サイト内
ウェブ

体の右半分がオス、左半分がメスの鳥が見つかる

  • 2020年10月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米ペンシルベニア州パウダーミル自然保護区で鳥の個体数調査をしていた研究者たちは、9月24日、奇妙なムネアカイカル(Pheucticus ludovicianus)に出会って驚いた。体の片側にはオスに特有の鮮やかな赤い羽、反対側にはメスに見られる黄色の羽が生えていたのだ。

 くっきり2つに分かれた配色が、オスとメスの特徴をあわせもつ「雌雄モザイク」と呼ばれる現象を意味することは明らかだった。

「疑問の余地はありませんでした」。パウダーミルの鳥類標識調査を率いるアニー・リンゼイ氏はそう話す。計測すると、この個体の右の翼は左の翼よりもわずかに長かった。ちょうどムネアカイカルの平均的な雌雄差と同じくらいだ。

 雌雄モザイクという言葉は単に、ある個体がオスの特徴とメスの特徴を両方備えていることを指す。だが、このムネアカイカルでそれがすぐにわかったのは、体の両側で特徴がはっきりと分かれていたからだ。

 左右差は体の外側のみならず、内側にも存在している可能性がある。これは、雌雄同体とも異なる。雌雄同体の場合、オスとメス、両方の生殖器を備えつつ、外見的に雌雄の境界がはっきり現れることはない。

 雌雄同体はミミズやカタツムリなど一部の生物においては自然なことだが、雌雄モザイクの個体となると非常に珍しい。鳥の場合、発育の早い段階で細胞分裂に異常が起きたときに生じるようだ。

 珍しいどころか、リンゼイ氏が言うには、パウダーミル自然保護区での60年近い調査において、雌雄モザイクと推測されると記録されたのは、捕獲されたおよそ80万羽中、わずかに5羽だ。過去15年間でリンゼイ氏は一度だけ、左右で特徴が異なる雌雄モザイクを目にしたが、その個体もやはりムネアカイカルだったと言う。

「今回の方が、これがどれだけ珍しいかという知識があったと思います。他の人たちが素直に喜んでいるところを、私は見ていました」

次ページ:100万羽に1羽?

100万羽に1羽?

「あの鳥はかなり有名です」と話すのは、野生生物学者のダニー・バイストラク氏だ。所属は米メリーランド州パタクセント野生動物研究センターの鳥類標識調査研究室。アメリカ地質調査所の下部組織として、国中の鳥類標識調査のデータが集まる所だ。

 過去15年間のデータを見ると、標識調査で雌雄モザイクの個体が発見される確率は「ちょうど100万分の1くらいです」とのこと。

 ただ、この数字は注意して見る必要がある。全ての鳥が雌雄でわかりやすく異なる羽色をしているわけではないとリンゼイ氏は言う。おそらく私たちが気付いている以上に、雌雄モザイクの鳥は空を飛んでいる。

 博物館の標本もこの現象に光を当ててくれる。ペンシルベニア州ピッツバーグのカーネギー自然史博物館で、鳥類部門のコレクションを担当してきたスティーブン・ロジャース氏は、キャリアを通して1万6000羽もの鳥の標本を扱ってきた。1羽1羽、乾燥させて保存し、外見的特徴や生殖器官を含む内部の構造について記録する。

 博物館に収蔵されている2万7000以上の標本のうち、ロジャース氏が見つけた雌雄モザイク個体の記録は4つ。うち3つは、雌雄で羽の色に違いがない種だった。

「100万分の1という数字は、雌雄で明らかな違いがある場合にのみ当てはまります」。ロジャース氏はそう言う。「ショウジョウコウカンチョウやムネアカイカルなどです」

 私たちが気付くことのない雌雄モザイクも含めれば、割合はおそらく100万羽中146羽となる。

雌雄モザイクのミステリー

 雌雄モザイクは、発見されるとメディアに大きく取り上げられる。例えば、やはり左右で特徴が違った2019年のショウジョウコウカンチョウや、今年見つかったオスの眼とメスの体を持つミツバチなどだ。ただ、雌雄モザイクの研究は難しい。

 バイストラク氏によれば、標識調査後に再捕獲された雌雄モザイクの個体の記録はない。よって、例えば、換羽の後にも色の違いが残るのかなどはわかっていない。

 今回のムネアカイカルがこの後どうなるのかもわからない。鳥のメスはヒト同様、左右に卵巣を持っているが、一般的に鳥で機能しているのは左側のみだ。今回発見された個体は体の左側がメスだったため、繁殖できる可能性はある、とリンゼイ氏は言う。ただ、繁殖相手を引き付けるためにはメスとして振る舞う必要がある。

 雌雄モザイクの行動についてもよくわかっていないものの、2009年から2010年にかけてイリノイ州で見られた雌雄モザイクのショウジョウコウカンチョウは、特に問題なく成体にまで成長したようだった。ただし、特有の歌をさえずることも音声を発することもなく、繁殖相手と共にいるところを目撃されたこともない。

 あのムネアカイカルがどうなるのか、私たちが知ることは永遠にないかもしれない。渡り鳥であるムネアカイカルは捕獲されたその日のうちに放され、今頃すでに南米にいるかもしれないのだ。

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2020 日経ナショナル ジオグラフィック社