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海のプラ汚染、現状の対策でも悪化の一途、研究

  • 2020年10月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 プラスチックごみの削減へ向けた取り組みは世界中で急速に進んでいるが、いまだに海へ流出する使用済みプラスチックの増加に歯止めをかけるまでには至っていない。

 今後10年間に世界中で、河川へ、そして最終的には海へ流れ込むプラスチックの量は年間2200万トンから、場合によっては5300万トンに達するとみられている。だが、それはあくまで政府と業界が打ち出している野心的な対策を実行できたらの話だ。

 もしそれらが実行されず、今のままの状態が続けば、その量は2倍に膨れ上がり、2030年までに年間9900万トンのプラスチックが自然界に排出される恐れがある。

 そう警告するのは、9月18日付けで学術誌「Science」に発表された国際的な科学者チームによる研究報告だ。この数字は、5年前に初めて発表された同様の研究報告以来、劇的に増加している。当時は、年平均880万トンが海へ流出していると推計され、世界に衝撃を与えた。」)

 5年前の数字をはじき出した米ジョージア大学の工学教授ジェナ・ジャムベック氏はそのとき、理解しやすいように例えを用いて、ダンプカー1台分のプラスチックごみを毎分、それを毎日続けて1年間、海へ投棄する量に相当すると説明した。氏は最新の報告書を書いたチームの一員でもあるが、今回の2200万〜5300万トンをわかりやすく例えるのには苦労したという。

「もはや想像を絶する世界に入ってきています。フットボール場を毎日プラスチックでいっぱいにする、または米国ロードアイランド州全体、あるいはルクセンブルクの国土全体が足首までプラスチックで覆われる量、とでもいいましょうか」

 どちらの例えも正確ではあるものの、それがどれほど重大な意味を持つのかを理解するのは難しい。

次ページ:2つの研究結果が一致した点は

 気候変動と同様、プラスチックごみの問題も今後数十年間で世界がどのように対応するかにかかっている。また、どちらの問題も根本には石油という共通の資源がある。だが、両者でひとつ大きく異なる点は、プラスチックは半永久的に残り続けるという事実だ。

 気候変動の場合、確率は低いものの、テクノロジーと自然生態系の回復によって二酸化炭素を減らせるかもしれないが、プラスチックの場合はそうはいかない。今のところ環境中にまぎれこんだプラスチックは実質的に分解不可能であり、消えてなくなることもない。

「海のプラスチック汚染に対処できなければ、植物プランクトンからクジラまで、世界中の海の食物網が汚染の危機にさらされてしまいます。そして、科学がこれに追いつく頃には、もう遅いと結論するしかなくなるでしょう。そこまで行ったら、もう元に戻すことはできません。途方もない量のプラスチックが、海の野生生物の中に半永久的に残ってしまいます」。非営利団体オーシャン・コンサーバンシーの主任科学者で、最新の報告書を書いた研究チームのひとりでもあるジョージ・レナード氏はそう述べた。

2つの研究結果が一致した点は

 最新の研究報告は、米メリーランド大学の国立社会環境総合センターを通じて米国立科学財団が資金提供した科学者チームによってまとめられた。また7月には、米国の非営利団体である「ピュー慈善信託」と英ロンドンの環境顧問投資会社「システミック」が同様の研究結果を公表している。こちらの方は、2040年までに海へ流出するプラスチックの量を予測したもので、2つの研究結果は、9月に「Science」誌の同じ号に掲載された。

 別々の科学者チームが異なる方法と時系列を使って、大枠で同じ結論に達するのは珍しい。どちらの研究も、海へ流出するプラスチックの量が年々増えている原因は増加するプラスチック製造量にあり、それは世界が回収できるプラごみの量を上回るペースで増加していると指摘。ごみを削減するにはバージンプラスチック(リサイクル素材を使わないプラスチック)の製造を減らさなければならないという点で一致している。

 さらに2つの研究は、プラスチックごみを完全になくせないとしても、既存のテクノロジーを使って大幅に減らすことは可能だと結論付けた。ごみやリサイクル資源の回収事業を改善し、製品を設計しなおしてリサイクルできないプラスチックの包装を減らし、容器の再利用を増やし、場合によっては別の原料を使うことも考えられる。また、現在世界的に12%前後にとどまっているリサイクル率を上げるために、リサイクル施設のない場所に新たに建設するなど、大掛かりな規模拡大も必要だ。

