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年間のプラスチックごみ流出、2040年に倍増

  • 2020年8月1日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 海洋プラスチックごみの年間流出量は、このまま手を打たないと2040年に2900万トンになるとの最新の予測が発表された。2016年に比べて約3倍、現在の2倍以上の流出量だ。

 この予測は、米国の非営利団体「ピュー慈善信託」と英国の環境シンクタンク「システミック」が2年かけてまとめ、このほど発表した報告書『Breaking the Plastic Wave(プラスチックの波を破壊する)』によるもの。驚くべき数字は、これまで世界が取り組んできたプラスチック削減策が、いかにうまくいっていないかを浮き彫りにしている。だが報告書は同時に、海に流出するプラスチックの量を大幅に削減するための大胆な計画も提示している。

 自然界で分解されないプラスチックがどれだけ海に蓄積しているのかは、誰にもわからない。2015年に出された最も正解に近いと思われる数字は、約1億5000万トンだった。この数字が正しいと仮定すると、このまま何もしなければ2040年には6億トンに膨れ上がるとみられている。

 今回の報告書が提案するのは「システム変革シナリオ」。世界のプラスチック産業をリユースやリサイクルといった循環型経済へ移行させ、この産業全体を再構築することだ。うまくやれば、既存技術だけで、20年後におけるプラスチックごみの推定流出量を最大80%削減できるという。だが、対策の開始が5年遅れると、さらに8000万トンが海に流出すると警告する。

 システム変革シナリオには6000億ドル(約63兆円)がかかるというが、20年間何もしないでいる場合に比べると、700億ドル(約7兆3500億円)節約できる。主にバージンプラスチック(リサイクル素材を使わないプラスチック)の使用を減らせるためだ。「システム全体の問題は、システム全体の変化を必要とします」と、報告書は指摘する。

 これまでも、海洋プラスチック問題には数多くの提言がなされてきたが、今回の報告書はプラスチックごみ問題が重大な局面を迎えたこの時期に発表されたことに意味がある。

 今や海洋プラスチック汚染は世界の環境問題の最優先課題に上り、ほぼすべての国で使い捨てプラスチック削減運動が巻き起こっている。一方で、それとは逆行するように、世界のプラスチック生産量は2030年までに40%増加するとみられ、プラスチック製造工場の建造に巨額の投資が行われている。

 これは、プラスチック削減に向けた対策が追い付いていないことを示している。報告書によれば、現状の産業界と政府の公約が2040年までに達成できたとしても、プラスチックごみの海への流出量はわずかに減らせるにすぎない。

「私たちは今、岐路に立っています」と、環境保護団体オーシャン・コンサーバンシーの海洋ごみプログラムを監督するニコラス・マロス氏は言う。「産業界は『もっと努力する』と言い、政府は措置を講じてきました。けれどこの報告書を見れば、今の努力だけでは十分でないと気づくでしょう。世界は誤った方向へ向かっています。私たちは、プラスチックとの付き合い方を根本から考え直さなければなりません」

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産業界を動かせるデータを求めて

 プラスチック削減対策に欠けているものは、産業界の意思決定を導く経済データであると結論付けたピューは、2018年にこのプロジェクトを開始した。具体的な数字がなければ、情報に基づく選択をするよう企業を説得することはできないと、ピューの海洋プラスチックと沿岸湿地プログラムを率いるサイモン・レディ氏は考える。「未来の地球がどんな状態であってほしいかを、私たちは決めなければなりません。けれど、そのために必要なデータを持っていませんでした」

 そこでチームは、英国のオックスフォード大学が作成した経済モデルを使って予測を立てた。レディ氏は、このモデルを様々な地域におけるプラスチックごみ削減へのロードマップとして使えると話す。政府や企業がこのモデルにごみデータを入力すると、それぞれの地域に合わせた評価や解決案が示される。この研究には、英国のリーズ大学、エレン・マッカーサー財団、コモン・シーズなどから、最終的に100人以上の専門家が関わった。

 モデルは、どんな対策をすればどれだけコストがかかり、どれだけ海に流出するプラスチックの量を減らせるかを算出している。例えば、プラスチックの無駄づかいをやめ、容器を使い回すなどで30%減、プラスチックのかわりに紙袋などを使う「代替策」で17%減といった具合だ。

「石油は地中に埋めたままにしておいて、既にシステムに出回っているプラスチックを循環させていかなければなりません」と、再利用経済への移行を目指す非営利団体エレン・マッカーサー財団の最高経営責任者アンドリュー・モーレット氏は語る。

プラごみが世界を埋め尽くした理由

 プラスチックごみが増える大きな要因は、世界人口の増加とプラスチック製造量の増加にある。特に開発途上国を中心に、1人当たりのプラスチック使用量は増加する一方だ。例えばインドでは、中産階級が拡大する一方で、ごみの収集体制が確立していない。また、安価で低品質のバージンプラスチック製品が増えているが、それらはリサイクルが困難で、ごみ問題に拍車をかけている。

 バージンプラスチックの使用量を減らすにはリサイクルが最も効果的な方法だが、そのためにはまず回収作業が必要になる。ところが現在、世界の20億人が回収サービスにアクセスできないでいる。その数は、2040年までに2倍の40億人に増えるとみられており、その多くは途上国の農村部に住む人々だ。

 この格差を埋め、2040年までにすべての人に回収サービスへのアクセスを提供するには、今すぐに開始したとしても毎日新たに50万人へ提供を始めなければならない。とうてい不可能と思われる数字だが、世界規模でのごみ削減がどれほど大変な問題なのかを示すため、今回の報告書に含められた。

「まず無理でしょうね」。システミックのプロジェクトマネージャー、ヨニ・シラン氏は言う。「もしそれができないのであれば、もっと賢いシステムを作り出すことです」

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が、事態をさらに悪化させた。原油価格の急落で、バージンプラスチックの製造価格はこれまでにないほど低下した。消費者はウイルスに敏感になり、商品を保護する使い捨て包装プラスチックの需要が急増した。

 だが、希望の光も見えると、システミックの共同創立者であるマーティン・スタッチー氏は話す。コロナ以前、産業界ではシステム全体の変革はあまりに規模が多すぎて、時間も金もかかるという根強い抵抗があった。だが、コロナ流行でトイレットペーパーや消毒液などの商品があっという間に不足し、供給システムは混乱し、物流が根本からひっくり返されたことで、そうした主張が誤りであったことが明らかになった。

「サプライチェーンがいかに迅速に変わり、体制を立て直せるかが示された出来事です。これまで信じられなかったことが、信じられるようになりました」と、スタッチー氏は言う。

人々の心をつかむ

 プロジェクトを監督したピュー慈善信託のウィニー・ラウ氏は、業界大手からの抵抗は気にならないと話す。「私たちの研究結果がどんなに素晴らしくても、すべての人の心を変えることはできません。私たちの目的は、この問題解決のカギを握る人々の心を変えることです。その人たちがリードし、企業の新たな基準を作ってくれるでしょう。あとは、私たちの努力次第です」

同プロジェクトの完成を祝って7月にロンドンで開かれた式典には、消費財メーカーの大手ユニリーバ社の最高経営責任者アラン・ジョープ氏が来賓として招かれていた。同社は昨年、バージンプラスチックの使用を半分に減らし、販売数以上のプラスチックを回収して加工するための支援を行うと約束した。こうした取り組みが出発点となるだろう。

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