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「貧困への逆戻りが起きる」ビル・ゲイツ氏に聞くコロナ下の世界

  • 2020年9月19日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団は2020年の年次報告書「ゴールキーパーズ・レポート」を公開し、新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)があらゆる指標において人類の健康と福祉に悪影響を与えていると分析した。

 このレポートは、極度の貧困、飢餓、ジェンダーの不平等を根絶するために国連が設定した持続可能な開発目標(SDGs)の達成状況を評価するもので、4刊目となる今回は、新型コロナの影響で、その目標のほぼ全てにおいて長年の進歩が後退したと指摘。パンデミックの終息には世界的な協力が必要であると訴えた。

 ビル・ゲイツ氏はナショナル ジオグラフィック英語版編集長スーザン・ゴールドバーグとのインタビューに応じ、各国が協力することでいかに今の流れを変えることが可能か、全世界に平等にワクチンを配布すればより多くの命が救われるとはどういうことかについて語った。以下にインタビューの要約を紹介する。

コロナの間接的な影響が死者を増やす

――ビルさん、この度はインタビューに応じてくださりありがとうございます。最新のゴールキーパーズ・レポートについてお伺いします。2018年に同じレポートが公開された際にもお話ししましたが、あの時とは状況がまるで変わってしまったことに驚いています。当時のレポートは今よりもずっと明るい内容で、全ての指標が正しい方向を示していましたが、新型コロナのせいでその全てにブレーキがかかってしまいました。このレポートはそれをよく物語っていると思います。「一瞬にして、健康危機は経済危機に、そして食糧危機、住宅危機、政治危機になった。全てが互いにぶつかり合っている」とありますが、このなかでどれが最も重要だと思われますか。この話をするには、まずどこから始めたらよいでしょうか。

ゲイツ氏 今おっしゃったように、これまではほとんどの年で、栄養不良や子供の死亡率が低下し、識字率が上昇し、全般的に人間の生活は少しずつ向上し、寿命も伸びていました。新型コロナがこれほど広い範囲に影響を与えているのは驚くべきことです。貧しい国では、コロナによる死者数という直接的な影響は、全体的な打撃と比較するととても小さいです。もっと重要なのは、元々脆弱だった医療システムが機能停止してしまったことです。ワクチン接種が滞り、マラリアを防ぐ蚊帳が配布されず、HIVの薬も届けられていません。アフリカでは、コロナの直接的影響よりもこうした間接的な影響によって死者数が劇的に増加するでしょう。

 ですから、まずは大規模な流行を終わらせることが第一です。その唯一のツールが、ワクチンです。それから、医療サービスを回復させること。ワクチン接種を受けられなかった子どもたちへの接種を進めることも大事です。ワクチン、医療サービスの回復、富裕国による支援、これらすべてで最善を尽くしたとしても、2020年の初めと同じ状態に戻すだけで2〜3年かかってしまいます。

ワクチンを公平に配布すれば生存率は高まる

――本当に、短い間に多くのことが変わりました。レポートの分析のひとつに、これは私も非常に驚いたのですが、ワクチンの配布が生存率にどう影響を与えるかという点があります。米ノースイースタン大学のモデルには衝撃を受けました。もし新型コロナワクチンが高所得国に最初に配布されれば、コロナによる死者が33%減少する見込みだが、全ての国に人口に応じて公平に配布されれば61%の命が救われる可能性があるとあります。その理由をお話しいただけますか。

ゲイツ氏 コロナによる死者は世界中で出ています。ワクチン配布のアルゴリズムが完全に公平性に基づくとは誰も言っていません。研究開発に資金を出した国へ多少傾くことはあるでしょう。けれど、ここである程度のバランスは必要です。製造能力を拡大できるようワクチンを購入することと、富裕国がその全てを買い占めることなく資金を提供することのバランスです。世界がこれほど多くの数のワクチンを必要としたことは今までなかったわけですから。

次ページ:貧困が悪化、富裕国が取るべき責任とは

一国で解決することはできない

――もし米国や他の富裕国がこの公平なアプローチをとらなかったとしたら、それらの国々は死者が増えることに対して道徳的な責任があると思いますか。

ゲイツ氏 私たちの財団は、「全ての命には等しい価値がある」をモットーにしています。富裕国による海外支援は、数千万人の命を救いました。「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」や、下痢や肺炎などのワクチン購入を支援する「ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)」のおかげで、世界にはある程度の公平性は保たれています。けれども、私たちの財団が1000ドルにつきひとりの命を救っているという事実そのものが、米国以外の国の命を同等の価値があるものとして扱っていないことを示しています。本当に極端な話です。

 これは、二重の過ちになってしまいます。というのも、これらの命を犠牲にするのかという話だけでなく、米国外の、世界のどこであってもコロナが存在し続ける限り、いつかは国内へ再び入ってきてしまいます。いつまでたっても元の生活に戻ることはできません。ですから、あらゆる健康危機のなかでも、これは本当に世界が一様に直面している問題なのです。

 韓国やオーストラリアなど、封じ込めに成功した国でも感染の再拡大を防ぐことに苦労しています。新規感染者数がどんなに少なくても、予防措置を取り続けなければなりません。これは生活に大きな支障をきたし、経済に多大な負担をかけます。ですから、私たちは人類全体のためにこれを解決しなければならないのです。それが正義であり、賢いやり方です。たとえ自分本位で考えたとしてもそうなります。