 プラスチック業界は2つの研究結果を評価しているが、バージンプラスチックの製造を削減するという考えには賛同しない。米化学工業協会は、「極めて非生産的で非現実的」な提案だと主張する。ポリエチレンの世界的な製造メーカーであるエクソン・モービルとダウ・ケミカルも同意見だ。

「プラごみ問題を解決するために製造を削減すれば、結果的には二酸化炭素の排出量を増やし、気候問題に拍車をかけることになります。なぜなら、代替品の方が製造による排出量が多いためです」と、ダウ・ケミカルは指摘する。

 確かに、プラスチックの製造はガラスやアルミニウムの製造よりも、炭素排出量や使用する水の量が少ない。だが、この主張は環境の浄化にかかる費用や製品の重さといった全ての要素を考慮に入れてはいないという指摘もある。

次ページ:プラスチックの製造は2050年まで増加

 ガラス瓶はプラスチックの容器よりも重いために炭素排出量が多くなるが、製品1グラム当たりの炭素排出量は、ガラスの方が少ない。さらに、海の環境に関しても全く的を射ていない。ウミガメがプラスチック袋を誤って食べてしまうことはあっても、ガラス瓶やアルミ缶を食べることはない。

「リサイクルできるプラスチックを増やし、プラごみ回収事業の改善を支援し、工場からのプラスチックペレット(プラスチック製品の原料となるプラスチック粒子)の漏出防止に焦点を置いています」と、エクソン・モービル社の広報担当者トッド・スピトラー氏は語った。

 社会環境総合センターは、バージンプラスチックの世界的な製造量に上限を設けることを提案しているが、実現はかなり厳しい。

 ピューとシステミックも、同じく製造量の11%の削減を提案している。リサイクルして別の製品に作り替えるための廃プラスチックは、プラスチック製品の需要を十分に満たすだけあるとも主張している。だが問題は、使用済みプラスチックを回収し、仕分けし、再加工するよりは、バージンプラスチックを一から製造したほうが安上がりだということだ。そのうえ、現在原油価格は大暴落している。

プラスチックの製造は2050年まで増加

 2050年までに、バージンプラスチックの製造量は2倍以上に増えると見込まれている。米化学工業協会の報告書は、2018年に3億800万トンだった製造量が、2050年には7億5600万トンに増えると予測する。

 同協会の、プラスチック市場の担当責任者キース・チャップマン氏は、軽量自動車部品、住宅の断熱材や水道管などに使用されるプラスチック製品の需要はこの先増える一方だと予測する。

「業界が目指す方向は新しいテクノロジーであると、私たちは考えています」

 業界は、将来プラスチックの製造が増加する要因として、人口の増加と中産階級の拡大の2点を挙げている。国連によれば、現在、世界の人口は78億人だが、2050年までにはアジアとアフリカを中心にさらに20億人増えると予測されている。また、中産階級も2039年までに4億世帯増加するという。プラスチック製品の需要が最も高いのが、強い購買力を持つ中産階級だ。

 2019年に業界大手50社によって結成された「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」は、プラごみの回収とリサイクル事業の改善のために15億ドル(約1590億円)を投資すると発表。今のところ、フィリピン、インドネシア、ガーナなど、主に東南アジアやアフリカで14のプロジェクトを始動させている。

 シンガポールを拠点とする同アライアンスの代表で最高経営責任者のジェイコブ・デュアー氏は、今後もプロジェクトや資本投資を拡大させる予定だが、バージンプラスチックの減産には反対の姿勢を示している。

 アライアンスのプロジェクト開発責任者を務めるマーティン・ティクネット氏は、1970年代に始まったオゾン層回復への世界的な取り組みを、プラごみ対策に重ね合わせる。昨年、オゾン層に空いた穴は発見されて以来最も小さくなった。

「世界はかつて、大きな危機を解決したことがあります。ただ、こういうことは時間がかかるものなのです」

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