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絶滅危惧種タスマニアデビルが豪本土に復帰、3000年ぶり

  • 2020年10月7日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 タスマニアデビル(Sarcophilus harrisii)の不気味な鳴き声がオーストラリア本土の森に最後に響いたのは、今からおよそ3000年前のことだ。しかし、粘り強く続けられている活動のおかげで、今年26匹のタスマニアデビルがオーストラリア本土に復帰している。

 タスマニアデビルは、絶滅の危機にさらされている有袋類だ。小型犬ほどの大きさで、獰猛な性格と強力なあごはよく知られている。あごの力は、大きな動物の死骸もあっという間にばらばらにしてしまうほど。だが、1990年代に伝染性の顔面腫瘍性疾患(DFTD)が広まったことで、タスマニア島での野生の生息数はわずか2万5000匹まで落ちこんだ。

 オーストラリア本土で姿を消した理由はわかっていないものの、人間が関連している可能性が高そうだ。狩猟を始めたばかりの人間が大型の動物を狩り、タスマニアデビルが食べるものがなくなったからではないかと考えられている。

 死体などの腐肉も食べるタスマニアデビルは、バランスのとれた健全な生態系を維持するうえで重要な役割を果たす。オーストラリア本土に再導入しようという試みが懸命に行われているのはそのためだ。

「10年以上にわたる活動で、ようやくここまでたどり着きました」と、種を回復する活動を行っている団体「Aussie Ark」の代表を務めるティム・フォークナー氏は話す。この団体は、「Global Wildlife Conservation」や「WildArk」といった非営利組織とも密接に連携し、飼育した動物をオーストラリア本土のバーリントン野生生物保護区と呼ばれる場所に放す活動を行っている。この保護区は、フェンスで囲われた約4平方キロメートルの土地で、オーストラリア東部にあるバーリントン・トップス国立公園のすぐ北に位置する。

「怖い動物だと言われていますが、人間や農作物にとって脅威になることはありません」と、フォークナー氏は付け加える。

次ページ:期待される大きな役割

 それでも、保護していた動物を野生の環境に帰すのは、手探りの作業だ。そこで、今年3月に15匹のタスマニアデビルを放すという小さな一歩から始めることにした。放したタスマニアデビルには発信器をつけ、新しいすみかに慣れさせるため、エサとしてカンガルーの死骸を置いた。問題なく暮らしていけそうなことがわかると、9月10日にさらに11匹を放した。現在は、ほぼ自力で生活しているという。

「彼らは自由に暮らしています」とフォークナー氏は話す。「基本的な手段による監視は続けていますが、何をするかはもう彼ら次第です」

期待される大きな役割

 タスマニアデビルを放すにあたり、フォークナー氏らはユーカリの保護林をフェンスで囲み、侵入植物や森林火災につながる可能性のある落ち葉を除去した。さらに、アカギツネや野ネコも駆除した。オーストラリア大陸の小型哺乳類は、こういった外来の捕食動物によって大きな被害を受けている。

 ただし、野ネコがタスマニアデビルを捕食することはない。実は、警戒が必要なのはネコのほうだ。

「ネコは、タスマニアデビルの存在を嫌がるようです」と、タスマニア大学の研究助手で、タスマニアデビルに詳しいデビッド・ハミルトン氏は言う(本プロジェクトとは無関係)。通常はタスマニアデビルもネコを食べない。それでも、夜行性のタスマニアデビルと遭遇しないように、ネコは夕暮れや明け方にエサを探すようになる。

 これはほんの些細なことのように思えるかもしれない。しかし、この小さな行動の変化が、有袋類であるバンディクートなど、オーストラリア原産の夜行性動物の保護につながる可能性がある。その中には、絶滅の危機に瀕している動物もいる。興味深いことに、ハミルトン氏によると、タスマニアデビルがネコよりも多い場所では、バンディクートの生息数も増加しているという。

 フォークナー氏らがタスマニアデビルに期待しているのはまさにこの点だ。つまり、外来種に対してオーストラリアの生態系を安定させるという役割だ。

 とはいえ、タスマニアデビルがアカギツネに遭遇した場合は、どうなるかわからないという。アカギツネはネコより大きく、タスマニアデビルと同じくらいの大きさだ。

 また、タスマニアデビルを野生に帰すことで、影響を受けやすい他の種に予想外の結果をもたらさないかという懸念もある。たとえば2012年、タスマニアの隣のマリア島にタスマニアデビルを導入したところ、ハシボソミズナギドリという海鳥の営巣地がいくつか消滅した。

 この海鳥は、この島の原産ではない野ネコやフクロギツネに捕食されていた。タスマニアデビルによってこのような捕食動物は減り始めたものの、今度はタスマニアデビルが海鳥の卵やひなを狙うようになっている。

次ページ:再導入計画の今後

「理論上、タスマニアデビルがオーストラリアに悪影響を与えることはないはずです」とハミルトン氏は話す。「しかし、このようなことを行うときは、生態系全体について考えなければなりません。そしてそれは、難しい問いなのです」

 再導入の試みがフェンスで囲んだ場所から始まったのも、そうした理由からだとハミルトン氏は述べている。

再導入計画の今後

 すべてが順調に進めば、3つの保護団体は今後2年間でさらに40匹のタスマニアデビルを保護森に放す予定だ。これによって、タスマニアデビルの仲間がさらに増えることになる。

 ネコやキツネの駆除を行ったのち、フォークナー氏らは危険にさらされている他の原産動物を同じ場所に放す活動も始めている。たとえば、パルマワラビー(Macropus parma)、ハナナガバンディクート(Perameles nasuta)、ハナナガネズミカンガルー(Potorous tridactylus)、アカネズミカンガルー(Aepyprymnus rufescens)などだ。

 Aussie Arkは、今後6カ月間で先にあげた種のほか、フクロネコ(Dasyurus viverrinus)、オグロイワワラビー(Petrogale penicillata)、チャイロコミミバンディクート(Isoodon obesulus)を放すことも計画している。

 このような小型哺乳類は、植物の種を分散させたり、落ち葉を掘り返して分解を早めることで森林火災の規模を小さくしたりするなど、健全でクリーンな環境を保つうえで欠かせない存在だ。

「生態系にとって大事なのは結局、このように落ち葉を掘り返している地上の小さな動物なのです」とフォークナー氏は言う。「1匹のバンディクートは、毎年ゾウの体重と同じくらいの土を掘り返します。たった1匹でです」

 この実験が成功すれば、導入対象地域を近隣の1500平方キロメートル以上の保護区に拡大できる可能性がある。

「やがて、オーストラリア本土でごく普通にタスマニアデビルを見られる日が来ると信じています」とフォークナー氏は話す。「3000年前に彼らはここにいました。生態系から見れば、つい最近です」

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