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嵐が嵐を強化する、連鎖的な影響が判明、研究

  • 2020年10月15日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 今年の米国のハリケーンシーズンは記録的な厳しさとなっている。先日は、名前の付いた暴風雨としては25個目となる「デルタ」が、すでにハリケーン被害に苦しめられていたメキシコ湾沿岸地域に襲いかかった。しかもハリケーンシーズンは、まだ数週間残されている。

 ハリケーン「デルタ」は、メキシコ湾の温かい海水によって大いに勢力を増した。こうした例は、地球温暖化が進行するにつれて、より頻繁に見られるようになっている。

 先月、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表された新たな研究は、浅く温かい湾岸水域への暴風雨の影響が、高い気温と相まって、その次にやってくる嵐をはるかに強力なものへと増幅させる仕組みについて説明している。

 デルタはどうやら、そうした嵐の例には当てはまらなかったようだ。しかし、今シーズンの主要なハリケーンであるサリーとローラの勢力が増した背景には、前述のような条件が作用した可能性があると、同研究の筆頭著者である、米サウスアラバマ大学の海洋学者ブライアン・ドウォンコウスキー氏は述べている。

 2018年の夏の終わり、ゴードンと名付けられた小型の熱帯低気圧がメキシコ湾北部を横断した。ゴードンはごく標準的な暴風雨で、大半の熱帯低気圧と同じように、数百万ドル分の損害を出し、沿岸住民にたっぷりとストレスを与えた。

 しかし、この嵐によって引き起こされた一連の出来事は、数週間後、ゴードンよりもはるかに大型で壊滅的なハリケーン「マイケル」に多大な影響を及ぼした可能性がある。

 マイケルは沿岸に近づくにつれて急速に勢力を強めた。フロリダに上陸するころには、カテゴリー5の猛烈なハリケーンに成長し、16人の死者と数十億ドル分の損害をもたらした。

 ゴードンとマイケルの間に、明らかな関連性は見られなかった。時間的にも空間的にも、これら2つの暴風雨は互いに大きく離れていた。しかし新たな研究は、ゴードン自体と、ゴードンの通過後に発生した熱波の影響によって、マイケルが勢力を大いに強め、フロリダ西部に上陸した史上最強の暴風雨へと発達したことを示している。

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嵐のせいで海水温が逆に上昇

 ゴードンによって生み出された状況が「海のバッテリーにエネルギーを過剰供給」し、強力なハリケーンにパワーを与えたのだと、ドウォンコウスキー氏は言う。

 熱帯低気圧は、高温の海水からエネルギーを得る。温かい水は、嵐にとってエネルギーの貯蔵庫、つまりバッテリーのような役割を果たす。水温が高いほど、あるいは温かい水がたくさんあるほど、より多くのエネルギーが上空に運ばれる。対して、海水が冷たければ、嵐は弱まる。

 夏の太陽は海の表層部を加熱するものだ。しかし通常は、温かい層の下にある海水は冷たい。嵐の風によって海水がかき回されて、深いところにある冷たい水が表層へと引き寄せられると、その冷たい水のせいで嵐は弱くなる。

 ただし、そうなるのは海の中に冷たい水がある場合だけだ。2018年のゴードンは、海から冷たい水を完全に奪ってしまったのだという。

 大陸棚に沿ったメキシコ湾岸付近は水深が浅く、夏の間、熱い太陽に照らされる最上層は熱をたっぷりと吸収する。2018年の夏の終わり、ゴードンの進路上にあった表層の水温は、すでに29℃近くまで上がっていた。この数値は、熱帯性暴風雨が発達するかどうかの分かれ目とされてきた約26℃をはるかに超えている。

 通常、ゴードンのような暴風雨は、より深いところにある冷たい水を上昇させる。ところが、ゴードンは北西へ進み、フロリダ州の先端付近からアラバマ州とミシシッピ州の境界に向かって上陸したため、温かい海水がかき混ぜられて押し下げられ、最終的には上から下まで一様に約29℃という海水の塊が後に残された。

 ゴードンは過ぎ去った。いつものように夏は続き、一見、何もかもが普通に見えた。しかし、水面から海底までがお湯で満たされているという状態は、まったく普通ではなかった。

 やがて熱波がやってきた。記録的な暑さではなかったものの、沿岸の海水はいっそう温められることになった。9月下旬には、沿岸海域の平均水温はさらに上昇し、一時は表層の水温は32℃近くまで上昇した。

「表層にあるこの非常に熱い水が、海のバッテリーのパワーを上げていたのです」と、ドウォンコウスキー氏は言う。そして、その熱がより深くまで浸透するほど、熱波もより長く継続した。

 こうした経緯により、ゴードンによって温められた海の上をマイケルがほぼ真北に進んだとき、その勢力を弱めてくれる冷たい水はどこにも存在しなかった。マイケルはエネルギーをたっぷりと吸い上げて強大になり、壊滅的な結果をもたらした。

 ゴードンが通過した後に起こった熱波の役割も大きかった。もし気温が下がっていたなら、状況が変わっていた可能性もある。

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 こうした連鎖的影響は頻繁に発生しているのか、それとも新しい現象なのかについては、まだよくわかっていない。

 しかし米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所の大気科学者ジェーン・ボールドウィン氏によると、気候に関連する2つの現象が作用してより大きなリスクを生み出す「複合的な事象」は、将来的にはより一般的になると予測されているという。

温暖化で変わる嵐と想定外の事態

 今回の発見からわかるのは、複数の気象災害が関連したときに何が起こるかについて、われわれはまだ完全には理解していないということだと、英国ラフバラー大学の気候科学者トム・マシューズ氏は語る。

「わたしたちを驚かすような災害は、今後たくさん起こるでしょう。なぜなら、気候システムに含まれるあらゆるものは、まだ人間が目撃したことのないやり方で、同時に動き、変化しているからです。そして、2つの災害の相互作用による影響の総計は、個々の災害がもたらす影響を合わせたよりも、はるかに大きくなる可能性があります」

 熱帯性暴風雨の特徴もまた変化しつつあることは、以前より指摘されてきた。暴風雨の進む速度は遅くなり、勢力は強くなり、雨量は増している。また、温暖化がさらに進み、海水温が上昇すれば、熱帯性暴風雨の数が徐々に増加するという証拠も出てきている。そうした変化が、マイケルのような事例にどのような影響を与えるかは、まだだれにもわからない。

 マシューズ氏の研究チームが注目したのは、電力インフラを破壊できるほど強力な熱帯低気圧に続いて、非常に湿度の高い熱波が発生する可能性だ。今のところ、そのリスクは大きくない。しかしながら、現在よりも温暖化した世界においては、これら2つの災害が連続する確率は劇的に高まる。マシューズ氏の研究によると、地球の平均気温が2℃上昇した場合、30年のうち11年において、こうしたリスクの連鎖が起こる可能性がある。もし4℃なら、それは毎年になる。

 気候が変化した世界では、予測されていたことも起きるが、それは一部で、全く未知のものになるだろうとマシューズ氏は言う。「変わりゆく気候はこの先、もっとたくさんの驚きをもたらすでしょう」

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