に触発されたのか、当時の過激な州知事がバカノラ生産を禁止した。その結果、バカノラの生産は秘密裏に行われるようになった。所有する農地でリュウゼツランを栽培できなくなった生産者たちは、野生のリュウゼツランを刈り取るようになった。バカノラ生産は1992年に再び合法化されたが、野生種を使う習慣はそのまま続けられた。

 だが、リュウゼツランの7〜15年の寿命の間に、花が咲き種が実るのは一度だけだ。1本の花茎を伸ばすのに十分な糖分を10年以上かけて作り出す。

 メスカルの風味はその糖分に由来するため、リュウゼツランの収穫に最適なのは、その花茎が伸びる直前の時期だ。

 このような無秩序な収穫が100年も続いた結果、ソノラ州のリュウゼツランは大幅に減少した。さらに、都市部と農村部の開発によって、この50年間でリュウゼツランの自生地全体のほぼ50%が消滅した。

コウモリを守るバカノラを

 草の根団体コレクティボ・ソノラ・シルべストルは、人にもコウモリにもリュウゼツランにも有益な方法でバカノラを生産することを目標に掲げている。この団体は、生物学の学生で友人同士だったリー・イバラ氏とバレリア・カニェド氏によって、2018年に設立された。

「バカノラ生産者を花粉媒介者やコウモリとつなぐのは名案だと思ったのです」とイバラ氏は言う。彼女とカニェド氏は、米国の非営利団体と手を結んで収穫方法の改善を図っているほか、ソノラ州政府と協力しながら「コウモリを守るバカノラ(Bacanora for Bats)」という持続可能性を認証するプログラムを立ち上げている。

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 ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで、「国際コウモリ保護協会」のクリスティン・リア氏も、コウモリを保護し持続可能なリュウゼツランの収穫を推進する取り組みを続けている。

 彼女の団体の構想は「危機にある花粉媒介者であるコウモリの重要な採餌地を回復させることが目的です。バカノラの持続可能性の認証制度は、その実現に向けたすばらしい一歩です」。リア氏はメールでこのように述べる。「コレクティボ・ソノラ・シルべストルがこの認証制度を立ち上げるにあたって、私たちが協力できることは光栄です」

 この認証制度はまだ初期段階だが、バカノラ生産者にいくつかの条件を課すことになる見通しだ。たとえば、リュウゼツランに使用する農薬の量と種類を制限すること、遺伝的多様性の観点からクローンではなく種からリュウゼツランを栽培すること、バカノラ生産量の1リットルあたり一定の割合で畑にリュウゼツランの花を残すことだ。こうすれば、コウモリは餌を得ることができ、リュウゼツランは繁殖を続けることができる。

 認証制度は、原産地呼称にも適用される予定だ。そうなれば、ソノラ州の生産者が自社の生産品をバカノラと表記するには持続可能性のある生産が必須となる。

 バカノラ生産に携わるサントス・クビソ社の広報担当者、カルロス・G・マイヤー氏は、「コウモリを守るバカノラ」プロジェクトを支援することは同社の事業計画の一部だと、ナショナル ジオグラフィックに語った。同社はすでに70平方キロの自社農場で、コウモリ用に残すアガベの保存に乗り出しているという。

明るい未来のために

「テキーラ交換プロジェクト」や「コウモリに優しいテキーラ(Bat Friendly Tequila)」「メスカル・プロジェクト」といった類似の構想では、ボトルに貼付する「コウモリに優しい」ことを示すラベルと引き換えに、リュウゼツラン畑の花の5%を残すよう生産者に働きかけている。このやり方で、すでに30万本以上の「コウモリに優しい」ボトルが生まれた。テキーラ交換プロジェクトに携わってきたナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー、ロドリゴ・メデジン氏は、過去のインタビューでこのプロジェクトを「長年の夢」と評している。

 それでも、テキーラ業界は「古めかしく独自の流儀に固執している」ため、多くのブランドが新しい方法の導入に抵抗したと、コレクティボ・ソノラ・シルべストルを支援する「国境地帯再生ネットワーク」のフランチェスカ・クレヴェリー氏は指摘する。

 しかし、商業的なバカノラ業界は比較的若く変化に前向きであること、そして、認証が非営利団体ではなくソノラ州政府によって行われることから、彼女は「コウモリを守るバカノラ」認証制度はさらに大きな成功を収めるだろうと楽観的に見ている。

「実際は、文化的、経済的にこの州のバカノラ産業を生き残らせることが目的です」とクレヴェリー氏は言う。「コウモリにとって幸いなことに、それが彼ら花粉媒介者の保護に結びついたのです」

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