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新型コロナ、米NYの高い致命率が判明、従来のほぼ倍

  • 2020年7月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米テキサス大学オースティン校のデータ科学者ジェームズ・スコット氏が不安を感じ始めたのは、5月下旬のことだった。テキサス州が企業活動や公的な集会に対する規制を緩和してから1カ月ほど経った頃だ。

 スコット氏は、携帯電話の移動データを利用して人々の移動パターンの変化をつかみ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者数を予測するモデルを開発していた。レストラン、バー、ジム、コンサート会場を訪れる人の劇的な増加を目の当たりにした彼は、テキサス州の感染者数が急増するのは時間の問題だと感じた。「風向きを知るのに天気予報官はいらないと、ボブ・ディランも歌っていたでしょう?」と彼は言う。

 テキサス州を始めとするいくつかの州では、ソーシャルディスタンスを確保するためのガイドラインを緩和した後、ここ数週間で新型コロナウイルスの感染者が急増している。これまでのところ死者数はさほど増えていないが、専門家は、新型コロナウイルスが弱毒化したわけではないと警告している。

 死者数があまり増加していない理由の1つは、この感染症は患者が死に至るまでにある程度時間がかかる上、お役所仕事のせいで死亡者数の記録に余計に時間がかかっているからだ。たとえば今日の死亡者は、3〜4週間前に感染していた可能性が高い。

 新型コロナウイルス感染症の致命率の見積もり方がわかってきた今では、その数字が憂慮すべきレベルであることも明らかになった。「感染致命割合(IFR: Infection Fatality Rate)」という、過去数カ月分のデータを使った非常に複雑な最新の計算結果から、新型コロナウイルス感染症の致命割合は季節性インフルエンザより50〜100倍も高いことが示されている。

 米国をはじめ、感染者数が急増している国では、現在と同じ対応をしていては夏から秋にかけて恐ろしい事態になると予想される。

 オーストラリア、ウーロンゴン大学の疫学者で、自称健康オタクのギデオン・マイヤーウィッツ・カッツ氏は、現時点での米国の死亡者数を引き合いに出し、「12万8000人という死亡者数が途方もない数字であることを理解するのに、多くの計算をする必要はありません」と言う。

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感染致命割合1.45%の意味は

 問題は、事態がどのくらい悪化するかということだ。

 アウトブレイク(集団感染)が始まった当初、多くの人が、新型コロナウイルス感染症の致命率として、死亡者数を確定診断がついた患者数で割った「症例致命割合(CFR:Case Fatality Rate)」を用いていた。しかし、感染しても無症状の人が多く、こうした人々は患者としてカウントされないことが明らかになってからは、あまり用いられなくなった。

 今、世界各地のパンデミックの流行の移り変わりを数カ月にわたって調べてきた科学者たちは、症例致命割合と似ているが、より包括的な指標である「感染致命割合(IFR:Infection Fatality Rate)」に目を向けている。感染致命割合は、確定診断がついていない患者や無症状の感染者を推定し、それらも含めた感染者全員を分母にとり、この病気で死亡する割合を数値化したものだ。こうした計算は、季節性インフルエンザでは毎年行われている。

 マイヤーウィッツ・カッツ氏の説明によると、感染致命割合を推定する方法は2つあるという。1つは、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べる血清学的検査を用いて感染者数を推定する方法だ。この検査では、症状が出ていなくても感染の履歴を明らかにできる。もう1つは、確定診断がついた患者数と無症状の感染者数の推定値についてわかっていることに基づき、統計学的手法を用いて感染者の総数を推定する方法だ。

「一般に、血清学的検査では感染致命割合の推定値は低くなり、統計学的手法では高くなる傾向にあります」とマイヤーウィッツ・カッツ氏は言う。

 米コロンビア大学の疫学者は、3月1日から5月16日までのニューヨーク市の大規模なアウトブレイクのデータに基づき、統計学的手法を用いて感染致命割合を推定した。その結果は、査読を受けていないプレプリント(予稿論文)として6月29日に公開されたが、新型コロナウイルスの致命割合が当初考えられていた以上に高い可能性があることを示していた。

 彼らのデータによると、新型コロナウイルス感染症の感染致命割合は1.45%だった。この数字は以前の推定値のおよそ2倍であり、ソーシャルメディア上で広く共有されている誤った数字よりもはるかに高い。死亡リスクは年齢によって大きく異なり、75歳以上の感染致命割合は13.83%と最も高くなっている。

