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地球最大の東南極氷床、温暖化で解ける恐れ、従来説覆す

  • 2020年7月31日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 地球上にある氷の8割を占める東南極氷床は、従来の予想より温暖化の影響を受けやすいかもしれない。

 これまで、地球最大の氷床である東南極氷床が最後に後退したのは約300万年前だと考えられていた。しかし、7月22日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された論文によると、この地域で採取された鉱物を分析したところ、40万年前にも大部分が崩壊していたことが示唆された。何よりも意外だったのは、長く続いたものの比較的穏やかだった間氷期に、劇的な変化が起きたと推定されたことだ。

 その時期の大気中の二酸化炭素濃度はさほど高くなく、300ppm程度だったと、米ネブラスカ大学リンカーン校で南極の氷河の歴史を研究しているデビッド・ハーウッド氏は説明する。

「それが怖いところです」とハーウッド氏は言う。というのも現代の二酸化炭素濃度は、すでに1915年には300ppmを超え、今では410ppmまで上昇しているからだ。40万年前は現在よりも海面が高かった。だが、この余分な二酸化炭素によって、今後数百年で地球の気温や海面は40万年前よりはるかに高くなる恐れがあると氏は懸念する。「未来にとって良い兆候ではありません」

 グリーンランドや西南極などの氷床は、来世紀には失われると予測されている。グリーンランド氷床は北極から遠く、暖かい空気にさらされているし、西南極氷床は海面よりかなり下にある岩盤の上に乗っていて、暖かい海流に触れているという事情がある。一方で東南極氷床は、酷寒の南極点を含むうえ、その大半が温暖な海から隔絶された陸地の上にあるため、比較的安定しているだろうと考えられていた。

「東南極氷床は何十年も無敵の鎧(よろい)を着ていました」と、今回の研究に参加した米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の氷河学者スラベク・トゥラチュク氏は言う。この氷床が縮小することなど、「つい最近まで、ありえないとされてきました」

 今回の発見が正しければ、東南極氷床は予想より早く海面上昇をもたらすことになるかもしれない。東南極氷床を含め、今後数百年で解ける可能性がある氷がすべて融解した場合には、海面は13メートル上昇すると予想されている。人類がこれまでに作り出してきた温室効果ガスは、この予想を確実なものにしてしまったのかもしれない。

ウランが来た道

 今回の発見の元になったのは、氷床のはるか下にある、白黒の繊細な結晶の層だった。トゥラチュク氏と、同じくカリフォルニア大学サンタクルーズ校の地球化学者テリー・ブラックバーン氏は、別の研究をしているときに偶然この結晶に出合った。

 2017年、両氏が東南極の海岸にあるテイラー谷を訪れたときのこと。目的は、ある謎を調査することだった。この谷から染み出してくる水に異常な高濃度のウランが含まれていることがわかっていたので、その理由を探りたかったのだ。

「ウランは別の場所から来ていました」と、ブラックバーン氏が指導していた博士課程の学生で、調査に同行したグラハム・エドワーズ氏は言う。氏らは氷床の歴史について興味深い事実が判明するかもしれないと期待して、ウランが来た場所を探しはじめた。

次ページ:岩石に刻まれた謎を解く

 ウランは核燃料として知られる放射性元素だが、世界中のあらゆる岩石や河川や海洋に微量に含まれている。そのほとんどはウラン238と呼ばれる重い同位体で、その中にわずかにウラン234という、ウラン238が放射性崩壊してできる軽い同位体が混ざっている。

 氷床が長期にわたって大陸を覆っていると、その下に閉じ込められた水の中に、ウラン234が徐々に蓄積していくことが知られている。氷床の下の岩石や砂利に含まれるウラン238が崩壊する過程により、生じたウラン234が水中に流出しやすくなり、時間とともに濃度が上がっていくという。

 テイラー谷を流れる水は、通常の2〜5倍という異常に高い濃度のウラン234を含んでいる。氷床の下で「この液体は、かなり長い間、岩石と接触していたのです」とブラックバーン氏は推測する。

 そこで、東南極氷床の下にあるウラン234の量を測定すれば、現在の氷床ができてからどのくらい時間が経ったかについて、手がかりが得られるのではないかと期待された。

岩石に刻まれた謎を解く

 しかし、氷床の下のウラン234を測定した人はまだいない。そこでブラックバーン氏とエドワーズ氏、それにトゥラチュク氏は、東南極氷床の下の水中で形成された鉱物を探すことにした。こうした岩石は、形成された時点の水中にウラン234がどれだけあったかを記録しているかもしれず、そこから氷床が最後に融解した時期を明らかできる可能性があるからだ。

