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NASA探査機、小惑星ベンヌのサンプル採取へ

  • 2020年10月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 地球近傍小惑星「ベンヌ」は、遠くから見ると、宇宙空間に浮かぶ直径500メートルほどの回転するコマのようにしか見えない。しかし、10月20日にベンヌの表面のサンプル採取を予定しているNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」のおかげで、科学者たちはその表面をクローズアップで見られるようになっている。この新しい観測結果は、ベンヌの地形とその起源が、科学者が想像していた以上に豊かで複雑であることを示している。

 オシリス・レックスのプロジェクトチームは、このほど科学誌『サイエンス』と『サイエンス・アドバンシズ』に発表した6本の論文で、2018年に探査機がベンヌに到着してからこれまでに収集した新たな高解像度地図データを紹介している。こうしたデータを考え合わせることで、探査機がこれまでに周回した中で最も小さな天体であるベンヌに関する新たな詳細が見えてくる。

 望遠鏡を使った観測では、小惑星の地図を描くことはできるが詳細な地形まではわからない。一方、地球に落ちてきた隕石は、科学者が直接調べることで、ごく小さなスケールで詳細なデータを得ることができるが、明らかになる情報には限界がある。「今回の測定は、こうした2つのスケールの観測を結びつけ、ほかの方法では見ることができなかった詳細を見せてくれます」と、米ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所の惑星科学者であるアンディ・リブキン氏は語る。氏はベンヌの調査には参加していない。

 NASAがベンヌの表面からサンプルを採取するために2016年にオシリス・レックスを打ち上げたのは、この小惑星が生命の起源の手がかりを握っている可能性があるからだ。ベンヌは、地球上の生命の必須成分である炭素を含む有機分子や、水の存在下で変化した鉱物を含むことが知られている。研究者たちは、地球上の水と有機分子の少なくとも一部は小惑星に由来していると考えており、ベンヌのような天体が生命に必要な化学物質を地球にもたらしたのかもしれないと推測している。

 ベンヌを調べるもう1つの理由は、この小惑星が地球の安全保障上の脅威になっているからだ。ベンヌの軌道は地球の軌道と交差しており、2100年代後半には約2700分の1の確率で地球と衝突する可能性があるため、慎重な研究が必要だ。

水の痕跡

 ベンヌを構成する岩石の多くは太陽系の黎明期にできたものだが、ベンヌ自体はずっと後の動乱の中で生まれた。研究者たちは、約10億年前に小惑星帯で大規模な衝突が起きて直径約100キロメートルの天体が破壊され、その破片からベンヌを含む、より小さな小惑星の集団が形成されたと考えている。

 ベンヌの母天体がまだ若かった頃には、土壌の中に水を液体の状態に保てるほどの熱があった。この水が小惑星の内部を流れた際、そこに炭酸塩鉱物がゆっくりと沈着していった。母天体が破壊されてベンヌができた後も、こうした原始的な鉱脈のいくつかはそのまま残り、それらは現在、ベンヌの表面に散らばっている岩石の中の筋として見ることができる。

 これまでに見つかった炭酸塩鉱脈の中で最大のものの長さは約1メートルもある。この鉱脈の幅と長さは、ベンヌの母天体には数百万年とは言わないまでも、数千年程度はかなりの熱水活動があったことを示唆している。

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 オシリス・レックスのプロジェクトチームのメンバーであり、今回の論文の共著者でもあるNASAのゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者ハンナ・カプラン氏は、「だからこそ、探査機を送り込んで探査を行う必要があるのです」と言う。「こうしたものを地球から見ることはできません。このため、小惑星に近い軌道を周回する必要があります」

 炭酸塩鉱脈の存在は、オシリス・レックスが大量の高解像度データを収集したときに初めて明らかになった。探査機に搭載されている装置の1つは、バスケットボールコートほどの大きさのものが見える解像度で、小惑星の表面の組成を調べた。別の装置は、ベンヌの表面の色の違いを、紙1枚ほどの大きさが見える解像度でマッピングし、また別の装置は、ベンヌの表面の一部を切手サイズのものが見える高解像度で撮影した。

地表から岩石が飛び出す不思議な現象

 ベンヌは多孔質の「がれきの山」のような小惑星で、私たちが地球上で感じる重力の100万分の8未満という非常に弱い重力でゆるやかにまとまっている。そのため、この小惑星の探査は不思議の国を冒険するようなものになる。

 オシリス・レックスは、ベンヌを周回している間に、予想外の詳細を明らかにしてきた。例えば、ベンヌの表面から岩石が飛び出す不思議な現象が観察されていて、その原因は太陽の熱にあると考えられている。また、ベンヌのアスファルト色の岩石の中に、鉱物組成から判断すると、ベスタという別の小惑星のものと分かる岩塊があることもわかっている。

 新しい研究からは、ベンヌの表面の岩石に強いものと弱いものの2つの種類があることが明らかになった。また、小惑星の色、保温能力、局所的な密度、および北半球と南半球の地形などに微妙な違いがあることもわかった。これらは、ベンヌが宇宙の真空の中でどのようにして形成され、風化してきたかを解明するヒントになるかもしれない。

 オシリス・レックスは、ベンヌの表面のほぼ全域を、炭素を含む有機分子が覆っていることも確認した。隕石から得られた証拠をもとに、科学者たちは長い間、ベンヌにはこうした分子が豊富に存在するのではないかと予想していたものの、今回それが確認されたことで、10月20日に行われるオシリス・レックスの「タッチ・アンド・ゴー」のサンプル採取の意義にますます自信をもつことができた。

 あと1週間ほどで、オシリス・レックスは「ナイチンゲール」と呼ばれる小さなクレーターに着陸し、ものの数秒で、少なくとも60グラムの粒子や小石を採取する。その後、地球を目指し、2023年に帰還する予定だ。

 オシリス・レックスのプロジェクトチームのメンバーで、論文共著者でもあるNASAのゴダード宇宙飛行センターの上級科学者エイミー・サイモン氏は、「どの場所から採取したサンプルにも、水和鉱物と炭素を含む物質が含まれているはずです」と言う。

 小惑星の表面に着地してすぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」のサンプル採取は、かなり難しいことがわかっている。オシリス・レックスは、ベンヌの表面が細かい粒子状物質で覆われていることを想定して設計されているが、実際のベンヌは、小さなビルほどの大きさの岩石で覆われている。安全にその地表をめざすため、研究者は小惑星の表面を十数センチ程度の解像度でマッピングし、探査機のナビゲーションソフトウェアをアップグレードしなければならなかった。

 サンプル採取に挑戦する運命の日まで、あと1週間ほどとなり、オシリス・レックスの科学者たちの興奮は高まっている。

「まだ緊張はしていませんが、当日になれば、話は違うでしょうね」とサイモン氏は笑いながら言う。「すばらしい経験になることを祈っています」

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:NASA探査機、小惑星ベンヌのサンプル採取へ あと2点

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