 マイヤーウィッツ・カッツ氏は、ブログ投稿プラットフォーム「ミディアム(Medium)」に発表した独自の分析において、インフルエンザと世界各地の新型コロナウイルス感染症の感染致命割合を比較している。新型コロナウイルス感染症と同じく、インフルエンザも軽症や無症状の感染者が多い。米国疾病対策センター(CDC)によるインフルエンザの重症度の計算の多くはこうした患者の数は考慮しておらず、入院者数を使用している。インフルエンザについては、医師や病院は、大掛かりな治療を必要としない軽症の患者はあまり気にしていないのだ。

 マイヤーウィッツ・カッツ氏は、季節性インフルエンザの感染致命割合を計算した数少ない研究を用いて、感染者10万人あたり1〜10人が死亡していると見積もった。氏の計算によれば、新型コロナウイルスの致命割合は季節性インフルエンザの50〜100倍になると考えられ、コロンビア大学の分析結果を裏付けている。つまり最悪の場合、新型コロナウイルス感染症では、感染者10万人あたり500〜1000人が死亡する計算になる。

 マイヤーウィッツ・カッツ氏は、これらは理論的な数字であると念を押す。「これから最悪の状況になるのだと言っているわけではありません」。しかし、ソーシャルディスタンスにストレスを感じている市民に現状を理解させるには有益だ。

次ページ:感染を広げる若者たち

お役所仕事による報告の遅れ

 新型コロナウイルス感染症の真の致命割合を見きわめるのが困難な理由の1つに、死亡者数をタイムリーに追跡するのが非常に難しいことが挙げられる。死亡事例を記録し、その死因を特定することは、公衆衛生の基本だ。現在のコロナ禍のような混乱がなく、比較的余裕のある状況であっても、米国では、州当局が死亡の報告を受け取るまでに数日かかることがある。州はその後、CDCの国立健康統計センターにデータを転送し、ここで死亡とその原因が記録される。

 新型コロナウイルスによるパンデミックの深刻さを受け、CDCは死亡診断書の情報の確認をコンピューター任せにせず人力で行うことにし、確認が終わってから正式に集計に追加するようにした。コロラド州公衆衛生環境局の人口動態統計プログラムのマネージャーであるカーク・ボル氏によると、3月時点から比べるとこの作業は格段に速くなったが、それでもまだ新型コロナウイルスによる死亡が正式に記録されるまでに1週間前後かかっているという。

 ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターの疫学者であるジェニファー・ヌッツォ氏によると、お役所仕事だけでなく、この疾患の特徴も、感染の早期把握を困難にしているという。新型コロナウイルスに感染した人の症状が出始めるのは平均して4〜5日後で、2週間かかる人もいる。

 CDCの分析から、重い呼吸困難が始まるのは発症から5〜8日後で、ICUに入るのは最初に症状が出てから10〜12日後であることがわかった。カリフォルニア州とワシントン州で新型コロナウイルス感染症により死亡した患者の入院日数の平均は12.7日だった。すべての日数を足し合わせると、人によっては感染から死に至るまでに1カ月以上かかることもある。

感染を広げる若者たち

 感染者数が急増しているわりに死者数があまり増加していないのは、患者の年齢が要因となっている可能性がある。これまでの数カ月間と比較して、最近は35歳未満の若者の感染が増えている。若者は高齢者に比べて死亡する率が低い。南フロリダ大学の疫学者ジル・ロバーツ氏は、若者の感染者数の増加だけでなく、若者が高齢者にウイルスを感染させて、高齢者が重症化してしまうことを懸念している。

 6月19日、CDCは5月上旬に実施した米国の4042人の成人を対象とするアンケート調査の結果を公表した。それによると、18〜29歳の人の43.1%は、ソーシャルディスタンス命令が解除されれば安全になったと感じるだろうと回答したのに対し、65歳以上ではその割合は19.2%にとどまっていた。ロバーツ氏とヌッツォ氏は、接客業につく人は伝統的に若者が多いと指摘する。こうした業種が再開すれば、労働者はもはや自己隔離ができなくなるかもしれない。

「私たちは若者をターゲットにしなければなりません。彼らは動き回ります。病気を蔓延させているのは彼らなのです」とロバーツ氏は言う。

 若者が新型コロナウイルス感染症で死亡するリスクは依然として低いものの、高齢患者の対応に病院が手一杯になっている時期に、多くの若者も入院することになる。3月の時点で、米国の病院に入院している患者のうち50歳未満の成人の割合は約25%だったが、ロックダウンの解除が始まった5月初旬以降に高まり続け、6月下旬には40%を超えている。

「入院を必要とする人が増えれば増えるほど、質の高いケアを提供することは難しくなります」とヌッツォ氏は言う。「医療従事者は本当に長い間、ノンストップで働いているのです」。

 つまり、最近の医療センターの状況は、すべての年齢層の死亡率を上昇させる可能性があるということだ。死亡率が急激に上昇し始めるのは時間の問題だと、スコット氏は言う。

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