 厚くて広大な氷床の下から岩石を見つけることなど夢物語のように聞こえるかもしれないが、彼らは氷の下の岩石が地表に出てくる場所を知っていた。テイラー谷から山脈を越えたところにあるエレファント・モレーンだ(モレーンとは氷河によって削りとられた岩石が堆積した地形または堆積物)。

 エレファント・モレーンは無数の岩で覆われている。これらの岩石は、氷河が氷の下にある山の尾根を越えて流れるときに、氷の下から持ち上げられてきたものだ。常に乾燥した風が吹いていて、氷の表面を1年に数センチずつ蒸発させるため、下から上がってきた岩石は最終的に表面に出る。

 1980年代に米オハイオ州立大学の科学者が、エレファント・モレーンから数百個の岩石を採取していた。そのほとんどは、氷床が大陸を覆う前に形成された花崗岩、砂岩、玄武岩だったが、それ以外にいくつか謎の結晶の塊があり、オハイオ州立大学に30年間保管されていた。これらの塊についての文献を読んだブラックバーン氏は、2019年にオハイオ州立大学から3点を入手した。

次ページ:分析の結果、過去の氷床後退が判明

 そのうちの1つの岩石は特に目を引くもので、紙のように薄い乳白色のオパールと、琥珀色や黒色の方解石の帯が年輪のように積み重なっていた。

 ブラックバーン氏は個々の層を切り取り、ウラン234と、そのウランが崩壊してできるトリウム230という放射性元素を測定することで、個々の層が形成された年代を決定していった。その結果、この層状になったこぶし大の岩石は、約27万年前から始まり、12万年かけて形成されたことがわかった。

 氏は次に、それぞれの層に含まれるウラン234の比率を測定した。氏は、どの層でも同じ割合になるだろうと予想していたという。「東南極氷床は何百万年も安定していたと思っていたからです」

 ところが結晶は、予想とはまったく違う事実を告げていた。連続したある2つの層に含まれるウラン234の量が、新しい層では古い層の50%も増えていたのだ。厳密な地球化学の世界では「これは非常に大きな変化です」とブラックバーン氏は言う。エレファント・モレーンから採取された他の2つの層状結晶からも同様の結果が得られた。

 氷が消えると、その下にあった水は海に流出し、ウラン234の濃度は低下する。ウラン234が再び蓄積しはじめるのは、再び氷床ができ始めてからだ。こうした変化が結晶中に記録されたのだ。この結果が意味するところはただ1つ。東南極氷床が最後に後退した時期が、これまで考えられていたよりも最近だと推定できるということだ。

 しかも、氷河の後退は小規模ではなかった、とトゥラチェク氏は言う。海水がエレファント・モレーンのところまで来るには、現在の海岸線から約700キロメートルも氷が後退しなければならない。エレファント・モレーンはウィルクス盆地と呼ばれる広大な地域の端に位置し、氷床の底部は海面下1500メートルまで落ち込んでいるため、深海の海流にさらされた氷は下側が解けてしまった可能性がある。

 トゥラチェク氏の推定では、氷床は30万平方キロメートル(本州と北海道本島を合わせた面積にほぼ等しい)にわたって数百メートルも薄くなり、底がはがれて海に浮かぶ形になった。もろくなった氷床は上流の氷を支えきれなくなり、ウィルクス盆地では100万立方キロメートル以上の氷が失われた。これは、海面を3〜4メートル上昇させるほどの量に相当する。

歴史は繰り返す

 今回の研究により、これまで謎とされていた詳細な事実が明らかになったと歓迎するのは、米ラモント・ドハティ地球観測所の海洋地質学者モーリーン・レイモ氏だ。氏が調べている古代の海岸線は、今日の海面よりはるかに高い位置にある。

 砂や貝殻のほか、エビの巣穴の化石などが見つかるこれらの古い海岸線は、海面が今より高かった時期が過去に何度もあったことを示している。40万年前もそうした時期の1つであり、当時の海面は今日より10〜13メートルも高かったと氏は見積もっている。

 グリーンランドや西南極など、世界各地の氷河が融解した場合、海面は9メートル上昇する可能性がある。ここに東南極のウィルクス盆地の氷の融解による3〜4メートルの上昇が加われば、先ほどの推定値と「完全に一致します」とレイモ氏は言う。

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