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世界最大のサメ、ワニ、クモ 巨大生物が教えてくれる意外なこと

  • 2020年8月2日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 畏敬の念や恐怖を抱いたり、魅了されたり。人々は大きな動物に夢中だ。

 だから「ディープ・ブルー」と名付けられた全長約6メートルのメスのホホジロザメが、クジラの死骸を食べただけでニュースになるのも無理はない。ディープ・ブルーは、これまでに撮影されたどのホホジロザメよりも大きい。

 同じ理由で世界にその名が知られているイリエワニが「ロロン」だ。ロロンはディープ・ブルーよりさらに大きく、全長6メートル17センチもあった。ギネス世界記録にも認定されたが、残念ながら2013年に生涯を終えた。

 米ナショナル ジオグラフィック(TV)は近く、科学者たちがフランス領ポリネシアで「カマカイ」という名のメスのイタチザメを捜索した様子を放映する。映像が残るイタチザメの中では、カマカイは最大級の個体と考えられている。(日本のナショジオ(TV)では2020年8月に番組「シャーク:牙を剥く狂気」や「イタチザメ 知られざる夜の素顔」を放送予定)

 しかし、こうした巨大な動物たちはセンセーショナルなだけではなく、科学的な教訓をいくつも与えてくれると、専門家は口をそろえる。

「大きなサメのニュースをただ伝えるだけのことに価値はあるのでしょうか? 答えはノーです」と、非営利団体「OCEARCH」の創設者兼会長クリス・フィッシャー氏は話す。OCEARCHはサメのデータ収集を専門とする組織で、世界最大級のホホジロザメにタグを付けて追跡している。

 こうした巨大な動物を安全に捕獲し、試料を採取し、タグを付け、生息地に戻せば、科学に役立てることができると、フィッシャー氏は話す。例えば、ディープ・ブルーのような巨大なメスを追跡すれば、「ホホジロザメが交尾、妊娠、出産する場所」がわかる。

 また、ホホジロザメをはじめ絶滅の危機にさらされている種であれば、こうしたデータを集めることが、種を守り個体数を増やすために極めて重要だと、フィッシャー氏は補足する。

次ページ:巨大生物が過去をのぞき見る窓に

過去をのぞき見る窓

 巨大な動物を記録すべき理由はほかにもある。それらは、過去について教えてくれるのだ。

「巨大な動物はデータポイントとして極めて有益です」と話すのは、米テネシー大学で古代のワニを研究するステファニー・ドラムヘラー=ホートン氏だ。

 例えば、「スーパークロコダイル(SuperCroc)」の愛称を持つ全長約12メートルのサルコスクス・インペラトル(Sarcosuchus imperator)が白亜紀に何を食べていたかを知りたければ、現生種で最大級のワニの食性が参考になる。2011年にフィリピンで捕獲され、2013年に死亡するまで飼育されていたロロンは、野生下では魚や鳥、哺乳類のほか、家畜まで捕食していたと考えられている。

「古生物が何を食べていたのかは、現生種から推測できます。最大級の個体を調べることは有効な方法です」とドラムヘラー=ホートン氏は説明する。

 さらに、今生きている個体の大きさは、現生種が狩猟や漁獲といったヒトの営みの影響を受け、どう変化してきたかを理解する助けにもなる。

「オニイトマキエイやジンベエザメなど、巨大な動物の歴史的記録を調べれば、昔は現在の海で見られる個体よりかなり大きかったことがわかります」。こう話すのは、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー、アンドレア・マーシャル氏だ。氏は、米カリフォルニア州に本部を置き、モザンビークに研究センターがある「海洋大型動物保護財団(Marine Megafauna Foundation)」の共同創設者でもある。

 つまり人間は、「最も大きく、高齢で、成熟した個体をすべて捕り尽くしたということです」とマーシャル氏は言う。動物保護活動家にとっては、種を元の状態に戻すことに本気で取り組む必要があることを意味する。

大きさが裏目に出ることも

 巨大な体になるまで生き残ったのは、遺伝子や健全な生態系など条件がそろっていたためだ。ただ、体が大きくなれば、そのぶん狙われやすくもなる。

 先史時代を連想させる見た目の淡水魚アリゲーターガーは、米国南部に生息し、全長2.5メートル、体重140キロ近くまで成長する。

「一定の大きさまで成長すれば、捕食者に狙われることはほとんどありません」と、米ルイジアナ州にあるニコルス州立大学の水圏生態学者ソロモン・デイビッド氏は説明する。

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 しかし、十分に成長したアリゲーターガーでさえ、狩猟用の弓具を持った人間にはかなわない。デイビッド氏によれば、あまりに多くのアリゲーターガーが「トロフィー(趣味の狩猟での記念品)」として殺されており、現在、一部の生息域では消滅の恐れがあるほど希少なこの種に悪影響が出ているという。

 研究によれば、オオツノヒツジの場合、巨大な個体ばかりを人間が捕まえてきたことが、角の小型化につながっている可能性がある。また、密猟が原因で、牙のないゾウが生まれる割合が増えていると示唆する研究結果もある。

「私たちは群れの中で最も大きくて最高の個体を仕留めようとします」とデイビッド氏は言う。つまり、巨大な体をつくる「遺伝子を、私たちが取り除いているのです」

大型の種の陰で忘れられる小さな種

 巨大な動物に魅せられることには、同時にマイナス面があることも示している。規格外の大きさをもたない他の動物への関心が薄れることを心配する専門家もいる。その一人が、サメやエイなどの軟骨魚類の保護団体「フィンズ・ユナイテッド・イニシアティブ」を創設した海洋生物学者メリッサ・クリスティーナ・マルケス氏だ。

 約500種いるサメの中には、マモンツキテンジクザメ、ホンカスザメ、ミツクリザメなど、あまり知られておらず、比較的小さな種もたくさんいると、マルケス氏は話す。

 特に、ホンカスザメは人々の関心を必要としている。海底にすむホンカスザメは、生息域の80%以上が20世紀以降に消え去り、サメとエイの中で2番目に絶滅に近い種とされているためだ。

「シュモクザメ、イタチザメ、ホホジロザメなど、“カリスマ性”のある巨大なサメだけに注目が集まると、ほかのすべての種が日陰の存在になってしまいます」とマルケス氏は話す。

 一方「『最大』のような表現を用いることで、普段はあまり関心を持たれない動物に人々の注目を集めることも可能だ」と述べるのがイタリア学術研究会議の生態学者ステファノ・マンモーラ氏だ。氏は2017年に、クモにまつわる99の記録を集めた論文を学術誌「PeerJ」に発表している。

 例えば、南米に生息するルブロンオオツチグモは世界で最も重いクモで、体重は約170グラムに達する。ラオスの洞窟に暮らす巨大なアシダカグモ属(Heteropoda maxima)は、脚を広げた幅が約30センチと最も長い。

「クールな特徴、つまり少し極端な面に注目してもらえれば、(クモの)魅力がもっと伝わると思います」とマンモーラ氏は述べる。「そうすれば、これまで無視されがちだったクモという生き物に対して、人々が関心をもつきっかけになると思うのです」

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