――レポートでも、その点を繰り返し述べていますね。世界的な問題を一国で解決することはできないと。世界的な解決にならないのではと心配なさっているように聞こえます。

ゲイツ氏 今のところ、米国は研究開発に豊富な資金を出していて、その点は高く評価されるべきです。6種のワクチンが来年初めにも政府の承認を受ける見通しです。ところが、そのワクチンを購入するための能力や支援金に関しての話し合いに、米国は加わっていません。

 期待はしています。議会はこれまで、HIVやマラリアなど世界的な公衆衛生には大きく貢献してきました。それなのに、今回はやけに静かです。できるだけ早くその状況が修正されることを望んでいます。この大規模な流行状態が続く限り、1カ月ごとに数兆ドルもの損害が出ています。ですが、ワクチンにかかる費用は数十億ドル。コロナを終わらせるのに必要なのはそれだけです。

貧困への逆戻りが起きる

――特に私が衝撃を受けたのは、貧困の増加です。これまで約20年間、貧困は減少傾向にありましたが、ここへきて突然、数千万人以上が貧困に追いやられてしまいました。レポートでは特に、女性に大きな負担がかかっていることに焦点を当てています。そのことについてお話しください。

ゲイツ氏 貧しい国では誰もが大変なのは確かですが、特に女性への負担が大きいです。ですから、今回の貧困への逆戻りという現象は全く平等ではありません。女性にしてみれば、仕事が増え、子どもはずっと家にいて、十分な食事の確保も難しい状況です。極度の貧困が起きていて、毎日食べるものが十分にあるのかなど、とても深刻です。

 持続可能な開発目標は、2030年までに極度な貧困の根絶を目指しています。これまではその目標に向かって順調に進んできました。特にアジアでの進歩は目覚ましく、貧困率は大きく低下しました。最も大変だったのはアフリカです。急速な人口増加に加え、気候変動の影響で農業の予測が困難になり、十分な作物が取れない年が何年もありました。多くの支援と、良質な種子を提供することで、アフリカもアジアのような奇跡を期待していました。ですが、今は極度の貧困解消という目標から3〜4年は後退してしまいました。

次ページ:この経験から学ぶべきこと

――このレポートでは良いニュースはごくわずかですが、それも理解できます。でも、コロナウイルスとの闘いから何か新しいイノベーションは生まれないでしょうか。何か、希望が持てそうなお話はありますか。

ゲイツ氏 今回、パンデミックについての警告を無視したことでこういう結果になってしまったため、米国を含め豊かな国は、今後脅威を深刻に受け止めるようになるでしょう。危機に備えたシミュレーションを行い、直ちに診断能力を大幅に拡大できるようにします。米国は特に、この面で最も後れを取ってしまいました。ワクチンプラットフォームは、パンデミックだけでなく、マラリアや結核、HIVのワクチンにも使えるように構築されるでしょう。

 戦時中と同様、私たちは迅速に行動し、新しいことを試しました。人々の生活スタイルという点でも、リモート診療やリモート教育が広まり、出張も減らしました。私たちの目は開かれ、ソフトウェアは発達しました。その分野での躍進は目覚ましいものがあります。

 それでパンデミックの悪影響がすべて相殺されるわけではありません。けれど、製薬会社の豊かな創造性のおかげで、現在6種ものワクチン候補があり、そのうちのいくつかは来年までには安全性と有効性が示され、承認される見通しが強いです。

 もしこのパンデミックが10年前に起こっていたら、インターネットはオフィス業務にとても対応しきれなかったでしょう。ワクチンプラットフォームも未熟でした。ですから、ワクチン開発で少しばかりの幸運と、ある程度の慈善事業、そしてワクチンの有効性を人々に訴えようとする真剣な努力によって、あと数年でこのパンデミックを終わらせることは可能だと言えるとは、驚くべきことです。

「ああ、このままずっと終わらないんじゃないか」といっているだけでは何も始まりません。幸いにも、科学と製薬会社ががんばってくれていますので、そうはならないでしょう。

私たちはまだ大きく遅れています

――最後に、米国は今回のことでパンデミックを深刻に受け止め、それに備えるべきであると学んだと思いますか。準備をしていたのに何も起こらないまま何年も経つと、また準備を怠ってしまうのではないでしょうか。でも今回のことで少しはその意識が長続きするでしょうか。

ゲイツ氏 これが終わった後で、分析は行われるでしょう。疾病対策センターは初動対応でつまずきました。おまけに、専門家そっちのけで事態は政治レベルまでエスカレートしてしまいました。そこでは、過ちを認めようという意思は皆無でした。いまだに結果を出すのに24時間以上かかる検査があるのに、「検査の問題は解決した」と言いたい気持ちがある。遅れて検査結果を出す検査企業に償還すべきではありません。ですから、私たちはまだ大きく遅れています。

 専門家に仕事を任せるべきだということはきっとわかったでしょう。また、検査薬やワクチンの製造を速やかに拡大するにはどうすればいいかに関しての研究開発もたくさん行われるでしょう。2015年に、私は「我々は次のパンデミックへの備えができていない」というタイトルで講演を行いましたが、今は違います。あと3年後には、次のパンデミックへの備えができているでしょう。

――次はもうないことを願います。でも、あったとしても前向きな意見が聞けて良かったです。ビルさん、最新のゴールキーパーズ・レポートについてお話しくださり、ありがとうございました。

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