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ツンドラで山火事が多発、科学者らに衝撃、熱波のシベリアで

  • 2020年7月10日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 人為的な気候変動に加えて晴天が続いたことにより、ここ数カ月の間、シベリアが猛暑に襲われている。この熱波は、6月に北極圏の気温を38℃まで上昇させたのみならず、大規模な山火事にも拍車をかけており、永久凍土層のあるツンドラまでが現在、炎に包まれている。

 気温が低く、水分が多く、凍っているために、本来であれば燃えるはずのない地域で山火事が相次いでいるというこの事態に、生態学者や気候科学者は懸念を募らせている。彼らが恐れているのは、この火災が北極圏における急激な変化のさらなる兆候かもしれないこと、そして、局地的にも世界的にも連鎖的な影響を及ぼすことだ。

 もし、ツンドラで火災が常態化すれば、生態系全体が劇的に作り変えられる。そこでは新たな種が優位となって、さらに火災が発生しやすい状況ができあがるかもしれない。火災そのものもまた、凍った有機物として何百年も蓄積されてきた炭素を放出させ、地球温暖化を加速させる可能性がある。

「この火災は、今のところはまだ気候変動に大きく寄与しているわけではありません」と、英ロンドン大学スクール・オブ・エコノミクスの環境地理学者トーマス・スミス氏は言う。「ただし、これまでとは違う何かが起こっている兆候であることは確かです」

より北に広がる炎

 シベリアで過去、夏に大規模な火災が発生した例はある。しかし、2020年はどうやら、ロシア北極圏にとって火災の当たり年のようだ。

 欧州中期予報センターの上級研究員マーク・パリントン氏によると、火災がシベリアに広がり始めたのは6月中旬だった。火事の熱出力の指標である「火炎放射強度」の1日あたりの水準は、2019年(同じく火災が極端に多かった年)に匹敵し、少なくとも2003年以降に北極圏で観測されてきたレベルをはるかに超えている。ロシアの林野庁は、シベリア東部のサハ共和国、チュクチ地域、マガダン地域では、広さ数千平方キロメートルもの土地が炎に包まれていると推測している。

 火の勢いが極めて激しく、広範囲に及んでいることに加えて、科学者らが衝撃を受けているのは、北方への炎の広がりと、燃えている生態系の種類だ。

次ページ:尋常ではない数と範囲、終息にはほど遠い熱波

 スミス氏は、土地被覆図と衛星データを用いてこの件に関する調査を行ってきた。その結果わかったのは、膨大な数の火災が北方林を燃やしているうえ、多くの火災が、それよりもさらに北のツンドラや、炭素が豊富な泥炭地にも燃え広がっているということだ。いずれのケースにおいても、現在燃えている生態系の地下には永久凍土層がある。

 ツンドラの火災は前例がないわけではないが、一度にこれだけの数が、これだけの広範囲で発生するというのは尋常ではないと、スミス氏は言う。

 火災にまつわる地理的な記録が更新された可能性もある。6月下旬、欧州宇宙機関(ESA)の衛星センチネル2号が、北緯73度付近で複数の火災が発生しているのを観測した。衛星による地球観測の専門家、アンナマリア・ルオンゴ氏によると、これは2003年以降の観測史上、最も北で起こった火災だという。6月30日に観測された直近の火災は、北極海の一部であるラプテフ海の海岸から、わずか数キロの距離で発生している。

「炎がラプテフ海の入り江の10キロ南で燃えているのを見たときは、やや衝撃を受けました。あの海はいわば、世界の海氷の工場のようなものですから」と語るのは、米マイアミ大学で火災を研究するジェシカ・マッカーティー氏だ。「学部生として火災科学の世界に入った当時、もしだれかから、将来はグリーンランドと北極圏の火災を研究することになるよと言われたなら、わたしは笑い飛ばしたでしょう」

 こうした火災の根本的な原因は熱だ。2019年12月以降、シベリア全土の気温は平年をはるかに超えている。暖かい晴天をもたらし、積雪を早い時期に融解させた高気圧の尾根が、一帯の上空に留まっているためだ。シベリアの街ベルホヤンスクが気温38℃を記録した6月中旬以降、暑さはわずかに後退しているものの、終息にはまだほど遠い。ラプテフ海の近くで火災が観測されたその日、同地域の気温は34℃に達していた。

「わたしから見て本当に衝撃的なのは、例年と比べて暖かい気温が、何週間、何カ月と続いていることです」と、米コロラド州立大学の気候科学者、ザック・ラベ氏は述べている。

 こうしたさまざまな事象の根底には、長期的な気候変動による温暖化がある。北極の気温は世界平均の2倍以上のスピードで上昇している。

次ページ:解き放たれる炭素

 マッカーティー氏によると、この暑く乾燥した天候のせいで、ツンドラの植生は干上がり、燃えやすくなっているという。「腐葉層」と呼ばれる、地面に堆積する腐りかけた有機物の層もまた、徐々に温まり、乾燥してきている。

 スミス氏はまた、最近の暑さによって、通常は一年中凍ったままの深い永久凍土層でも融解と乾燥がさらに進行しており、季節ごとに融解を繰り返す「活動層」が増えているのではないかと考えている。「熱波によって、あらゆるものが燃えるレベルまで引き上げられているのです」と、スミス氏は言う。

解き放たれる炭素

 北極圏の研究者らが最も懸念しているのは、こうした火災の一部が、ツンドラの地下に何世紀にもわたって蓄積されてきた、炭素を豊富に含む有機物層まで燃やしているのではないかということだ。

「火災の大きさと温度から見て、燃えていないはずがないと、わたしは考えています」と、米国立航空宇宙研究所の准研究員で、シベリアの山火事の専門家であるアンバー・ソーヤ氏は言う。炎が地下深くまで広がると、温室効果ガスが大気中に放出され、北極の温暖化と永久凍土層の融解がますます促進されることになる。より差し迫った懸念は、地中での火災が熱を放出し、それによって融解と永久凍土層の燃焼に拍車がかかることだと、ソーヤ氏は言う。

 今年の火災によってどれだけの量の炭素が放出されているのか、また永久凍土層がどの程度融解しているのかは定かではないものの、科学者らはこうした点についてぜひとも調査したいと考えている。このほか、長期的には、熱の絶縁体として機能している土壌の上層部が火災によって取り除かれ、永久凍土層の劣化を招く可能性もある。永久凍土層が劣化すれば地面が崩れて、解けた氷が地表に湖を作る。これは2007年にアラスカの北斜面で発生した大規模なツンドラ火災の後で目撃された現象だ。

 こうした火災が、北極圏の繊細な生態系バランスにどのような変化をもたらすかということもまた、重要な問題だ。

 ソーヤ氏によると、激しい火災に見舞われた北方林はときに、「火成ツンドラ」に変化することがあるという。「火成ツンドラ」は、炎によって樹木が焼かれ、土中に蓄えられていた種子も燃やし尽くされた後で、代わりに草が優勢になることによってできあがる。

 一方、もともとツンドラである土地が焼かれると、場合によっては低木が根を張りやすくなり、景色の色が暗くなることでより多くの熱が吸収され、将来的に火災が発生する可能性が高まる。また、気候変動によって樹木限界線がじわじわと北上を続ければ、北極圏にさらに火災の燃料が増えることになる。

「生態系に関しては、この先どうなるのか、わたしにはわかりません」と、ソーヤ氏は言う。「火災はかなり北の方で起こっています。被害は広範囲に及んでいます。回復には長い時間がかかるでしょう。もしかすると、まったく回復しないかもしれません」

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