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「一生に一度」級の危機、米オレゴン州の森林火災

  • 2020年9月17日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米国オレゴン州の東端、アイダホ州との州境近くにジョセフという小さな町がある。9月11日金曜日に筆者がこの町を訪れたとき、朝の空は澄み切っていた。しかし、州東部の住民たちにとって、同州の南部と西部で猛威を振るう災害が迫りつつある兆候は明らかだった。

 筆者が入ったカフェのウェイトレスは、ワローワ山脈を覆うもやを指さした。いまや、山々はもやに覆われて青い影にしか見えない。西風が吹き始めたので、B&B(1 泊朝食付きの小規模な宿)や土産物店が並ぶ美しい町並みも、まもなく灰と煙に覆われるはずだ。このカフェでも、2日後の日曜日には外のテーブルに客を案内できなくなった。

 新型コロナウイルスのパンデミックが発生して6カ月。警察の暴力と人種差別への抗議が起きた夏。そして今、オレゴンは第三の危機の渦中にある。気候変動によって激しさを増した森林火災だ。

 数十カ所で発生した火災は、この一週間で州の4000平方キロメートル以上(東京都の面積の約2倍)の森を焼き尽くした。空は煙で覆われ、ほとんどの場所で空気質指数(AQI)が「極めて健康によくない」または「危険」となっている。

 ポートランド、ユージーン、ベンドといったオレゴン州の都市は、世界の大気汚染ワーストランキングを急上昇している。オレゴン州環境課は、12日に州全体に大気汚染注意報を出した。

 ホテルや駐車場、スタジアムなどは緊急避難所になり、緊急事態管理室によると、4万人以上が避難命令を受けているという(当初は人口420万人の1割ほどにあたる50万人が避難対象と報じられていたが、それは誤りだった)。

 同じような事態は、ワシントン州やカリフォルニア州でも起きている。ワシントン州では3000平方キロメートル以上、カリフォルニア州では1万3000平方キロメートルほどが焼けた。専門家によると、気候変動がもたらす乾燥した暑い夏と強風の影響により、ここ数十年で最悪の森林火災が発生している。西海岸では、これまでに少なくとも35人が火災の犠牲になった。

 オレゴン州では、10人の犠牲者が出たことがわかっている。焼失面積は、この10年間の年平均の倍になった。ケイト・ブラウン州知事は、この事態を「一生に一度の出来事」と呼ぶ。フェニックスやタレントなど、同州の少なくとも5つの町が壊滅的な被害を受け、州の要請にもとづき15日には大統領による大規模災害宣言を受けた。

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あらぬ噂も拡散

 オレゴン州東部、ワローワ山脈のふもとに、人口2000人ほどの町エンタープライズがある。ログハウス風のポンデローサ・モーテルでフロント係を務める女性も動揺していた。同州南部で育ったという彼女は、父親が子どもたちのために建てた家が焼けたという。「もう私たちの家ではありませんが、それでも心が痛みます」

 避難命令によって、地域の人々はバラバラになった。子どものころに慣れ親しんだ風景が消えるのを遠くから見つめるしかなかったと話す彼女の目は、恐怖で大きく見開かれていた。

 森林火災と同じくらい早く広まったのは、極左団体の「アンティファ」が背後にいるという噂だ。

 オレゴン州では、白人警官の暴行による黒人死亡事件をきっかけに、5月末から人種差別に抗議するデモが相次いだ。連日のように催涙ガスや発煙筒まで使用される事態となり、デモの発生は9月5日で連続100日に達していた。

 アンティファ関与の噂がささやかれ始めたのは、ちょうどこの頃だ。複数の警察署がこの噂を否定しているが、ツイッターやフェイスブックの投稿を見て武装した抗議者が集まって道路を封鎖し、取材のために現地入りしたジャーナリストを追い返すという事態に陥っている。

 11日の金曜日、ジョセフから西へ車を走らせると、先の空を煙の壁が覆っているのが見えた。火が東に燃え広がっている証拠だ。空気はやがて黄色いもやに変わり、醸造所とカウボーイの町ペンドルトンでは、ほとんど視界がきかなくなった。交通量も減り、トレーラーと数台の乗用車だけになった。ここまで来ると、煙が相当濃くなり、高速道路を走っているのに谷間を走っているのか、平らな農地を走っているのかまったくわからなくなった。

 ポートランドまであと数キロというところで、風のおかげで少しだけ空が明るくなった。しかし、火災のにおいがする灰色の煙はまだ重く立ちこめている。高速道路沿いのガソリンスタンドにあるコンビニエンスストアに立ち寄ったとき、オートバイを降りて小さな二人の男性が入ってきた。一人は、店員のマスクを指さし、「ぼくらはそれは着けないよ」と言った。店員はうなずき、窓の外を見る。ワシントン州との州境となっているコロンビア川がすぐそこに流れている。それなのに「もうワシントン州すら見えないよ」と店員はつぶやいた。

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