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動物の“処女懐胎”、なぜできる? ヒトではなぜ無理なのか

  • 2020年9月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 大半の動物は、オスとメスが交配して繁殖する。だが、一部の動物はその有性生殖に際し、メスだけでも子を残せる。いわば処女懐胎だ。これは「単為生殖」と呼ばれ、ミツバチからガラガラヘビまで様々な生物で例がある。

 例えば2016年、オーストラリアのリーフHQ水族館で飼われているトラフザメの「レオニー」が飼育員を驚かせた。数年間オスとの接触がなく、他のメスと一緒に飼われていたにもかかわらず、産んだ卵から3匹の子サメが誕生したからだ。

 2012年には、米ルイビル動物園でアミメニシキヘビの「セルマ」が6つの卵を産み、健康な子が生まれた。セルマはオスを見たことさえなかった。2006年には英チェスター動物園でコモドオオトカゲの「フローラ」が同様の離れ業をやってのけ、飼育員を当惑させた。

実はいろいろある単為生殖

 通常、細胞には染色体という遺伝子の入れ物が2本ずつある。だが、精子と卵子は特殊で、1本ずつしかない。受精後に2本になるためだ。しかし単為生殖の場合、通常は精子から提供されるはずの遺伝子を、別の方法で卵子が埋め合わせる。そのパターンも、実はいろいろある。

 染色体が2本から1本に減って、精子と卵子ができるプロセスは減数分裂という。オスで精子ができるときは、単純に同じものが2つできあがるのに対し、メスでは分裂したうちの1つしか卵子にならない。余ったほうの小さな細胞は極体と呼ばれる。

 極体は通常、受精に関与しないが、極体と卵子が融合して子ができることがある。これを「オートミクシス(automixis)」という(「auto」はラテン語で「自分で」という意味)。

 オートミクシスはサメなどで記録がある。なお、オートミクシスでは母親の遺伝子がわずかに組み換わるため、生まれた子は母親の遺伝子のみを受け継ぐとはいえクローンではない。

 一方、減数分裂を経ずに、母親の染色体を2本もつ子ができるケースもある。この場合、遺伝子をシャッフルする減数分裂をまったく経ないため、生まれる子は親と全く同じ遺伝子を持つクローンになる。遺伝子のコピー・アンド・ペーストだ。この方式による単為生殖は、植物で多く見られ、「アポミクシス(apomixis、無融合生殖)」と呼ばれる。

 母親とまったく同じ遺伝子だから、このアポミクシスによって生まれた子は、当然メスになる。だが驚くべきことに、アブラムシでは、アポミクシスでオスが生まれる。どういうことだろうか?

 アブラムシではXXやXYというような染色体の組みあわせではなく、その本数によって性別が決まる。メスはX染色体が2本で、オスは1本。そう、子がX染色体を1本捨ててオスになるのだ。ちなみに、こうして生まれたオスには繁殖力があるが、X染色体を含む精子しか作れないため、その子はすべてメスになる。

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単為生殖できない哺乳類はマイナーな存在

 単為生殖は、動物がより単純なものだったはるか昔から存在したはずだが、脊椎動物のような複雑な動物にとっては、逆境に陥った種の最終手段の1つになったと考えられている。これが、砂漠や島に生息する種に単為生殖が非常に多い理由かもしれない。

 単為生殖をすることが知られている動物の大半は、ミツバチ、スズメバチ、アリ、アブラムシといった小型の無脊椎動物だ。彼らは有性生殖と単為生殖を切り替えることができる。

 脊椎動物でも80種以上で確認されており、その約半数が魚か爬虫類だ。とはいえサメ、ヘビ、大型のトカゲなどの複雑な脊椎動物が、単為生殖に頼ることはめったにない。だからこそ科学者たち当初、レオニーなどの例に困惑した。

 野生動物で単為生殖で生まれた子どもかどうかを確認するのは難しい。そのため、ある動物が単為生殖をした「初」の事例は、飼育下で確認されることが多い。いずれにせよ、脊椎動物の「処女懐胎」は、野生下だろうと飼育下だろうと、その動物にとって普通でない条件により引き起こされる珍しい現象だ。

 一方、哺乳類では、単為生殖で繁殖する動物は知られていない。哺乳類の遺伝子には、母親由来か父親由来かを示すラベルがあるからだ。これを「ゲノム刷り込み(インプリンティング)」という。

 哺乳類の特定の遺伝子では、どちらの親のものが発現するかが決まっている。ゆえに、親がどちらかの性だけだと全く発現しない遺伝子があり、子は生存できない。単為生殖できない哺乳類は、グループとしてみれば実にマイナーな存在だ。ただし、マウスなどのいくつかの哺乳類では、単為生殖を誘発する実験に成功している。

単独での生き残り戦略

 非常に珍しいが、単為生殖でのみ繁殖する動物もいる。その1つは、北米の砂漠に生息するハシリトカゲの一種で、なんと全員メスだという。

 ある種の昆虫や両生類、扁形動物では、精子が単為生殖の引き金となる。精子が卵子に侵入すると、単為生殖のプロセスが始まるが、精子はその後退化し、母親由来の染色体のみが残る。この場合、精子は卵の発生を誘発するだけであり、遺伝子は子に受け継がれない。

 単為生殖は、交尾相手を見つけるのにエネルギーを費やすことなく、自分の遺伝子を伝えることを可能にする。そのため困難な状況においては種の存続を助ける。例えば1匹のメスのコモドオオトカゲが、他の個体が生息しない島に上陸した場合でも、単為生殖により単体で群れを生み出すことすら可能かもしれないのだ。

 しかし、このようにして増えたコモドドラゴン母娘は、遺伝的多様性に乏しく、病気や環境の変化に対して脆弱だろう。例えば米ニューメキシコ州には、実際にそのようなハシリトカゲのメスの群れがいる。

 オスとメスの2つの個体がそろわないと子を残せない有性生殖より、1つの個体だけで済む単為生殖のほうが、数を増やすには効率がよい。有性生殖か単為生殖かは、多様性と量のどちらを増やすのかという問題ともいえる。

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